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社員7割が常時利用!Hakuhodo DY ONE流・AI活用 「一部しか使わない」壁をどう超えたか

 生成AIが使える社内環境は整えたものの、実際に使っているのは一部の社員だけ──。今、そうした状況に多くの企業が直面している。そんな中、Hakuhodo DY ONEは約1年で週次アクティブユーザー数を4倍以上に拡大させ、今では現場の社員が自らAIアプリを自作するまでに生成AI活用が根付いている。その推進役となったのが「社内啓蒙チーム」だ。本稿では、本プロジェクトの推進メンバーである宮田風花氏と青木奏芽氏にインタビュー。同社での具体的な生成AIの活用法や、研修の設計、そして自社の知見を「クライアント向けコンサルティングサービス」に昇華するまでの経緯について話を聞いた。

社員の7割が常時利用。Hakuhodo DY ONE流・AI活用

──社内用AIツールとして、自社開発の「HAKUNEO ONE」と、Notion AI、Difyを利用しているとうかがいました。それぞれ、どのように使い分けているのでしょうか?

宮田:「HAKUNEO ONE(ハクネオ ワン)」は、当社クラウド上に構築した社内向けのAI利用環境です。最大の特徴は、GPTやClaude、Geminiといった主要なLLMや画像生成モデルを、社内の様々な業務シーンで安心・安全に利用できる点にあります。そのため用途も幅広く、テキストやコードの生成から、データ分析の壁打ちまで全社横断で多岐にわたっています。また、2023年10月の社内リリース以降、現在の累積ユニークユーザー(以下、UU)は3,000名を超えており、社員の約7割が常時利用する規模に定着しました。

株式会社Hakuhodo DY ONE プラットフォームR&D本部 ブランドR&D局 R&D基盤部 部長/テクノロジーR&D本部 DX開発推進局 AI事業企画部 宮田 風花氏
株式会社Hakuhodo DY ONE プラットフォームR&D本部 ブランドR&D局 R&D基盤部 部長/テクノロジーR&D本部 DX開発推進局 AI事業企画部 宮田 風花氏

宮田:また、より幅広いAI活用ニーズに対応できるよう、Notion AIやDifyといったツールも活用しています。Notion AIは、議事録を中心としたドキュメント管理に利用されることが多いです。そしてDifyは、現場社員が個別業務に特化したAIアプリを自作するためのプラットフォームという位置づけです。

 さらに最近では、HAKUNEO ONE上からMCP連携でDifyアプリを直接呼び出せるようになりました。これにより、情報収集から資料生成までを一貫して完結できるワークフローも実現しています。このように、HAKUNEO ONEをハブに据えつつ、目的に応じてツールを使い分けるのが当社の基本スタイルです。

HAKUNEO ONEの操作画面
HAKUNEO ONEの操作画面
(クリックすると拡大します)

Difyで開発した社内アプリの使いっぷり

──Difyの活用事例を教えてください。実際に、どのような「専用ツール」が生まれているのでしょうか。

宮田:社内で作成されたDifyアプリは1,000個を超えており、現在社内公開しているアプリも約70個あります。毎月300〜400名の社員が利用しており、さらにアプリを自作できる権限を持つ社員は700名に上ります。「使う人」だけでなく「作る人」が社内に育っているのが特徴です。

 最も人気が高いアプリは、スライドの構成テキストを入力すると自社テンプレートに沿ったPowerPointを自動生成するアプリです。他にも、商品やサービスの情報からカスタマージャーニーや施策を複数自動提案する「0次AI仮説」、テキストを音声コンテンツ化するアプリ、社内ナレッジをAIに読み込ませて有識者代わりに質問できるRAGアプリなど、現場発の工夫が次々と生まれています。

──お話から、社内のAI活用が非常にスムーズに進んでいる印象を受けました。ここまで社内浸透が進むまでに、苦労された点はありますか?

宮田:実を言うと、導入当初は「感度の高い一部の人にしか広まらない」という状況でした。開発部門は環境構築で手一杯、現場はクライアントワークに追われていますから、いくらSlackでアナウンスしても情報の波に埋もれ、「知っている人だけが使う」状態が続いていたのです。そこで転機になったのが、2024年5月から2025年3月にかけて実施した「AIアンバサダー研修」です。

社内浸透のための強力なテコ入れ「アンバサダー研修」とは?

宮田:AIアンバサダー研修は、AI開発担当者と私を含む計5名の事務局チームが主体となり、営業・広告運用担当などフロント部署の社員1,000名超を対象に実施した研修です。基礎知識の習得とともに業務活用への技術的・心理的ハードルをなくすことを目的としています。2024年度内に、「HAKUNEO ONEの週次アクティブユーザー(WAU)1,500名」という目標を定めてスタートしました。

 生成AIの社内活用を推進するにあたり、私たちが注力したのは、いかに多くの社員に「自分ごと」として捉えてもらい、活用を組織全体へ浸透させるかという点です。そこで、研修を設計する上で工夫したのは、受講者を「アンバサダー」と「初級者」の2層に分け、それぞれに最適化した講義内容を用意することです

 さらに重視したのが、アンバサダーの選定基準と、彼らが教育する人数です。アンバサダーの選定においては、AIの専門知識よりも、「新しいツールに関心があるか」「人に物事を伝えるのが得意か」を重視。また、1名のアンバサダーが同じ部署に所属する初級者6名を教える体制としました。こうすることで、初級者の心理的な抵抗感を和らげ、組織内におけるイノベーターやアーリーアダプター層からアーリーマジョリティ層へのスムーズな波及を狙いました。

 具体的な研修の流れとしては、まず事務局からアンバサダーに対し、生成AIの基礎から社内利用ガイドライン、初級者向けのレクチャー方法まで、座学と1時間のハンズオンを組み合わせた4〜5時間のカリキュラムで指導。その上で、アンバサダーが初級者へ90分に凝縮したレクチャーを行う方式を採用しました。いずれのコースでも、AIに慣れてもらうためのハンズオンは必須とし、全員がHAKUNEO ONEを実際に操作できる機会を確保しています。

 ハンズオンパートでは、「奈良旅行のプランを立ててみよう!」といった、あえて業務とは関係のない身近なテーマを出題。これにより、プロンプトの違いによる生成結果の変化を体感しながら、試行錯誤を通じて生成AIへの理解を深めてもらえるよう心掛けました。

──その結果は?

宮田:最終的に265名ものアンバサダーが生まれ、938名の初級者が受講し、計1,203名の受講を実現しました。AI開発部署が直接全員に教えるのではなく、マイクロインフルエンサーのように、265名のアンバサダーを介して展開するネットワークの設計こそが、スケールの鍵でした。

 研修の効果は数字にも明確に表れています。研修開始前の2024年4月時点では、累積UUは1,183名、WAUは364名でした。それが研修終了後の2025年3月には、累積UUが3,456名、WAUは1,552名と約4倍となり、目標を達成しました。

2023年10月~2025年3月の、HAKUNEO ONE累積UUの推移
2023年10月~2025年3月の、HAKUNEO ONE累積UU数の推移
(クリックすると拡大します)

宮田:また若手社員の中には、先輩に教える役割を与えられたことで開花した方も多く、AI研修が「逆メンタリング」の場になったのは思わぬ副産物でしたね。あるアンバサダーからは「自分が教える立場になることで理解度が上がった」という声もありました。

対面での指導が効果的!本部別のAI活用基礎研修

──24年度のAIアンバサダー研修は大成功を収めたとのことですが、社内でのAI研修には引き続き取り組んでいますか?

青木:はい。2024年度にフロント部署へのAI浸透を進められた一方で、バックオフィス(経理・財務・人事など)にはまだまだ届いていないというのが実情でした。そこで2025年6月からは週次で「お悩み相談会」を、2025年8月からは私たちが各本部に出向く本部別でのAI活用基礎研修を開始しました。

株式会社Hakuhodo DY ONE プラットフォームR&D本部 ブランドR&D局 R&D基盤部/テクノロジーR&D本部 DX開発推進局 AI事業企画部 青木 奏芽氏
株式会社Hakuhodo DY ONE プラットフォームR&D本部 ブランドR&D局 R&D基盤部/テクノロジーR&D本部 DX開発推進局 AI事業企画部 青木 奏芽氏

青木:この研修は、部署ごとに異なる「AI活用の実態」、「AIを使いたい場面」を我々がヒアリングし、現場のリテラシーレベルとニーズに合わせた研修を設計するのがポイントです。会議室での対面形式で、参加者のリアクションを見ながら進めることで、参加者同士の交流も生まれ、対面の価値を改めて実感しています。

本部ごとのAI活用基礎研修の様子
本部ごとのAI活用基礎研修の様子。HAKUNEO ONEのメニューボタンの位置など、細かい操作方法まで丁寧にレクチャーしている

──2年間を振り返り、何が大事だったと考えますか?

宮田:WAU1,500名という目標が無事達成できた今も感じるのは、やはり一方的な情報発信や高度な機能提供だけではなく、活用啓蒙を「諦めずに地道に続けること」が一番大事だったと思っています。2年目に青木が事務局に加わり、新鮮な目線で「まだやれることがある」と気づかされた面も大きいですね。

青木:推進側にいると、「AIは使えて当たり前」といった感覚に次第に陥りがちです。だからこそ、自分が初めてAIを利用したときの戸惑いを覚えておいて、その視点で話すことが現場に伝わるコツだと感じています。目の前にいる人がツール操作に行き詰まっているのを見て、「もっと細かく教えれば良かったな」と、毎回反省しながら伝え方を改善しています。

社内ノウハウを、コンサルティングサービスへ展開

──現在、クライアント向けの「生成AI活用コンサルティングサービス」を展開されているとのことですが、どういった内容なのでしょうか?

青木:これは、当社でのAI浸透プロセスで培ったノウハウを、DXコンサルティング部と連携しながら対外的なコンサルティングサービスとして展開しているものです。商社や広告会社など、クライアントの業種は幅広いのですが、「導入したのに社内で使われない」というお悩みはどの企業でも共通しています。

 こうした課題に対し、本サービスは「組織変革・文化作り・人材開発」にフォーカスし、一緒に浸透策を練り上げながら実行支援まで伴走します。まずは、会社の現状をヒアリングし、セミナー・ワークショップによる基礎知識の習得から、ユースケース創出、PoCから現場活用まで、そして全従業員への徹底伴走コーチングまで、6つの領域でワンストップの支援を提供します。自社でゼロから実践・検証してきたノウハウをそのまま持ち込める点が、私たちの強みだと思っています。

「生成AI活用コンサルティング」で展開している6領域
「生成AI活用コンサルティング」で展開している6領域
(クリックすると拡大します)

AI推進は、人間に寄り添って「泥臭く地道に」が基本

──AIの社内推進を目指す企業へのアドバイスがあればお願いします。

青木:AIの利活用は、「技術整備をしただけでは浸透しない」というのがポイントだと思います。そこから先は、人間が泥臭く地道に取り組むことが必須です。AIの社内推進を進めていると、現場に何度も足を運び同じ質問に何度も答えることになるのですが、そういった地道な積み重ねこそが、組織全体を徐々に変化させていくはずです。

 そもそも、AI推進は1人では実現できません。だからこそ、経営層も現場も、推進者も一緒になってネットワークを作ることが、推進のために最も大事だと感じています。

宮田:お悩み相談会では、「食べたいものと手元の食材を教えてくれれば、レシピを一緒に考えます」とよく伝えていました。AIを使いたい気持ちはあるけれど、具体的にどう進めるのが良いかわからない。そういう方に寄り添いながら、これは生成AIでなくRPAのほうが向いているよねといった別解も含めて、最適な手段を模索していく。そんな地道なやり取りの積み重ねが求められるのではないでしょうか。

──最後に、今後の展望を教えてください。

青木:まだまだAIに苦手意識がある人はいると思います。そうした人たちに「仕事がパッと楽になった瞬間」を体験してもらえる機会を継続的に届けたいと考えています。また、AIのアップデートのスピード感に組織が遅れないよう、今後も研修コンテンツのアップデートと情報共有を積極的に続けていきたいですね。

宮田:AIツールが増えるほど、コスト管理や最適なツール選定、ガバナンスの設計がますます重要になります。今年度はそうした課題にも対応しながら、啓蒙活動をさらに発展させ、バイブコーディング研修やFDE(Forward Deployed Engineer)の導入も進めていきます

 AIを"便利なツール"として使う段階を越えると、仕事の組み立て方自体が変わってきます。定型処理をAIに委ねることで、人はより本質的な判断や創造的な思考に集中でき、これまで時間や人手の制約から諦めていたアイデアや提案も実現できるようになるのです。

 私たちが目指しているのは、人とAIの組み合わせによって生み出される価値を引き上げることです。社内での実践知を土台に、クライアント企業の皆さんとともにその変化を体験していただけるよう、これからも伴走していきたいと思っています。

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この記事の著者

三ツ石 健太郎(ミツイシ ケンタロウ)

早稲田大学政治経済学部を2000年に卒業。印刷会社の営業、世界一周の放浪、編集プロダクション勤務などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。マーケティング・広告・宣伝・販促の専門誌を中心に数多くの執筆をおこなう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社Hakuhodo DY ONE

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2026/04/23 12:00 https://markezine.jp/article/detail/50495