丸亀製麺×サイカが挑んできた、データサイエンス×マーケティング
ビジネスグロースに向け、企業はデータサイエンスをどのように活用すべきか。サイカ Consulting本部 Data Science & Analysis部 部長の高木基伸氏は、「データは分析して終わりではありません。データサイエンスを活用して不確実性を突破し、ビジネスの勝率を最大化することで、事業成長を促進するところまでがゴールです」と説明する。そんなデータ分析を実践しているのが、トリドールホールディングスが運営する飲食チェーンの丸亀製麺だ。
丸亀製麺でマーケティングに従事する間部徹氏は、新卒でコンビニエンスストア事業会社に入社し、店長やSV(スーパーバイザー)を経て、マーケティング部でデータ活用・CRMを推進してきた人物。丸亀製麺では、「データで未来をつかむこと」を基本スタンスとして、部門を横断したデータドリブンな意思決定に取り組んでいる。
丸亀製麺が大事にしているのは、ブランド名にもある“製麺”へのこだわりだ。また、店舗に入ると、人の声や麺打ちの音がにぎやかに聞こえ、麺が茹で上がる様子が見える。その向こうにはおいしそうに食べているお客さんの顔があり、つゆや出汁の香りが漂っている……。このように五感を揺さぶる体験価値づくりも、ほかにはない丸亀製麺の特徴である。
そんな丸亀製麺を象徴するキーワードが“感動”。「食の感動で、この星を満たせ。」のスローガンを筆頭に、ミッション・ビジョン・ストラテジーにも「感動」という言葉が入っている。マーケティングでも“感動”は意思決定の重要な判断軸となっており、人間の感性の領域にある“感動”をいかにデータサイエンスで解き明かすか、サイカと二人三脚で長年試行錯誤を繰り返してきた。
MMMからスタートし、検証領域を拡大
サイカと丸亀製麺の取り組みは、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)から始まった(図1中央)。MMMとは、一言でいうと、何が売上増の要因となっているのかを分解・分析するもの。プロモーション施策やSNSでの話題化などがどう売上に効いているのか、MMMで検証してきた。
しかし、現在の丸亀製麺におけるデータサイエンスは、一般的なMMMの枠組みを超えるところまで進化している。「従業員の内発的動機(EX)向上→お客様の感動体験(CX)創造→店舗の繁盛(事業成果)」の相関性を分析したり、最近はソーシャルグッドとブランド価値向上の可視化も試みたりしているという。
サイカとここまでデータサイエンス×マーケティングの範囲を広げられてきたことについて、間部氏は「打ち手(戦術)ばかり見ていては、ここまで取り組みを発展させられなかったでしょう。常に丸亀製麺の戦略マネジメントを起点にできていたから、さらに先の発展を一緒に考えてこられたのだと思います」と話す。
具体例:ビジネス成長のキーサクセスファクターを分析
セッションでは、データドリブンマーケティングの具体例として「ブランド意識のKSF(Key Success Factor)構造の可視化」が紹介された。これは、コンシューマー・ミックス・モデリング(CMM)を用いたKSF分析により、丸亀製麺の利用回数(=マーケティング成果)に影響する要因を紐解いていこうとする取り組みである。
具体的には、アンケート調査のデータを活用し、まずは「店舗の利用回数」に大きく影響するキードライバーを特定。次に、それらのキードライバーに紐づく評価項目とその関係性を可視化していった。
分析の結果、キードライバーとして挙がってきたのは「利用意向」だ。これは他の業種業態でも重要視されるような項目であり、特段目新しいものではない。
しかし、さらに下の構造を分析していくと、興味深い示唆が得られた。「利用意向」を支える要因として、「うどんがおいしい」という項目が非常に重要であることがわかったのだ。
「『うどんがおいしい』と一口に言っても、天ぷらがおいしい/安心して食べられる/他の店とは違う良さがあるなど方向性は分かれますが、統計上、利用意向に繋がりやすいのは『品質の良さ』であること。さらに『品質が良い』というブランドイメージは『1.安心して食べられる』『2.他の店とは違う良さがある』という2つのイメージと相関関係が強いことまで見えてきました。データサイエンスを用いると、具体的にどういったブランドイメージがお客様の利用意向を支えているのか、ここまで構造化できるのです」(高木氏)
肝心なのは、KSF分析の結果をどうマーケティングに落とし込むかだ。分析の結果を自社の言葉に置き換え、施策を企画・実行できるところが丸亀製麺の特長だとサイカ高木氏は強調する。
KSF分析の結果を踏まえ、丸亀製麺では2024年に2つのプロモーションを実施(図4)。具体的には、「1.安心して食べられる」というブランディングを強化するために、麺職人と製麺所を全面に押し出したブランディング広告を実施、また「2.他の店とは違う良さがある」という点の強化に向けて新商品「丸亀うどーなつ」を発売した。
常に仮説思考で動き、マーケティングモデルはさらに進化
もちろん、KSF分析は一度で終わるものではない。市場環境の変化や、丸亀製麺の体験価値向上を受けて、またKSFの構造も変わっていくからだ。
そのような中で、現在丸亀製麺が特に力を入れているのが、従業員のEXに着目した「ハピネス感動モデル」の検証。「店舗で働く従業員の満足度が高ければ、お客様への接客が向上し、それが感動体験、さらには繁盛につながるのではないか」という仮説からスタートしたプロジェクトである。
サイカ高木氏は、この相談を受けたとき「それは心理学の分野で、データサイエンスとして従業員のハピネスと売上をつなげる分析は難しいのでは……」と思ったそうだ。だが、間部氏の強い熱意と行動力でデータ基盤は1年もかからずにできたという。
「しっかりとした“仮説”を立て、それを実証する方法を考える。さらに実証した後は、どういうステップを踏めば実行に移せるかを関係者と議論しておく――仮説を起点に常に先を見据えながら動いていくのが、丸亀製麺の強さの理由だと感じています」(高木氏)
セッションの最後で紹介されたのは、まさに高木氏のコメントにあった「迅速な意思決定ができる組織づくり」に関する内容だった。
データ分析で終わらせない。施策をやり切るには、分析の「前」と「後」が重要
「感動」という捉えどころがない感情を、データサイエンスで可視化してきた丸亀製麺。丸亀製麺におけるデータサイエンスの存在意義を尋ねると、間部氏は「勝ち続けるために必要だから」と即答する。
「店舗に一度来ていただき、瞬間的に売上を上げることは、まぐれ当たりでも起こり得ることです。重要なのは、再現性をもってそれを継続できるか――そのために仮説が必要なのであり、私たちはデータ分析による“アンサー”を見出さなければなりません」(間部氏)
ただ、データ分析に100%の正解はない。丸亀製麺ではこの前提に立ち、どう意思決定するかを先に決めておくことを徹底しているという。「この分析は何のためなのか、何の意思決定に使うものなのか、何をもって解釈・判断するのか」を事前に決めておく。つまり、「分析結果が出てから考える」のではなく「結果を見て事前に決めていた判断軸で意思決定を行う」のが丸亀製麺流だ。
こうした丸亀製麺の意思決定までのポイントをサイカが提唱する6ステップになぞらえて体系的に表現すると、このような8ステップになる(図6)。
データ分析それ自体だけでなく、その前後にある「仮説の言語化」「関係者との共通理解づくり」のステップが成否を分けるポイントと言えるだろう。サイカ高木氏は、8ステップの中で特筆すべき点を次のように話す。
「丸亀製麺は、ステップ(7)で『打ち手の仮説』を事前に立てているからこそ、分析結果をスピーディーにアクションに移せるのだと思います。これは業種に関わらず、データ分析プロジェクトを実施する企業にとって、非常に参考になるポイントです」(高木氏)
ちなみに間部氏は、ステップに出てこない大切なポイントとして「タイミング」も挙げる。必要なときに分析結果がなければ、活用するタイミングを逃し、せっかく得られた分析結果が無駄になってしまう。社内を巻き込んでいくには、決められた日時までに必要な分析結果をしっかり揃えるといった、関係者間での信頼の蓄積も大切であるということだ。

データで可視化できるものがこれだけ増えたにも関わらず、不確実性は高まっている現代、最善策を取るためにデータを活用する場面はますます増えている。そうした中、ベストな意思決定を行うには、マーケターの感性をもとに仮説を立て、データサイエンスを掛け合わせて意思決定を行うことが大切だ。感性とサイエンスが噛み合ったとき、マーケティングの勝率は向上していく。
データ分析のポイントは、事前の仮説立てや意思決定のプロセスづくりにある。丸亀製麺の強さの理由は、表からは見えないところに隠れている。
ビジネスにおけるデータ分析の8ステップを学ぶなら
ステップ(7)へとスムーズに繋げるためにも、まずは本書が提唱する6つのステップで分析の軸を固めることが重要です。明日から活用できる具体的なノウハウを学びたい方は、ぜひお手に取ってご一読ください。

