クリック単価169%増。増え続ける検索広告費
検索創出型マーケティング(SCM:Search Creation Marketing)は、「第三者による客観的な情報発信によって、コンバージョンにつながる検索流入を直接的に創出する手法」だ。PR活動や運用広告などを通じて、ユーザーによる検索行動を新たに創り出すことを目指す。
「2025年インターネット広告媒体費 詳細分析」によれば、日本のネット広告費は3兆円の市場規模に達し、そのうち約4割をリスティングなどの検索広告が占めている。AIやSNSの台頭で「検索離れ」と言われる中でも、検索広告費は前年比107.4%という伸び率で推移しており、石原氏は「この構造は今後もおそらく変わらない」とみている。
中でも注目すべきは、マーケティングファネルの最下層にあたる、コンバージョン直前の顕在層を対象とした「今すぐ獲得」ゾーンだ。この段階にいるユーザーは、キーワードやブランド名・会社名で検索するため、購買などの意向・意欲が高い。 比較的CPAが低く抑えられ、効率的なコンバージョン獲得が期待できるが、その一方で、母数が限定的で、対象キーワードも多くはないため過密化する傾向にある。
また、キーワードマーケティングで運用した検索広告のデータを見ると、平均クリック単価は右肩上がりの上昇を続け、10年前比で169%に達している。
「そもそも検索広告は、検索されて初めて表示される構造上、キーワードの検索ボリューム自体がスケールの上限を決めてしまいます。一方、ファネルへの流入を増やすために認知施策を採用する場合、テレビCMを打つなら制作費を含め最低でも5,000万円、平均で数億円規模のコストがかかります。すべての企業が投じられる規模ではありません」(石原氏)
「PR×マーケティング」でコンバージョンしやすい検索を創出
そこでPRと運用型広告をかけ合わせ、「今すぐ獲得」ゾーンでコンバージョンを獲得できる一般名詞や固有名詞の検索数を、意図的に、費用対効果よく増やす。これが石原氏の提唱するSCMだ。レッドオーシャン化している「今すぐ獲得」ゾーンの幅を広げる発想である。
しかし当然ながら、広告に比べるとPR特有の不確実性はつきものだ。それでもSCMでは「マス広告の10分の1程度のコストで同程度の効果を実現した事例も出ています」と石原氏は振り返る。
「私たちはPRの定義を、従来型の金額報酬を介さないメディア掲載を狙うパブリシティよりも、大きく捉えています。たとえば、認知向けの広告に対してPR的な発想を活かしたコンテンツ施策を掛け合わせることで、擬似的なPR効果を狙うのです。具体的には、YouTubeの広告配信で第三者の声として導入先企業の事例を入れる、記者発表会を開く、インフルエンサーを活用する、などの施策がそれに当たります」(石原氏)
こうしたPR施策によって検索ボリューム自体を増やし、その後は検索行動の受け皿となる運用型広告との合わせ技によってランディングページへ流入を促し、最後はコンバージョンへと導く――この一連の流れを戦略的に行うのが石原氏の唱える理想的なSCMの全体像だ。
検索行動を創出した2つの好事例
ここで石原氏は、SCMで検索行動を創出し、獲得ゾーンを広げた2つの事例を取り上げた。
事例1:お仏壇のはせがわ:検索キーワード「リビング仏壇」を創出
仏壇販売大手「お仏壇のはせがわ」は、“お仏壇”に対するイメージの刷新を狙ったプロジェクトとして、リビングに違和感なく置けるデザインの仏壇「LIVE-ingコレクション」を販売していたが、認知が広まらないという課題感を持っていた。
そこでキーワードマーケティングが提案したのは、商品名ではなく、一般の人にもわかりやすいキャッチーな「リビング仏壇」というキーワードでメディアにアプローチするPR施策だ。
メディア向けにラウンドテーブル(小規模のプレス発表会)を実施し、ターゲット層が多くいるメディアに取り上げてもらえるように資料を作成。その結果、複数メディアでの掲載が実現し、「リビング仏壇」の検索ボリュームが急伸。売上にも貢献した。
「商品名をキーワードにしてしまうと、公益性の観点でメディアが取り上げにくい傾向にあります。プロモーションと混同されないよう一般名称に近いキーワードを定義しつつ、メディアに対してニュースバリューを提供し、取材できる場を設けたことが検索創出につながりました」(石原氏)
事例2:オーダーメイド型商品:ショートドラマで「閑散期」に検索を伸ばす
次に紹介されたのは、20~30代向けオーダーメイドブランドの事例だ。オーダーメイドすること自体の価値を新たに定義する検索創出ワードを設計・提案し、「身だしなみの重要性」を伝えるストーリーでショートドラマを制作・配信したという。
台本にも検索創出キーワードを盛り込み、視聴者が無意識にそのワードを刷り込まれる設計にした。その結果、競合他社が検索ボリュームを大きく落とす閑散期に、ドラマ配信と同時にブランド名の検索数を大幅に伸ばすことに成功した。
キーワード選定からメディアとの関係構築まで。SCMを実現する7つのステップ
SCM施策のフローは、次の7ステップで整理できる。
キーワード選定
まず「キーワード選定」は、「キャッチコピーになりすぎないこと」が重要だと石原氏は強調する。
「自社しか使えないキーワードは、なかなか外に広がりません。リビング仏壇、ガチ中華、運用型テレビCMなど他社でも使えるような普遍性を持たせつつ、そのキーワードからサービスが連想される仕掛けを設計することが必要です」(石原氏)
キーワードを想起させる設計
次に、そのキーワードを「どう想起させるか」を設計する。「●●を解決するなら」と思われるようにする課題解決想起、利用する前に情報収集する可能性が高い利用意向想起、意味内容と結びつける概念理解想起、すでにマインドシェアを取れているカテゴリ第一想起の4分類を使い、「どんな場面でどう想起してもらいたいか」を明確にする。
タッチポイントの洗い出しと分類・整理
「タッチポイントの洗い出し」では、メルマガやSNS、ブログなど自社でコントロールできる範囲内だけでなく、広告や第三者メディアも組み合わせて接点を最大化することが重要だ。認知を獲得するには「1ヵ月以内に異なる4つのメディアで目にすること」が必要とされている。他にも、普段のメールの署名欄や、顧客向けの報告書に告知スライドを1枚追加するなど、意外な接点も情報発信に有効活用できる。
有料掲載メディアの選定・アプローチ
「有料掲載メディアの選定」は、PVという「枠を買う」発想から「良質なコンテンツを買う」発想へシフトすることが重要だという。ターゲット顧客にリーチでき、かつ質の高いコンテンツを提供しているメディアを選ぶことで、情報の信頼性と拡散力が高まる。
「メディアへのアプローチ」はメディアに対して、実際にどのような形で、どう取り上げてほしいのか、社会性や世の中にどうポジティブな影響があるのかを整理してアプローチを設計する。
運用型広告の設置
加えて、セミナーやホワイトペーパー、SNSで拡散されやすい画像作成、Xの長文投稿など「自己PR」も不可欠だ。そして最後に、適切なランディングページの用意と運用型広告での刈り取りまでがセットである。
「客観的な情報発信で興味を持ってくれた方に対して、正しい考えを正しい形で伝えられる受け皿が必要です。ここには私たちも相当な時間と工数をかけています」(石原氏)
費用対効果だけを追い続けていないか。無自覚の「縮小均衡リスク」を解決
デジタル広告施策は成果が可視化できるメリットがある反面、その費用対効果だけを追いがちになり、見えない制約に気づかない「縮小均衡」が起こるリスクを内包している。石原氏はこれを「デジタルマーケティングの根本的な構造問題」と指摘する。
「どうしても目先のメリットだけを追ってしまいがちな中で、PRと運用型広告の合わせ技が、この根本的な問題を解決します」(石原氏)
取り組みの第一歩として、「予算が限られている場合は、インフルエンサーとのタイアップや自社SNSの運用から始めてみるのも良いでしょう」と石原氏。また、予算が許すなら、戦略PRを得意とする代理店の活用や、BtoBへのリーチに強いタクシー広告なども有効な選択肢だという。
SCMは「検索は創るもの」という考えを体系化したフレームワークだ。ユーザーの検索行動の幅そのものを広げていく視点が、今後のデジタルマーケティング施策には不可欠だろう。

