「開拓者」らしく新しいことに挑戦
この「続きはテレビで」メソッドは、どういった経緯で実現したのだろうか。ウェブページを担当した横尾氏自身が、「どんな番組でも通用する宣伝手法ではないと思います。番組企画内容をよく吟味する必要があります」と語るように、ネットに先行して出してしまっても消費されてしまわないで、逆に視聴者を惹きつける特別な番組でなくてはならない。その点、「開拓者」は関西テレビの開局50周年記念番組として全国ネットされる番組であり、コンテンツもそれに伴ってスペシャルなものだった。
「古田さんや野茂さんをはじめとして、非常に魅力的で個性的な出演者が揃いました。特に、野茂さんがテレビでここまでしゃべってもらえるのは非常に珍しいことです。制作サイド(プロデューサーやディレクター)との事前の打合せでも、番組そのものに対する自信がうかがえました。そこで番組の内容を、今までよりも大胆に(ネットに)掲載することを、こちらから提案したのです」(横尾氏)。
横尾氏には「『開拓者』というタイトルにふさわしいサイトにしたい」という思いがあったという。もちろん「視聴率低下に繋がるのではないか」という危惧はあった。しかし、番組宣伝としての新たな試みであるということで理解をもとめる横尾氏に、番組プロデューサーは最終的にこう言った。
「『開拓者』という番組なんだから、新しいことやりましょう!」
この一言は大きかった、と横尾氏は振り返る。
放送局のビジネスモデルに危機感を感じた
このようにネットでのプロモーションに斬新な発想を持った横尾氏だが、もともとはパソコンも大嫌いで、ネットも趣味ではなく業務上の危機感からはじめたのだという。1988年に関西テレビに入社以来、音声やカメラという制作技術一筋で11年間番組制作に携わってきた。1999年の異動で、地デジの放送設備設計を担当することで、テレビ以外の媒体にも興味が出てきたという。
「アナログからデジタルにテレビが進化していく過程を体験することで、テレビとネットの垣根がなくなっていくのではという思いを強くしました。同時に社外の友人たちと接することで、放送局のビジネスモデルにも危機感を覚えました。放送局は、インターネットや携帯にも積極的にかかわるべきだという思いで、今の仕事(ウェブ)の担当になったのです」(横尾氏)。
その業務の中で「続きはテレビで」メソッドを思いついたが、なかなか実現はできなかったという。
「以前から、番組放送前に番組の中身をある程度公開しても、番組によっては視聴率に影響がなく、むしろ興味を持ってもらい視聴につながる場合があるのではないかと思っていました。普通は番組内容を公開してしまうと、見てもらえなくなるだろうと考えます。これはおそらく根本的には変わらないことでしょう。そのためなかなか実現しませんでしたが、この番組ではトライすることができました。制作サイドがこのような宣伝手法に理解をしめしてくれるようになったこと。これが1番よかったと思います」(横尾氏)。
制作サイドと打合せをはじめたのが放送1か月半前で、サイト公開が1カ月前というから、かなり突貫工事だったようだ。徐々にコンテンツを増やし、放送日10日ほど前に野茂選手のインタビューが掲載完了したという。
制作時間が短いわりには、標準的なHTMLで書かれており(一見すると画像メインのサイトのようだが、CSSや画像を外してHTMLだけにしても必要な情報がきちんと表示される)、各ページのコンテンツの分量や配置もきれいに収まっている。ウェブ標準やアクセシビリティには、かなり注意を払っているようだ。
「テレビ番組のサイトには、時に驚くほどのアクセスがあります。多くの人から望まれるなら、情報の形式はできるだけ社会の標準に沿う必要があり、相応のアクセシビリティが確保されるべき、と考えて取り組んでいます」(横尾氏)。