生成AIの影響で検索流入が減少していく中、企業はオウンドメディアをどう扱うべきか。松本健太郎氏がBtoBマーケティングの要諦を探る本連載、今回は株式会社ベイジ代表の枌谷力氏にお話を伺いました。AI最適化の先にある「人間ファースト」なコンテンツ戦略や、エンタープライズの合意形成を支えるWebサイトの構築、さらにはマーケティング組織の立ち上げ初期に最優先すべきことまで、幅広く深掘り。目先のPVやCVにとらわれない、これからの企業の情報発信のあり方に迫ります。
集客だけでは測れない、オウンドメディアの価値
松本:以前、枌谷さんがXに「生成AI時代にBtoBオウンドメディアはどうなるのか」と問い掛けた投稿を拝見して、興味深いテーマだと思いました。しかも、その内容はとても中庸で、生成AIに驚いてばかりいる言説が多い中で深く考えさせられるものでした。投稿の背景を教えていただけますか。
BtoBオウンドメディアはどうなるのか。 まず、「検索流入の受け皿」としての価値は縮小する。 ノウハウ系、お役立ち系の記事はAIが代替してしまうので、普通に考えればトラフィックは減る。トラフィックが減るということは、投資価値を感じにくくなるということであり、企業の取り組みとしては徐々に衰退すると考えるのが自然。 一方、「AIの引用元・学習元」としての価値は残る。AIは回答を生成する際に、どこかの段階でネット上のコンテンツを参照する。そのため、AIが参照しやすい一次情報、独自調査、実務の知見、明確な意見、具体的なエピソードを持つコンテンツは、引き続きオウンドメディアが影響を与える可能性がある。 BtoBの購買はおそらく、AIでショートリスト作成→人間が精査、という流れが強くなるだろう。AIの候補リストに入れるかどうかが商談機会を左右するようになる。 BtoBはニーズが顕在化してから顧客化するまでのリードタイムが長く、慎重に精査する購買者や窓口担当者も多い。そのためAIの推薦を短絡的に盲信するのではなく、ショートリストを作る過程で、公式情報の裏どりとしてコーポレートサイトや製品サイトに訪問する可能性が高い。 その時の流入は指名検索になる。そこでコンバージョンすると、検索流入でコンバージョンしたように見える。 しかしその引き金を引いてるのは実はAIによる引用/推薦である。そしてそのAIが参照してるのは自社のオウンドメディアだった、ということは十分に起きる。 また、AIの要約では見えてこない情報、例えばその企業の顔が見える強い主張、失敗談を含む実体験、業界への態度表明、ソートリーダー的発信などは、人がその情報に触れた時の信頼獲得の手段として機能する。 こう考えると、オウンドメディアが無用になるわけではなく、使い道はまだまだある。ただ、「集客装置」から「AIと人間の両方を繋ぐための信頼・想起の装置」みたいな方向に役割が変わる。 汎用情報の量産ではなく、一次情報の提供や思想の表明が、BtoBオウンドメディアの主な役割になるのではないか。 とイベントで話す夢を見た。
— sogitani / baigie inc. (@sogitani_baigie) July 10, 2026
枌谷:世間では「AIで仕事が根本的に変化する」という言説が溢れていますよね。極論に偏った議論は、とても目立ちます。一方で「現実にはそこまで急激には変わらない」という意見は、AIの影響を過小評価しているように受け取られがちで、表に出にくいと感じています。
枌谷:たとえばWebサイト制作業務において、制作フローが激変したり工数が大幅に削減されたりするのではないかという議論があります。しかし、私の実感としては「現実にはそこまで急激には変わらない」。なぜなら人間側にもボトルネックがあるからです。
オウンドメディアも同様です。確かに、AIが代替できるノウハウやお役立ち情報が中心の、集客・コンバージョン獲得装置としてのオウンドメディアは衰退していくでしょう。しかし、すべてのオウンドメディアが無くなるわけではありません。
企業がどのようなスタンスやこだわりを持って、なぜその事業を展開しているのかは、企業自身が言語化して伝える必要があります。第三者による言及も重要ですが、企業自身が言語化して伝える発信の器としてのオウンドメディアは、今後も必要だと考えています。
松本:今、私たちの足元で、数年がかりの地殻変動が起きているのだと認識しています。ただ、「検索流入からの資料請求数」というわかりやすい指標で見ると、オウンドメディアの成果が低下しているように見えます。
枌谷:そもそも、オウンドメディアは短期的な指標だけで判断するのではなく、企業のカルチャーやこだわりとして続けるものではないでしょうか。そのようなスタンスで取り組んでいる企業のほうが、結果的にオウンドメディアが続いていたり、事業貢献していたりする印象があります。
自社の取り組みや考えを言語化して発信すること自体に、意味を見出す。業界への貢献を通じて、自社を応援してくれる人が増えることを期待する。イベント等で「見ています」と声をかけられることで、社員や経営陣の士気が向上する。
そうした様々な「出来事」に価値を見出せる企業であれば、表面的なコンバージョン数だけでなく、事業やブランドに寄与する情報チャネルとして、オウンドメディアを続けられるのではないでしょうか。
情報公開は損か得か?社内知見を外部へ発信するメリット
松本:「検索流入からの資料請求数」といった指標だけでオウンドメディアを評価できない、ということですね。ところで、担当者が複数の「出来事」に価値を感じても、上層部から理解を得られず、進めにくい場合もあると聞きます。社内で情報発信への認識が異なるのは、なぜでしょうか。
枌谷:インターネット上での情報発信を「得である」と考えるか、「情報を外部に出すことは損失につながる」と捉えるか。上層部の考え方や会社の文化に、大きく左右されると感じます。
情報を秘匿することに優位性がある業界では、発信に消極的な人もいます。一方で、IT業界やエンターテインメント業界のように外部発信を前提とする領域では、細かな説明を要さずとも発信の意義が共有されていますよね。
担当者がオウンドメディアを立ち上げたくても、上層部が消極的な場合は「諦めたほうがいい」と提案することもあります。上層部の考えが間違っているとは限りませんし、どの会社も取り組むべきだとも考えていません。繰り返しになりますが、オウンドメディアは成果が出るまで時間がかかることが多いです。
そのため、単純なコンバージョン数だけでなく、複雑な波及効果も含めて価値や意義として捉えられないと、成果が出る前にモチベーションが低下し、結果を待てずに止めてしまう、ということになりがちです。
AI推薦の鍵:外部言及(サイテーション)と情報の空白地帯
松本:AIは、膨大な情報を学習して回答を導き出しますよね。既に知名度が高く、ネット上に情報の多い企業が推薦されやすいと感じています。この先、知られていない企業がAIで一発逆転を起こせるチャンスはあるでしょうか。枌谷さんの肌感覚をお聞きしたいです。
枌谷:現状は2010年代から情報発信を続けてきた企業が、かなり有利になっていると感じています。LLMO(大規模言語モデル最適化)の動向を追っていますが、AIによる推薦に影響する要素は、Webサイトの内部構造、コンテンツ、そして外部言及であるサイテーションの3点に集約されると見ています。
その中でも、外部言及の影響力は特に強いでしょう。内部構造の改善や構造化データの設計、文章の推敲をどれほど徹底したとしても、それ単体では大差は生まれにくいと感じています。もちろん、自社サイトやオウンドメディアで解像度高く何を語れているかも大事なのですが、現状ではそれ以上に、外部でどれだけ言及されているかの影響が大きい印象です。
たとえば、弊社への問い合わせ件数の約20%はAI経由です。特別なLLMO対策はしていません。長年にわたり取材を受けてきたので、弊社に言及する外部サイトが多くあります。だから、AIからも推薦されやすいのでしょう。既に有利な企業が、さらに有利になる状況が起きていると感じますね。
一方で、後発の企業にチャンスがないわけではありません。鍵になるのはポジショニングだと考えています。多くの人々がAIに質問しているのに、答えとなる情報を発信している会社がないテーマもあるはずです。いわば、「情報の空白地帯(ホワイトスペース)」です。
競合がまだ語っていないテーマを見つけ、情報をまとめて発信する。理論上は、AIに推薦されるチャンスにつながります。SEOで競争の少ないキーワードを探す戦略に似ていますが、狙うのは単語ではなく文脈です。
松本:まだ語られていないテーマについて、自社ならではの情報を発信する必要性と重要性を感じました。一方で、一次情報がAIの学習に使われるのを嫌がり、社外への公開を避ける人もいます。先ほどの言葉でいう「情報発信への理解度」による違いが影響を受けそうです。どこまで外部に公開し、どこから先を社内に留めるべきか、その線引きをどう考えますか?
枌谷:業界や商材によって異なりますが、私のようなWebやITの会社なら、基本的に「すべて公開する」というスタンスで良いと考えています。
そもそも社内の知見の言語化は、組織内でのスキル伝承に不可欠なので、AIに関係なく進めたほうがよいでしょう。それを社外に公開するかですが、私は公開による利益が損失を上回ると判断しています。
なぜなら、詳細に公開しても他社が模倣するのは容易ではないからです。大半は模倣せず「優れた知見を持つ企業」と好印象を抱くだけですし、模倣しようとしても、組織構造やコンテクストが異なれば自社に合わせた再設計が必要になり、それには高度な能力を要するからです。
この記事は参考になりましたか?
- マーケティング組織を立ち上げて最初の6ヵ月でやること連載記事一覧
- この記事の著者
-
松本 健太郎(マツモト ケンタロウ)
株式会社EVERRISE 執行役員CMO
龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを“学び直し”。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心に、さまざまな分析を担当する。noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メン...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
