エンタープライズの信頼を担保する「次世代Webサイト」
松本:読み手の心を動かすことを考えると、エンタープライズを想定したサイトの構築には難しさを感じます。現場、経営陣、法務、情報システムなど多数のステークホルダーが関与し、それぞれが確認すべき評価軸が多岐にわたります。社内の合意形成を支える情報を、Webサイトにどう揃えればよいのでしょうか。

枌谷:これまで、Webサイトはどちらかといえば中小企業向けのマーケティング施策で、エンタープライズは人の営業が行う、という傾向が強かったように思います。
しかし、エンタープライズ企業の中でもAIによる情報収集が一般化し、そのAIが元にするのが企業サイトの情報ということになると、エンタープライズ向けの対策としても、Webサイトの重要性は高まります。
一方で、現在のWebサイトは情報プラットフォームとしては不完全です。CMSは当たり前のように導入されていますが、社内の情報をリアルタイムで更新できている企業はほとんどありません。それは技術的な問題ではなく、運用や組織の問題です。
たとえば、営業部門では、顧客のニーズに合わせて最新の営業資料にすぐに更新できても、Webサイトの更新は半年後、1年後だったり、反映すらされなかったりする場合もあります。営業の現場とWebサイトの間に大きな時間差があるのです。
この時間差を埋める方向性として、私が「次世代Webサイト」と呼んでいる構想があります。それは、社内の営業資料や経営データとWebサイトがシームレスにつながり、外に出していい最新の情報をリアルタイムに反映する仕組みです。今後は、こうした次世代Webサイトの方向性に向かうのではないでしょうか。
そうした統合環境が実現するまでは、人の手によって最新の営業資料や各ステークホルダー向けの一次情報を的確にWeb上へ反映させ、公式情報としての網羅性と信頼性を担保しておくことが重要です。
松本:WebサイトのPV数とCV数ばかり追うのも、よくないですね。何が必要なのか、改めて整理しようと思いました。
枌谷:Webサイトは単に最初の接点を持つためだけの場ではなく、公式な情報を確認するためのプラットフォームとして極めて重要な役割を担っていると考えています。担当者や情報システム部門、あるいは発注部門の上長が、発注先として信頼できるかを確かめる場所でもあります。特に、リスク意識の高い企業と取引するなら、信頼の裏付けとなる情報を載せておくことが大切です。
AIによって、Webサイトへの流入は、今後減るかもしれません。それでも、公式情報を確認してもらうために、掲載内容は今まで以上に充実させる必要があるでしょう。
組織立ち上げ時の優先事項とメディア運用を始めるべき時期は?
松本:今回の連載では、テーマとして「マーケティング組織を立ち上げた最初の6か月で取り組むべきこと」を掲げています。枌谷さんが立ち上げ初期のマーケティング組織に期待される事項や、着手すべき具体的なアクションについて、何を優先すべきだと考えていますか。
枌谷:立ち上げ期において最優先すべき事項は、社内の関係部署の話を徹底的に聞くことだと考えています。特に、営業のメンバーとよく話し、仲良くなることですね。
ある企業では、マーケティング組織の立ち上げを担ったリーダーが最初の1年間、具体的なマーケティング施策にあえて着手せず、営業担当者が何に困惑し、どのような課題を抱えているのかをひたすらヒアリングすることに専念した、という話を聞きました。
その結果、営業部門と強固な信頼関係が築かれ、その後の施策は極めて円滑に推進できたようです。営業との関係が良好な状態で、マーケティング組織を本格的に始められたそうです。私は、理想的な始め方だと感じました。
松本:では、そうした立ち上げ初期において、オウンドメディアの構築や運用はどのタイミングで開始すべき施策でしょうか?
枌谷:優先度という観点では、決して高く位置付けられるものではないと考えます。
ただし、オウンドメディアは効果が見えるまでに年単位の期間を要する、中長期的な施策でもあります。もし「社内人材の育成に寄与する」「採用活動における広報資源として活用できる」「経営者の強い意向が存在する」といった理由があるなら、オウンドメディアに取り組む意味はあります。
ただし、集客だけが目的であれば、もう少し顧客のことを知り、肌感覚をつかんでから始めることをお勧めします。問い合わせへの導線やフォームの改善など、コンバージョンに近い施策のほうが、優先度は高いでしょう。改善を進めた上で、オウンドメディアに取り組む価値を考えてもよいのではないでしょうか。
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松本 健太郎(マツモト ケンタロウ)
株式会社EVERRISE 執行役員CMO
龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを“学び直し”。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心に、さまざまな分析を担当する。noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メン...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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