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買い物に「新しい発見」を イオンと日本IBMの“共創”で実現した顧客体験とは

 イオンリテールは「イオンお買物アプリ」を活用し、顧客に便利で楽しい買い物体験を提供している。同社と共に、このアプリの価値をテクノロジーによって高め、リテールメディアとして作り上げたのが、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)だ。両社はどのように共創し、顧客ロイヤルティを高める体験を構築したのか。イオンリテールの田中香織氏、日本IBMの澤﨑良介氏と中尾一貴氏に、プロジェクトの狙いやチーム作りについて話を聞いた。

アプリで「新しい発見」を提供したい

──イオンリテールは、日本IBMと共に「イオンお買物アプリ」を改善し、顧客体験の向上につながるサービスを提供しています。まず、このアプリでどのような顧客体験の実現を目指しているのか、教えてください。

田中:イオンのような総合スーパーは、食品や日用品など、“義務的な買い物”をするお客様が多く訪れます。「イオンお買物アプリ」によって、買い忘れなどの困りごとを解決し、義務的な買い物を快適に済ませるお手伝いをすることが狙いの一つです。

 また、イオンでは約30万品目の商品を取り扱っており、自分にピッタリ合うものを見つけるのは大変です。“いつもの商品”だけでなく、「こんな商品があったんだ」「言われてみればほしかった」という新しい発見を提供し、楽しく買い物をしてもらいたいと考えています。

イオンリテール株式会社 営業企画・リテールメディア本部 リテールメディア推進部 部長 田中 香織氏
イオンリテール株式会社 営業企画・リテールメディア本部 リテールメディア推進部 部長 田中 香織氏

「意味のある切り口」でAIを活用

──そのような体験を提供する上で、AIやデータはどのような役割を果たしていますか?

田中:お客様に合わせた商品をレコメンドするために、データは不可欠です。「イオンお買物アプリ」では、AI分析によってお客様の趣味嗜好を170項目に分類し、購買履歴や独自データによって、1,570万人の会員一人ひとりに付与しています。それによって、お客様の興味関心に応じてクーポンを配信したり、買い物周期に対応して「そろそろこの商品の買い時ではありませんか」とリマインドしたり、お客様におすすめしたい商品を「いるかも商品」として表示したりしています。

イオンリテール独自の170項目
イオンリテール独自の170項目(タップ/クリックすると拡大します)

中尾:イオンリテール様では、アプリと店舗でデジタルとリアルの双方をカバーできているだけでなく、アプリの会員数や商品の種類が非常に多いため、バリエーションが豊かなデータを収集できます。そのため、「この商品を買った人に、次はこれを提案する」という単純なものではなく、お客様に対して解像度の高い分析を行い、最適な商品を提案できるのです。

澤﨑:AI活用で最も大切なのは、AIやデータ分析そのものを目的にしないことです。顧客体験から逆算し、どのデータを、どのような切り口で捉えるべきかを考えています。AIの精度だけでなく、実際の買い物体験として価値を感じていただけるところまでやりきることが、私たちの役割だと考えています。

「壁を作らない」チームづくり

──理想の顧客体験を提供するために、両社はどのような役割とチーム体制で取り組んできたのでしょうか。

田中:イオンリテールは、アプリに特化したコールセンターを設置し、お客様の困りごとやアプリの使いづらい点などの把握に努めています。さらに、現場の声も寄せられています。そのような情報に基づき、お客様視点とビジネス視点で要件定義をすることが当社の主な役割です。

澤﨑:このプロジェクトは2023年秋に始まりました。日本IBMにはコンサルタント、デザイナー、エンジニアをはじめ、多様な専門性を持つ人材がいます。私たちの組織には、そうした人材を組み合わせたアジャイルなチームが複数在籍しており、それぞれが得意とする業界や領域、蓄積してきた実践知を持っています。

 プロダクトに求められる特性と、各チームの強みをマッチングしてアサインし、お客様と一体となった体制を立ち上げる。同じ目標に向かって密に連携しながら、アイデアを素早く形にし、検証し、継続的に育てていくことが、私たちのプロダクト共創のスタイルです。

日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 ププロダクト&エクスペリエンス変革事業 事業部長 理事/パートナー 澤﨑 良介氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 プロダクト&エクスペリエンス変革事業 事業部長 理事/パートナー 澤﨑 良介氏

 今回、その中で最もフィットしたのが、金融業界をはじめ大規模なBtoCサービスを数多く手掛けてきた中尾のチームでした。彼らが持つ豊富な実践知と、顧客や店舗を深く理解するイオンリテール様の知見が組み合わさったことで、プロジェクトを早期に軌道へ乗せ、その後、イオンリテール様とともに現在の共創体制へと育てていくことができました。

日本IBMの人材的な強みと共創体制
日本IBMの人材的な強みと共創体制(タップ/クリックすると拡大します)

中尾:プロジェクトを成功させるためには、ビジネス、デザイン、テクノロジーそれぞれに精通した人材がそろっていることが不可欠です。今回のような大規模なプロダクトであれば、組織全体としてその条件を満たさなければなりません。イオンリテール様のチームには、マーケティング分野や、データ分析やアプリ開発の経験者もいるため、当社のメンバーとスムーズに連携できました。

 さらに、受注・発注の関係でバケツリレーになるケースも多い中で、イオンリテール様とは業務を線引きせず、両社が融合する形でプロジェクトを進めています。「壁を作らずに助け合う」というマインドが根付き、柔軟性とスピード感がある、一緒にやっていて楽しいチームです。

目指す顧客体験を理解し、実装までやりきる姿勢

──イオンリテールにとって、日本IBMとの取り組みで印象的だったことは何ですか。

田中:顧客体験を考慮せずに「この機能を実現できます」と提示するのではなく、「こうしたほうがもっと良い体験になるのでは」と、踏み込んで議論しあえることが印象的でした。

 生成AIの普及もあり、「こういうプロダクトが良い」という教科書通りの情報は手に入りやすくなりました。しかし、1,570万人もの会員に提供するサービスの開発は、それだけでは難しい。私たちと一緒に一つひとつ確認しながら、目指している顧客体験を実現し、実装までやりきる姿勢が、唯一無二だと感じています。

──理想とする顧客体験の実現を目指す一方、コストや技術的な実現可能性も考慮する必要があります。それらをどのように両立してきたのですか?

中尾:限られた時間とコストで実現できることを考えるとき、目標の解像度が粗いと、「この機能を作る」という前提から議論しがちです。一方、「この機能をお客様に提供する価値は何か」「ビジネス上は何を達成したいのか」を明確に共有できていれば、成果を出すために必要な作業を見極め、効果検証しながら進めていけるため、理想と現実のバランスという議論から脱却できると考えています。

日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 プロダクト&エクスペリエンス変革事業 エクスペリエンスAIラボ部門長 中尾 一貴氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 プロダクト&エクスペリエンス変革事業 エクスペリエンスAIラボ部門長 中尾 一貴氏

 もう一つのポイントは、生産性を高めることです。当社にはプロダクト開発の実践知があり、手法も確立しています。それらを活用することで、品質を担保しながらスピード感を持って進められます。重要な点は、手法に現場を合わせるのではなく現場に合わせて手法を修正しながら、開発環境をベストな状態に近付けていることです。それによって、高い生産性、品質、モチベーションを維持しています。

澤﨑:私たちの強さは、難しい課題に直面したときも、両社で「どうすれば実現できるか」を最後まで考え抜けることです。田中さんをはじめとするイオンリテールの皆さまの「お客様により良い体験を届けたい」という想いを共通の目標に、イオンリテール様が持つ顧客・店舗への深い理解と、IBMのビジネス、デザイン、テクノロジーの専門性を持ち寄る。制約があっても、それぞれの視点から選択肢を広げ、最善の答えを一緒に探していく。そうしたプロフェッショナル同士の共創が、難しい課題を乗り越え、継続的により良い体験を生み出す原動力になっていると思います。

クーポン利用者の2人に1人が「新しい商品」を購入

──このアプリはリテールメディアとしても価値の高いものになっていますよね。どのような点を意識しましたか。

田中:前提として、「イオンお買物アプリ」は広告事業のために作ったアプリではありません。お客様が広告を含むキャンペーン情報などに接しながら、楽しんで使ってもらうことを重視しています。お客様が嫌な気持ちにならずに、新しい商品に出合うことを目指しています。

 広告主のメーカーに対しては、マーケティングファネルにおける認知、興味関心、比較検討、購入のフェーズに応じた広告メニューを用意し、個々の課題に対応できるようにしています。

中尾:アプリを開いたときに、お客様が求めている情報を含む広告であれば、それは有益なコンテンツです。UIとしても、広告もコンテンツの一つとして認識できるように工夫しています。一方、広告の配置に気を配り、買い物体験を邪魔しないように意識しています。全体のデザインも、新しいものを知るときのわくわくする気持ちを表現することを目指しました。

──アプリの改善によって、利用者の行動に変化はありましたか?

田中:従来はレジの前に来てから使う「クーポンやチラシが中心」のアプリでした。しかし、現在は64%の会員が来店前にアプリを開いてくれるようになりました(※リニューアル後に実施したアンケート調査による)。「今日は何を買おうか」と考えたり、買い忘れがないように「いるかも商品」を確認したりしてくれています。イオン以外の場所でも「買い物について考える機会」の創出につながっています。

 また、アプリを通じて月に約300企画のクーポンを提供していますが、レコメンド枠に掲載されたクーポンを利用した方の2人に1人は今まで買ったことのない商品を購入しています。お客様の“新しい発見”をお手伝いできていると感じています。

本質を理解し、実践経験と専門性を活かす

──今回の取り組みを踏まえて、デジタルサービスを成功させるために重要なポイントについて教えてください。

田中:テクノロジーの活用だけでなく、「お客様に何を体験してもらいたいか」を全員が理解することが重要です。今回のチームは、「こんなことをやりたい」という思いに対して、みんなが「そうだよね」と理解し、議論してくれます。

 もちろん、最初からそうだったわけではありません。プロダクトを育てていくうちに、「お客様が困っているポイントはここだね」「この数字が落ちているから改善が必要だ」というように、重要な点を押さえながら冷静に考えられるチームになったと思います。

澤﨑:AIの進化によって知識や方法論へのアクセスが容易になればなるほど、それだけでは差別化が難しくなります。だからこそ重要なのは、実際の現場で培った実践知をもとに、個々のビジネス課題に応じた解き方を知っていることと、それを支える深い専門性です。日本IBMでは、様々なプロジェクトで得た経験を実践知として蓄積し、組織全体へ継承・横展開する仕組みを持っています。

 加えて、今回の「イオンお買物アプリ」のような大規模かつ複雑なサービスでは、表からは見えにくい部分を支える専門人材も欠かせません。1,570万会員を抱えるアプリのデータを安定して処理し続けるには、高度な専門性が求められます。そうした領域を支えられる人材がそろっていることも、私たちの強みです。

 そして、AI時代だからこそ、最後に大きな差を生むのは人と人との関係性だと思っています。特に田中さんのこのアプリに対する強い「愛」や「より良くしたい」という想いがチームに伝わり、一人ひとりの専門性や情熱を引き出してきました。互いを信頼し、専門性と想いを掛け合わせることで、単に便利なだけではない、利用者に愛され、携わる人たちにも喜びや誇りをもたらすサービスを生み出せる。そこに、AI時代のプロダクトづくりの本質があると考えています。

──どうしてもAIなどの技術やリテールメディアといった手法だけに目が行きがちですが、何を提供したいかというビジョンと熱量を持ち、知見・ノウハウを現場に合わせて柔軟に活かすことこそ重要だと感じます。本日は、ありがとうございました。

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この記事の著者

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:日本アイ・ビー・エム株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2026/09/30 10:00 https://markezine.jp/article/detail/77493