「オートGPS」は準備の年に、注目は「ソーシャルアプリ」「動画」
モバイルで人を動かす。この傾向は2010年以降、さらに顕著になると藤田氏は予見する。
その一端を担うのが、ドコモが2009年末から提供し始めた「オートGPS機能」だ。iコンシェルと連携して自分の今いる地域の情報を配信するこの機能は、リアルな店舗への誘導や販売促進効果が期待されている。だが、2010年のメインストリームになるかと言えば、それは時期尚早かもしれないと指摘する。
「2010年の段階では、オートGPSを利用した広告の提供開始は、まだ少し早いと思っています。まずはユーザーにとってメリットのある情報を提供できるようにすること。広告はうまくマッチングさせないと、ユーザーがメリットを感じられないケースもあります。弊社では、まずはテレビ番組で紹介された飲食店の情報を位置情報と連動して利用できるサービスの提供を開始しています。そのようなサービスを提供することによって、ユーザーのオートGPS利用が習慣化することを待つことが先決です。その後、ユーザーの興味関心にマッチングするような多様な商品・サービスの広告が多く集まるようになる目処が立った頃に、有効な広告サービスを提供することができるようになると考えています」
新しい機能・サービスはアーリーアダプターには使ってもらえるが、マジョリティ層を狙う広告主にとっては最適な出稿先とは言えない。自社がマーケティングしようとする商品のターゲットユーザーは誰で、どんな機能・サービスを使っているのか、間違えてはいけないと助言する。
「尖がったユーザーが相手なら、とにかく新しいサービスに広告を出すというのも手です。ですが、もっと多くの方々を相手にするのなら、あらゆる端末に標準装備され、多くの人が使っているサービスを活用するべきです。去年の例で言えば、デコメなどがようやくキャンペーンのプレゼントとして一般的に活用されるようになってきました。自分たちの顧客は新しい物が好きなのか、コンサバなのかは常に意識しなければなりません」
そう語る藤田氏が2010年に注目しているのは、ソーシャルアプリだ。3大SNSがこぞって注力し、ユーザーの利用も活性化している。ソーシャルアプリには大きなマーケットになる可能性があり、アプリ内やダウンロード画面上に広告枠を設けるなど、積極的に取り組んでいきたい分野だと語る。
また、パケット定額制の契約者数の割合が2009年に5割を超えたことも見逃せないとする。これはパケット代を気にせずに、広告も見ることができるユーザーが5,000万人以上もいることになる。関連する調査結果として、パケット定額利用者の多い10代では、動画の視聴経験が69.3%にまで達したと伝える野村総研のデータも無視できないとした。
携帯での動画視聴が普及したことを示す例としては、ロッテのガム「Fit’s」のプロモーションがあるという。Fit’sの宣伝のために実施したユーザー参加型のダンス振付コンテストでは、振付の投稿はPCからという形だったが、動画の閲覧数ではモバイルが上回った。
こうした参加性のある、動画を活用したキャンペーンはこれからも増えてくると藤田氏は予測する。「動画の視聴が定着していけば、テレビCMと同じような動画を使って、視聴者の心を動かそうとする広告も出てくると思います。そうなれば、見た人の『指を動かす』『身体を動かす』広告ではなく、『心を動かす』広告が増えてくるかもしれない」と期待を口にした。
スマートフォンの流行はモバイルにB to B広告を引き込むきっかけに
2009年のモバイル業界を振り返り、2010年を展望する上で、iPhoneをはじめとするスマートフォンの流行抜きでは話が進まない。iモードなどのモバイル広告を扱うD2Cは、スマートフォンについてどう考えているのだろうか。
「スマートフォンが本当に普及するかどうかのカギを握るのは、10~20代の女性を中心とした非ビジネスユーザーを取り込めるかどうか。現状では、ビジネスユーザーがPCの替わりにスマートフォンを持ち運んで使っています。ビジネスの延長上での利用だけなら、1000万人くらいの利用に留まるのではないでしょうか」
逆にスマートフォンの流行は、既存のモバイル広告業界にとっても歓迎すべきことだという。モバイル広告の利用は広まっているが、サーバーや業務アプリケーションなどのB to B商材を扱う企業からの広告出稿はゼロに近い。スマートフォンの利用者にはPCのコアな利用者が多いため、モバイルからではなくPCや専門雑誌などから広告予算を奪う可能性もあると指摘した。
「結論としては、われわれの広告市場に影響はなく、むしろB to B商材を扱う企業の目を向けさせるプラス要因だと思っています」