ソーシャルメディアの台頭と検索エンジンのゆくえ
最近ではニュースやWebマガジン、ブログなどで、「Twitter」「Facebook」「ソーシャルメディア」という言葉を目にしない日はなくなった。そこで語られる内容には、「TwitterやFacebookはGoogleを超える」「Twitterは次世代検索エンジンだ」「脱・検索エンジン」のような意見も多くなってきた。確かに、日本ではTwitterのユーザー数が飛躍的に増加した。米国や英国では既にソーシャルメディアのページビュー数、トラフィック数が検索エンジンを超え始めている。
しかし両者は本来、「超える/超えられる」という関係でも、代替される関係でもなく、相互に補完・依存し合う関係なのである。
本記事の前半では、「代替される関係ではない」ということを示すため、まずは人間にとって情報と検索機能とがどのような関係になっているかを考察する。この関係の原理を基にして、ソーシャルメディアと検索エンジンとの関係性を探る。後半では、「超える/超えられる関係ではない」ということを示すため、よく引き合いに出される「ユニークユーザー数」「ユーザー滞在時間」「トラフィック数」「ページビュー数」という指標について吟味する。そして最後に、これらをまとめる形でソーシャルメディアと検索エンジンの関係について展望する。
人間にとっての情報と検索機能
オンライン、オフラインを問わず、そもそも人間にとって「検索」という機能が必要なのは、求める情報に短時間で効率よくアクセスできるようにするためである。従って、もしも世の中に情報が1つしかなく、その情報が目の届く距離にあったとしたら、「検索」という機能は必要ない。
このような状態から、徐々に情報量が増えたり、物理的に遠い場所にまで情報が広がったりした状態を想像してみよう。検索機能を使わずに求める情報を見つけるためには、距離的に遠くにまで広がった膨大な情報をひとつひとつ見ていき、求める情報か否かを確認しなければならなくなる。
このようにして求める情報を探し出すのは非常に困難である。人間が処理できる情報の量や複雑さの範囲(認知限界)を超えてしまうため、目的の情報に巡り会うまで非常に時間がかかり、効率が悪いことは言うまでもない。人間にとって「検索」とは、このような情報を探す際の効率の悪さを解決するための機能だと言える。
ソーシャルメディアと検索エンジンの関係
情報と検索機能の原理をもとに、ソーシャルメディアと検索エンジンの関係を考えると、次のようになる。
ソーシャルメディアは、ユーザー同士が交流することで情報が生成され、ユーザーを介して情報が流通し、そのプロセスの中で情報が蓄積される場である。従って、ソーシャルメディア内では時間とともに情報量が増え、またユーザー同士が交流するにつれて世界中に(距離的に遠くまで)情報が広がっていく。ソーシャルメディア内で生成され蓄積された情報の中から求める情報を探し出す際、情報をひとつひとつ確認しながら探すのは非常に効率が悪い。その結果、ソーシャルメディアのユーザーの間で検索機能の需要が増大する。
実際に、Twitterは今後、検索機能に力を入れていくことを発表している。(参考情報:独占:Twitterの検索担当責任者、製品再編成のために辞職,Tech Crunch JAPAN)
逆に、情報が1つしかなく、それが目の前にある場合には検索機能が必要なくなってしまうことを考えると、情報量を増加させ、世界中に広めていくソーシャルメディアは、同時に検索機能の需要も高めることになる。従って、両者の間には相互に依存し合う関係が成立しているのだ。
経済学の教科書で「代替財」と「補完財」を説明するためによく使われる例を用いるなら、検索エンジンとソーシャルメディアは「バターとマーガリン」「コーヒーと紅茶」のような関係(代替財)ではなく、「バターとパン」「コーヒーとミルク」のような関係(補完財)だと言える。
これを裏付けるように、最近ではソーシャルメディアと検索エンジンとをうまく連携させることで相乗効果を上げている事例も注目されている。(参考情報:検索とソーシャルメディアの連動でCVRが2.5倍に 米SAPの担当者に聞いたBtoB企業にとってのソーシャルメディアマーケティング、ソーシャルメディアと連携する検索エンジンマーケティングの3つの視点,日経ビジネスオンライン)