安心して購入できるからこそコンバージョン率が上がる
次に、Sapientのマット・リンジー氏がプレゼンテーションを行った。同社は、IT&ビジネスコンサルティングを提供している企業だ。リンジー氏は、いくつかの事例を紹介した。
一つ目は、家庭用クリーニング用品やガーデニング用品を扱うEquip2Clean。同サイトでは商品の利用方法を動画で紹介することで、コンバージョンレートが7%から15%へ向上した。2つ目は、ダイアモンドの指輪を販売するコマースサイトDiamond Jewelry Limitedの事例。製品動画を追加したところ、返品率が60%も激減したという。

いずれの事例においても、製品購入前に商品の情報を写真や文字よりも分かりやすく説明・提案していることが勝因。「手術などの際に医師が病状や治療方法を分かりやすく説明し、患者の同意を得るインフォームド・コンセントと同じく、商品についてより多くの知識と正しい期待値を持って、安心して購入ができるという消費者の行動の表れである」と語った。
Sapientの手がけるプロジェクトはオンラインだけにとどまらず、42インチのプラズマディスプレイが搭載されたコーラ/アイクスクリームの自動販売機や、地下鉄の社内に設置されたディスプレイにまで及んでいる。いずれもインターネットに接続された機器で、動画による商品の紹介だけでなく、写真や動画をアップロードしてユーザーとのインタラクションができるような施策が施されているという。
動画の効果をどのようにとらえるべきか
OgilvyInteractiveのロブ・デイビス氏は「動画はユーザーや見込客との対話・会話をもつ有効なメディアであることを実感している。さらに、様々な成功事例が出ており、動画をEコマースに利用する方法は唯一無二の方法があるわけではない」と語る。
OgilvyInteractiveでは、実際に動画がコンバージョンにどれくらい寄与しているかを最も重要な指標と位置づけているという。動画の再生回数や滞在時間ではなく、「動画を閲覧したユーザーがその次に起こすアクションは何か」に注目することが重要であると主張する。
動画には、SEOやソーシャルメディア経由でのコンテンツ発見というトラフィック増加の期待もあるが、視聴回数に傾倒しすぎた効果測定では本来の改善策やコマースでの動画のもたらす効果を発揮できない場合が多いという。バイラル効果の高い動画をYouTubeに公開する手法は認知度向上には有効ではあるが、自社のコマースサイトにやってきた購買を悩んでいるユーザーに同じ動画を見せても全く効果がないであろう。セールスファネルの上流にいるのか下流にいるのかで、全く異なる動画が必要になる。また、自社のサイトでの動画公開だけにこだわらずに、人が集まるところへコマースを持ち込むことも大切な戦略である。
OgilvyInteractiveでは、「Post-Play Interaction(PPI)」という指標を用い、動画視聴後にどんなアクションをとっているのか、意図しているアクションを取ったユーザーがどれほどいるのかを計測し、動画パフォーマンスの重要な計測指標としている。動画をどれだけ見てもコンバージョンにつながらないのであればそれは失敗であり、100万回完聴されようがセールスにつながらないトラフィックよりは、たった10秒しか見ていない10万回の視聴でもコンバージョンの起こるトラフィックのほうが価値が高いというわけだ。
見込客の発掘から購入までのセールスファネルの各ステージを移動していく中で、実際に購入を検討している場面で背中を押すような動画がきちんと登場する、というのが好ましいシナリオであり、カタログに入った途端に自動的に再生されるような受動的な動画視聴体験はコマースには向いていないケースが多かったという。
ECでの動画活用は加速
競争の激しいリテール業界において、効果がなければM&Sをはじめ多くのクライアントがとっくに動画の活用をやめているだろう。だが、やめるどころか「過去数年で動画を使ったマーケティングやEコマースのプロジェクトは拡大傾向にある」と3名のパネリストは口をそろえて語った。
また、競合他社が動画を使ったコマースを始める中、動画を使うだけではコンバージョンへの貢献が期待できなくなるだろう、と早くも次の施策を研究しているという。ユーザーの求めているコンテンツ、価値を提案する動画コンテンツを提供し、カスタマーや見込客と「会話」ができるEコマースサイトを作っていくことが重要である、という意見で3社の意見が一致していたのが印象的なセッションであった。