最新のデジタルマーケティング「A&E」で、時代の潮流を掴め
冒頭、遠藤氏は「マスマーケティング時代」から、データを元に施策の成果を判断できる「デジタルマーケティング時代」へとパラダイムシフトが起こっていると指摘。デジタルマーケティング時代は、日々の業務の中に多くの学びがあり、どんな人でも努力すれば成長できる「努力が活きる時代」でもあると主張した。
しかし、その一方で、データが見られるからこそ生じる「落とし穴」に注意しなければならない。「膨大なデータに翻弄されてはいないだろうか。闇雲なデータ分析で大量の時間を使ってしまい、PDCAが回らなくなってはいないだろうか」と遠藤氏は警鐘を鳴らした。
データマイニングやデータベースマーケティングの権威である、ノースウェスタン大学ケロッグ校のエリック・アンダーソン教授と意見交換した遠藤氏は、「データ解析だけで有益な情報を入手できることは稀である」という結論に確信を持つ。そして同教授が提唱する「Assumption&Experiments(仮説・実験)」をデジタルマーケティング業務に取り入れるべきだと紹介した。
A&Eの手法は、理系出身の方にとっては当たり前に感じられるかもしれない。どんな実験でも、実験の前には必ず仮説を立てるからだ。「仮説を立てて実験を行い、その結果に基づいてさらに仮説を立てる」という、このシンプルな流れを日々の運用にも取り入れることで、実験に関係のないデータは不必要となる。短縮した時間を使って、PDCAの回転を加速させればよいというわけだ。
次に遠藤氏はA&Eの成功事例として、サントリー酒類の事例を紹介。若者を中心としたアルコールの消費傾向や、景気後退などによりウィスキー全体の需要が後退する中、サントリー酒類では角ハイボールのWebキャンペーンにおいてマーケティングスキームを確立し、ウィスキーの売上を大きく伸ばした。
この劇的な成果を叩き出した背景には、A&E型業務への切り替えがあった。A&E型業務への転換によって、それまで3か月単位だったキャンペーンのPDCAサイクルを、1週間にまで縮めることができたのだ。(サントリー酒類事例記事:月次→週次に意思決定スパンを劇的改善“大企業”サントリー酒類が超速PDCAを回せるワケ)
「A&E」実践の4ステップ(Assumption /仮説)
ここから、「A&E」を実践するためのステップについて、遠藤氏は解説をはじめた。サントリー酒類の事例を参考にしつつ、「A&E」を実践するためには、4つのステップがある。まずはAssumption /仮説のステップを紹介していこう。
ステップ1(Assumption /仮説):ゴール定義で目標を明確化する
まず始めに、ビジネスに貢献するゴールを定義する。目的や成し遂げるべき指標をあいまいにしたまま企画やデザインなど施策の議論をしても正解が見えにくく「的(ビジネス成果)を決めずに、どこかに矢(施策)を放っても当たるわけがありません」と遠藤氏は指摘する。
ではゴールとはどのように定義すればよいのだろうか。遠藤氏は次のようにアドバイスを送った。
「ゴール定義の際に重要なのは現場担当者と上長が数字を共有することです。施策を失敗するのはOKですが、ゴールを理解しないで施策を進めるということはNGです」
また、サントリー酒類のように購買行動とWebが直接結びつきづらいビジネスを展開している企業の場合、Webのゴールをどこに定義したらよいのか分からなくなるケースも多い。そのような場合は「多少乱暴でもよいのでビジネスに貢献している数字はこの数字」といったように定義してしまうことも必要になるという。例えば、不動産や車メーカーなど店舗型ビジネスの場合は地図ページのユニークユーザ数と来店数の相関を見てみる、などだ。
「ゴールを曖昧なままにせず、完全でなくともビジネス貢献に相関するゴールを決めることが重要です。また、社内を説得するための数字が欲しいのであればアンケートなどで検証することで、数字に落し込んでいきましょう」
ステップ2(Assumption /仮説):ユーザ定義で実在する個人をイメージしよう
ステップ2の説明を始める際に遠藤氏は「最近、ユーザに直接会いましたか?」と会場へ問いかけた。「ターゲットに会うことなく架空のペルソナをターゲットに設定したり、年齢/性別/地域などおおざっぱなデモグラフィックで定義したりすることは絶対に避けた方がいい」と遠藤氏は指摘する。
実際、ユーザ定義ができていない状態で、ボタンの配色などクリエイティブベースの最適化をしても成果はさほど上がらないどころか、1年繰り返して20%コンバージョンが落ちてしまった例もあるという。では、企業はどのようにユーザ定義を行っていけばよいのだろうか。各企業の事例を紹介しよう。
事例1:サントリー酒類
サントリー酒類では、資料請求のあった飲食店に飲みに行くことで実地調査を行っている。また、ターゲットユーザを実際に呼び、リアルな状況でWeb利用を観察することもあるという。「頻繁にターゲットユーザと接触する機会を持つことで、ターゲットユーザの変化をしっかりと把握できる」(遠藤氏)
事例2:「Amazon」と「クックパッド」
Amazonではリアルユーザの動向を掴むため、ジェフ・ベソスCEOを含む全社員が定期的にコールセンターで研修を受ける。すべての社員が、厳しいクレームを含む電話に直接受け答えしないと、顧客の本当の姿を理解できないと考えているからだ。
また、クックパッドの場合はユーザ定義を行う際に、ペルソナやターゲットセグメントといった手法を試してきたが、全然上手くいかなかったという。逆に本当に存在する一人の人間のためにサービスを企画する、という方針に変えたところプロジェクトが成功する確率が高まったようだ。
これらの事例に共通して言える点として遠藤氏は「コストをかけて何か行うというよりも、お客様を知る努力、肌感を持つ努力をするということがポイントです」とまとめた。
「A&E」実践の4ステップ(Experiments/実験)
講演後半では、遠藤氏はExperiments/実験についての解説を進めた。
ステップ3:トライ&ラーンで施策を繰り返す(Experiments/実験)
出稿媒体の変更、クリエイティブ修正、サイト改善など、どのくらいの頻度で施策を実行すべきか。この疑問に対し、遠藤氏は「仮説に基づいた施策を高い頻度で打ち続けることが成功の鍵だ」と説く。
A&Eは回転率が早ければ早いほど、多くの実験結果が得られる。例えば、毎週1%ずつでもよいので、成果を上げることができたとすると、複利で計算した場合は、1年間で1.6倍の成果を出せたことになる。同じ人員でこれだけの成果を出せるのであれば脅威的だ。
ここでも、遠藤氏はサントリー酒類の事例について紹介。サントリー酒類では週1回施策会議を持ち仮説・実験を繰り返しているという。
「サントリー酒類様では、1週間の中で必ず施策を打つことを義務づけています。その理由は施策を打てば打つほど知見が溜まるからです。これまでトライ&エラーという言葉がありましたが、これからは矢継早に施策を回していく“トライ&ラーン”で取り組んでいくとが大切です。」
ステップ4:無駄な指標は見ないで結果だけをチェック(Experiments/実験)
アクセス解析で様々な指標をチェックしていても、アクションにつながることはほとんどないと遠藤氏は断言する。A&Eを速く回すためには、シンプルに施策の「結果」だけを見ることで、検証に無駄な時間を費やしてはならないのだ。
「角ハイボールのキャンペーンの際にも当初の仮説とは違う結果になったことがありました。そこで、施策の方向転換を図ったところコンバージョン率のアップにつながった経験があります。この方向転換は1週間で行いました。キャンペーン期間は12週間あったのですが、最初の1週間で方向転換を図り、残りの11週間で巻き返しを図ることができたのです」とし、速やかに検証を行うことの重要性について強調した。
さて、ここまでA&Eを実践するためのステップを見てきたが、A&E型の業務を遂行していくためには、施策に対する結果をシンプルに把握し、業務を効率化するための基盤ツールが必要となってくる。その基盤ツールとして講演で紹介されたのが、ビービットが提供する効果測定ツール「ウェブアンテナ」だ。
ウェブアンテナは施策の結果を一覧で把握することが可能であり、極限までシンプルに設計された管理画面により誰でも簡単に操作ができる設計となっている。冒頭でサントリー酒類がキャンペーンのPDCAサイクルを劇的に短縮させ飛躍的な成果を生み出したと触れたが、それを裏で支えていたのがウェブアンテナだったのだ。
最後に、遠藤氏はこれまで紹介してきた事例を踏まえ、講演の最後を次のように締めくくった。
「継続的に成果を上げるには、これまでの分析型の業務をやめ、A&E型の業務に移行しなければなりません。そしてA&Eをできるだけ高速に回転させるための体制・組織を作っていくことが重要と言えるでしょう」