目の前の仕事に集中。仕事は“ゲーム”であり試合
青葉――お話を伺っていると、リクルートの社風によるものだけでなく、小林さんご自身からも非常にしなやかな姿勢を感じます。仕事に対する考え方、若かりし頃の体験について教えてください。
小林:そうですね、将来像を描いてそれに向かって邁進するという生き方もあると思いますが、私はどちらかというと逆ですね。これといってビジョンやこだわりがないので、その都度、目の前の仕事に集中してきたように思います。だから、若い頃も自分のキャリアについて悩んだことがありませんし、理想と現実のギャップに苦しむこともなかった(笑)。

こういうと少し語弊があるかもしれませんが、私にとって仕事は常に“ゲーム”。試合という感覚でしょうか。ゲームはあるルールの中で行われますが、仕事も一緒だと思っています。自分の考え通りに仕事を進めたいと思っても、理解してくれない上司や抵抗勢力の登場で、思うようにならないケースもあるでしょう。その場合、私はそうならないためにはどうするべきかを常に考えています。
結局、人を動かせるかどうかがポイントです。人にはよりよく動くためのモチベーション“ボタン”が必ずあるので、それを探し押してあげるのです。
また、私は29歳のときに1年間、当社の企業留学制度で産業用機械の企業で働かせてもらったのですが、これはとてもいい経験となりました。事業も文化もまったく異なる職場で刺激を受けるだけでなく、自分と企業との関係を考えるきっかけにもなりました。
少なくとも、勤め続けているのは自分の意志ですから、たとえ部署が変わろうと主体的に仕事に取り組むことは、私にとって自然なことです。振り返ってみると、自分のスタイルに大きな影響を与えています。
青葉――「仕事をゲームのように考える」という視点は興味深いですね。デジタルマーケティングを勉強されている若い方に向けてアドバイスをお願いします。
小林:正直、私自身はある特定の分野をものすごく勉強したなどはありません。ビジネス書もまったく読みませんし(笑)。ただ、日々の仕事の中で自分の仕事がどうだったのか、振り返ることは若い時から自然とやる方でした。
振り返る際に、「あれは、こういう事情だったから仕方がない」「環境が悪かったから仕方がない」など、自己正当化する感情を一瞬入れてしまうものですが、その際に「本当にそうなのか?」と振り返ることはあえて意識してやっていましたね。こうした癖をつけることは、机上の空論を学ぶより、自分の血となり肉となるのではないでしょうか。
知識と経験に溺れず、組織として運用体制を築ける人に
青葉――最後に、小林さんが考える「マーケティングのプロフェッショナル」とは
小林:ネットが浸透したことで、成果が見えやすい状況となりました。
特にネットマーケティングの場合、勤続年数、年齢、業界の所属年数などは、成果を出すという視点からだとまったく関係ありません。例えば、アルバイトの高校生が何十万、何百万のユーザーを動かした!ということも現実に起こる可能性があります。
つまり、知識と経験を積み重ねていても、アドバンテージにならない時代になっているのです。こうした状況が現実にあるので「知識と経験に溺れない」という点を意識することはプロフェッショナルの要素の1つと言えると思います。
また、もう一点つけ加えるのなら運用体制を仕組み化できるかどうかという点も重要です。ある施策で結果を出した場合に、「個人完結ではなく、組織として運用体制を築ける人」は、非常にパワフルなマーケターとなれるでしょう。
「組織として動く状態にしないと意味がない」。そうした視点を持って仕事に取り組むことで、自然と仕事のやり方が変わってくるのでないでしょうか。(文・高島知子)
リクルートと言えば日本を代表する営業会社というイメージが強いですが、今回、取材をさせていただいて、リクルートはシステムとマーケティングの会社だということに改めて気づきました。すでに、ITコストとネットマーケティングコストの合計は、営業コストを超えているそうです。
そして、リクルート流の働くスタンスについても、興味深い話を伺うことができました。過去の経験や知識がアドバンテージにならない時代。だからこそ、常に知見と経験を積み重ねていける人なのかどうか。個人で仕事をするのではなく、組織全体を仕上げることができる人なのか。結果を出しながら運用レベルまで回せる人なのかどうか。そうした視点で働きトライできる人なのかどうか。さまざまな視点からの問いかけに圧倒されました。
今、マーケティング業務は「感性のゲームから科学のゲームへ」移行しています。ネット集客がビジネスのコア業務そのものであるとすれば、リクルートのように組織を融合し、トライできる環境を数多く作る、スピーディな運用体制を作ることは、必然なのかもしれません。現場支援を徹底するため、組織も人も変化していくリクルートの今後に期待したいと思います。
