音源への課金だけでなく、音楽を取り巻くシチュエーションをビジネスに
動画サービスやソーシャルメディアで情報を得て、デジタルデータを入手、PCやスマートフォンで音楽を聴く時代。クラウドサービスも登場して、「所有」の概念は薄れていくと言われる。今後、音楽事業者のビジネモデルはどのように変わっていくのだろうか。
「ニコニコ動画はコンテンツでなく、『場への参加』に課金しています。情報発信への付加価値でお金をいただく。しかし、恒久的に投稿コンテンツのレベルを上げていくには、ある一定以上のレベルのものに関してはお金を払うという認識はしてもらいたいなと考えています。ただ、残念ながらネットの世界では、ルールはともかく、コンテンツはタダで手に入るという考えが浸透している。
しかし、1曲いくらで売らないとモトがとれないというのは、あくまで事業者側の都合です。CDよりもデジタルデータがメインになるなら、ハードウェアもいらないし、流通コストもかからないからコストカットできる。音楽なら『聴く』という行為が消費にあたると思うんですが、その行為に課金するシステムを作っていくべきなんじゃないかな。ライツコントロールとかの話ではなくて、もう少し音楽を聴くシチュエーションをマネジメントするべきだと思います。そういう考え方に変わらないと、音楽業界自体がもたないのではないか。
ボーカロイドなんかを見ると、音源もデジタル化してお金をかけずに作る人が多くいて、権利に対する考え方が変わってきていますよね。レコード会社は、アーティストのマネジメントをしていくのがメインの仕事になるかもしれません。とくにボカロ系は、そういう動きのまっただ中にいるでしょうから」
人を応援する行為は付加価値が高い
こうした状況を踏まえた上で、ニコ動の今後の展望は。
「コンテンツを受け取ることよりも、発信することに対して積極的になる仕組みを作っていくべきだと考えています。『人を応援するという行為は付加価値が高い』という概念はすでに生まれていますが、さらに発展させていきたい。
また、ニコ動をネットの日常生活にしたいですね。インターネットの参加人口までは、ニコ動ユーザーを伸ばしていきたい。そういう方向に向けた新しい機能の実装、コンテンツ発掘に積極的に取り組んでいきたいです。

機会があれば、海外展開も考えています。多国籍な人々に使ってもらうということではなくて、どの国に行ってもニコ動が見られるという、そういう正しい展開をしていきたいです」
音楽×動画という未知の分野を開拓する存在ながら、ニコ動にどっしりとした安定感を感じるのは、そこに哲学があるからだ。その哲学は、ネットサービスはもちろん、今後のビジネスの成功に不可欠なもので、ニコ動の表面だけを見て、見逃してしまってはもったいない。これからもコンテンツを発信することで食っていこういう気概の持ち主は、今後もニコ動の動きを見逃してはならないだろう。