プライバシー問題で大事な3つのこと
小川:僕も参加したAdobe Digital Marketing Summitでは「デジタルセルフ」という言葉が出てきました。今までソーシャルで何を投稿したか、どういうディスプレイ広告を押したか、どういう検索をしたかで「デジタルセルフ」が形作られる。そうなると、ユーザー単位とはいかないまでも、ユーザーグループをつくって、それに合った広告やコンテンツを出すことができるようになる。
でも、データがある狭い範囲、ウェブサイトの中とかなら可能だと思うんですが、それがウェブ上に全部広がったときに、誰がその情報を管理するんだろうなと思うんです。
「デジタルセルフ」という概念が強調された(撮影:MarkeZine編集部)

清水:プライバシー問題はありますね。でも、問題があるからやらないというよりは、企業にとってもユーザーにとってもメリットがあるかたちで上手にやる方法を考えていくことが大事だと思います。eMetricsでも基調講演でプライバシー問題の話があって、大事なのは3つだと言っていました。
1つめは「トランスペアレント」、透明化する。何のために、だれが何の情報を取っているのかをユーザーに伝える。
2つめは「コントロール」。顧客自身がコントロールをする。いやならオプトアウト、もっとほしいなら自分の情報を出してもらってオプトインできるようにする。
3つめが「上手にやろう」。トランスペアレントにしてコントロールさせて、きちんとメリットあるかたちでやれば顧客は喜ぶし、どんどん広がっていく、と。
ヨーロッパとアメリカ、プライバシー保護をめぐる違い
小川:最近、Cookieの扱いがヨーロッパで話題になっていて、イギリスがCookieの取扱いの方針を土壇場で変えたんですよ。もともとCookieは全部サイト訪問者の許可をとらなければいけないとしていたのを、一応ウェブサイト上に注意書きが明記してあればOKみたいな感じになったんです。
清水:ああ、ICOのあの方針ですね(※)。
小川:ええ。極端な方向に行っちゃうのかなと思ったんですけど、直前で思いとどまって。そのへんはいろんな利害関係もあるし、綱引きがあるんだろうなと思うんですけど、やっぱりユーザーメリットなんですよね、最後は。
清水:ヨーロッパはやりすぎなんですよね。はっきり言って。
押久保:プライバシー保護をやりすぎということですか?
清水:保護しすぎて業界の足かせになってるんですよ。USの場合はもっと業界保護というかバランスとろうとしていて、両方ハッピーになるようにオプトアウト派なんです。「Do Not Track」を中心に、オプトアウトする環境をきちんと整えましょうと(※)。UKやEUの場合は、オプトインしないかぎりはCookieを食わせるなという強硬な姿勢です。
小川:サイトに行くと「Google アナリティクスでデータ取っていいですか?」「はい」みたいな質問リストが、20個くらい出るんですよ。
清水:サイトに行くと一番上に「Cookie取りますよ」というボックスが出てくるんですよね。「はい、許可します」にチェック入れないと、Cookieが無効になってアクセス解析の計測対象外になります。ICOというサイトが実際にそれをやって、アクセス解析の数字が10分の1以下に落ちたんです。
押久保:そうすると、アクセス解析してる意味もなくなっちゃいますね。
清水:しかも、そんなのにチェック入れる珍しい人というセグメントが切られちゃう。
押久保:そうですね。レアな人ですね(笑)。
小川:ビジネス側から見ると最適なレコメンドや案内が提供できなくなり、ユーザー側から見てもまったく興味がない広告が表示されてしまい、かえってイラッとしてしまうのではないでしょうか。
清水:そうなると、もうビジネス最適化できないですよね。なので反対がバンバン来たんです。しかも、あの法律はイギリスに拠点がないと適用されないので、グローバル企業はどこもイギリスに拠点を置こうとしなくなる。そうしたら国にとってもよくない。
Cookieはウェブサイトを訪れた人のコンピュータに保存される小さなファイル。その人がサイトを訪れた日や、サイト上での行動などを記録することができる。
英国では、Cookieの取り扱いについて「Privacy and Electronic Communications Regulations」で定めているが、その内容を2011年に改正。サイト運営者はCookieを利用する際に、サイト訪問者の同意を得ることが義務づけられたが、この規則が効力を持つ2012年5月26日を前に方針が転換された。ICOはこの規則が順守されることを監督する立場にある。
・The Privacy and Electronic Communications (EC Directive) (Amendment) Regulations 2011
インターネットユーザーのプライバシーを守るため、米国では2012年2月に、オバマ政権が「Consumer Privacy Bill of Rights(消費者のプライバシー権利章典)」を発表。Google、Yahoo!、Microsoft、AOLなど、主要なインターネット企業、オンライン広告ネットワークは、消費者がオンライントラッキングを簡単に制御できるよう、「Do Not Track」技術を使って、ブラウザでオンライントラッキングを簡単にコントロールできるようにすることを求められている。