オンラインとオフラインを分けない時代が来る
押久保:楽天やリクルートなら、データ分析に価値があるという声が通りやすいと思うんです。でも、EC専業ではない小売の会社で、「Eコマースをがんばってやっているんだけど、ネットでの売上が全体の5%くらいしかないから、全然発言権がない」みたいな話もよく聞くんです。
小川:たぶん、オンライン、オフラインは関係ないんだと思うんですよ。今はそれを分けてるからダメなんですよ。
押久保:事業としてオンライン、オフラインを分けない時代が来ると。
小川:そう。売上に関係なく、得られる情報は可能な範囲で連携を行い、相互で活用していけばいいんだと思います。
清水:オンラインの売上が小さいとしても、そこから予測ができたらオフラインの陳列や品ぞろえに活かせる。
小川:オンラインとオフライン、トータルで売上が上がればいいんですよ。しかし、実現の難易度は高いですね。オンラインとオフラインの部署が違うことが多いという組織的な課題もあります。そして、それ以上にマルチスキル(各媒体のマーケティングスキル×データから発見を行う統計分析スキル)な人材が少ないですからね。組織的な課題がクリアできれば、もちろん1人ではなくチームで担保するかたちのほうがよいのですが。
清水:意外とそこはチャンスですよね。確実に価値は出る。オンラインに閉じて、ちまちまやってるから価値が出ないんですよ。(一同爆笑)
小さな会社でも、自動化・効率化でアクセス解析の価値は変わる
小川:中小企業では、ウェブ担当者なんだけど、コンテンツつくって、メルマガ書いて、ツイートして、1週間に1時間くらいログインしてモニタリングしてるっていうところもある。そういう人たちからすると、私がセミナーでリクルートの事例を話しても、「そんなのできるの? うちに分析専業の人なんかいないよ」という反応になる。
清水:でも、それは現場のせいじゃないですよね。リソースを割り当ててないという時点で。
小川:リソースを割り当てるだけの理由というか自信がないんでしょうね。「分析をやることで、売上はもっと上がる」「サイト改善するんだ」という自信を持っている人がたぶん少ないんだと思うんです。会社レベルじゃなくて、世の中レベルで。もちろん、そういった分析ができるということを知らないというケースもまだありますが。
今考えているのは、10人や20人でやってる会社さんで、小さな事例をつくれないかなということ。A/Bテスト1個やってみて、そこからたぶん広がるんだろうなと。
清水:リソースが少なくても、やりようはあると思うんですよね。ステップを踏まえて、今できることをやっていく。自動化を工夫して定型的な作業は減らす。よけいなところは見ないで決まったところだけを見るようにすれば、単純作業が減って見る場所をフォーカスできる。それだけで10倍くらい価値って変わると思います。
小川:その「余計なところ」が何かという部分がやはり難易度が高いのかなと、いろいろな企業と会話あるいはコンサルティングをしていく中で感じます。本来は見るべきデータは必要最低限かつ十分であるべきです。
効率化することによって生まれた時間でさらなる分析をするより、1個コンテンツをつくったほうがいいっていう人もいっぱいいるんです。そのほうが直接売上に効くかもしれないじゃないかと。個人的にそれはそれでアリだと思うんです。分析から施策を考えてもいいし、施策を先にやって分析をしてもいい。最終的なゴールは売上を上げていくことなので、そこさえブレなければ、会社にあったやり方でいいのではないでしょうか。
清水:特に効率化は重要ですよね。自動化し、よけいなデータは見ない。中小も同じです。

小川:そこはひとつ突破口かもしれないですよね。「時間がない」ではなくて、まず時間をつくろうと。
清水:楽天の次に入った小さな会社で低予算とルーチンワークの多さを経験し、このことを実感しました。だから、最近の僕の連載はそういうことを書いてるんですよ。自動化、いかにしてラクにするか。「Web担」の連載ですけど(笑)。あとは、ダッシュボード。普通のPVとか並べないで、何を載せれば濃い価値が出るのかっていうところですね。
小川:そう。PVひとつとっても、「特定の条件に該当するページビュー」や「特定期間同士の比較」や「他社ページビューとの比較」にするだけでも意味が生まれます。
押久保:という感じで話は尽きないのですが(笑)、時間も来ましたので今回はこのへんで。おふたりとも、貴重なお話をありがとうございました!
終わりに 押久保 剛(MarkeZine編集長)
「清水さん、小川さんは海外イベントによく参加しているし実務経験も豊富なので、お2人に話を聞けばアクセス解析のトレンドが俯瞰的に見えてくるのでは?」という編集部内での雑談がきっかけで、今回の対談が実現しました。
予測分析、最適化、パーソナライズ、ソーシャル、プライバシー問題、O2Oなどなど、アクセス解析の未来を示す多岐にわたる内容となりました。これらの詳細は記事を読んでいただくとして、私が今回の対談で最も印象に残った言葉は、「アクセス解析の主目的を『アクション』にする」という言葉です。
トレンドを知っていても、高価なツールを導入しても「アクション」の意識がなければ何の役にも立ちません(自戒も込めてます)。分析業務に関わる皆様、少しでもアクションにつながるよう意識して、ガンガン成果を出して、どんどん偉くなってください。
最後にお忙し中時間を割いて頂いた清水さん、小川さんにこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました!
取材協力:アドビ システムズ株式会社、株式会社リクルート
聴き手:押久保 剛(MarkeZine編集長)
人物写真:倭田須美恵(MarkeZine編集部)
構成:井浦 薫(MarkeZine編集部)