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統括編集長インタビュー

「コンテンツのマーケティングはクリエイターにしかできない」 有料コンテンツ配信プラットフォームを立ち上げた『もしドラ』編集者の勝算


マイクロコンテンツ化により読者の細分化が加速

 では、具体的にコンテンツの作り方はどのように変わるのだろうか。それを示すキーワードとして加藤氏は「リッチ化」と「マイクロコンテンツ化」を挙げた。

 「デジタルでは紙にはできないリッチな表現が可能です。また、iPhoneのようなデバイスでは本のような長いコンテンツは不向きで、デジタルデバイスにおいて人はマイクロコンテンツ(短いコンテンツ)を好む傾向にあると感じます。

 これから、マイクロコンテンツがより増えてくると仮定すると、読者はさらに細分化されることになり、その結果、マーケティングもマスマーケティングのような大きな括りでのアプローチではなく、よりセグメントされたアプローチが必要になると感じました。

 『もしドラ』の時に感じたことですが、セグメントごとに細かくアプローチをする場合、より適切な宣伝文句を考えることができるのはクリエイターだけだと感じました。クリエイターさんは自分のプロダクトのよさを一番理解している存在なので、『この読者に届けるためにはこういう風にアプローチすればよい』ということがわかります。細分化された読者ごとに細かくトーン&マナーを調整してマーケティングができるのはクリエイターさんだけなのです」

 このように、コンテンツのマイクロ化とそれに伴うマーケティングの変化が進み、コンテンツの作り方、届け方が変わる中、その解決策として加藤氏が出した結論がcakesだった。

 「デジタルの浸透で打撃を受けた業界の筆頭として挙げられるのが音楽業界であり、出版もデジタル化の波にさらされつつある状況です。しかし、デジタル化の影響で受けた打撃は『CDが売れなくなった』ことで、実は音楽著作権を管理するJASRACの売上はほぼ変わっていません。

 つまり、音楽を消費する手段が変化しただけで音楽を消費する量自体はそれほど変わっていないのです。出版もこれから間違いなくデジタル化が進みますが、有料課金の仕組みを作らないとクリエイターさんにとっても自分たちにとっても、本当にマズイという思いが強くありました」

Web上にはプロがド本気で作ったコンテンツがない

 Webを選んだ理由は他にもある。加藤氏はいまのWebについて「Web上にはプロの作家がド本気で作ったコンテンツが載っていません」と言いきる。

 「いまWeb上にあるコンテンツの種類をざっくりわけると、宣伝・販促のためのコンテンツとアマチュアのコンテンツの2種類しかないと感じます。つまり、プロの作家が本気で書いたコンテンツがありません。最もみんなに浸透しているメディアであるにも関わらず、プロの作家のコンテンツが載っていない。Webはおかしな空間なのです。

 よく例え話で使うのですが、アマゾンが登場した時に『インターネットではモノは売れない』と言われていましたが、いまの状況はご存知の通りです。それが、コンテンツビジネスにも起こるのではないかと思います。つまり、『Web上でプロが作ったコンテンツを普通に買える場所』を作ることができれば、ビジネスとしても十分に成り立つと考えました」

 では、cakesではどのようなコンテンツが読めて、どのようなビジネスモデルとなっているのだろうか。コンテンツは加藤氏の知り合いを中心に、スタート時には30人程度の執筆者を準備。津田大介、山本一郎氏、finalvent氏といったネットではお馴染みの著名人に加え、茂木健一郎、岡田斗司夫、大槻ケンヂといった書き手を揃えバラエティー感を出している。また、週刊アスキーやダイヤモンドといったメディアからもコンテンツが配信されている。

 料金体系は非常にシンプルで150円/週でコンテンツが読み放題。クリエイターへの支払いは掲載時に支払う原稿料に加え、インセンティブも支払っている。インセンティブは1か月に一度ページビューを集計し、ページビューに応じた金額を支払う仕組みで法人メディアについても同様である。

 「150円/週なので1か月で600円程度となります。売上の6割をクリエイターさんへの分配原資としていて、メディアさんも同一の条件です。単純計算ですが、会員数が一万人であれば月の売上は600万となり、360万が分配金額となるので全体の10%ページビューを稼いだら、36万円がクリエイターさんの懐に入る計算です。値段が一律でないのは運営側にとっても不便ですし、何よりユーザーにとっても不便なので一律でよいのではないかという理由からです」

Webでは強いニッチがウケる

 コンテンツの品揃えについては、いまも試行錯誤の最中だというがWebでウケるコンテンツの性質やボリューム感を掴みはじめているという。

 「Webでは“強いニッチ”なコンテンツがウケる傾向にあり、万人には刺さらないが必ず刺さる人がいるという内容のコンテンツが好まれます。また、すでにネット上で有名な方に新しいテーマで書いてもらうと、これまでとは違った内容のコンテンツとなります。例えば、山本一郎さんという尖ったキャラクターを持つ方に結婚をテーマに書いてもらっています。このコンテンツはページビューも好調です。

 ボリュームは個人的には8,000字~10,000字程度のものをつくって、分けて掲載するのが面白いなと感じています。そのぐらいのボリューム感で面白いキャラクターの方にいろいろ書いてもらうのがよいのではないでしょうか。また、コンテンツの作り方という面では、インタビュー記事との相性がよいと思います。面白い方々はたいてい書く時間がないケースが多いので、旬な話をサクっと聞きて記事にまとめたコンテンツはWebと相性がよいですね」

画像を説明するテキストなくても可
cakesではあの山本一郎氏が結婚について語っているコンテンツが読める(全文読むには購読手続きが必要)

 また、cakesは、独自のアルゴリズムを元に読者の閲覧行動のデータから読者の趣味・嗜好にあったコンテンツが自動的に表示される機能が実装されている他、スマホ、タブレットといったデバイスでの閲覧を意識したユーザービリティにこだわっている。

 「コンテンツの閲覧環境としてスマホ、タブレットが一般化するのは間違いありません。朝、スマホを見たら自分の好きなコンテンツが5個並んでいて、昼休みに見たら別の5個が並んでいて、というように読者の趣味・嗜好、利用シーンに合わせたコンテンツ配信に取り組んでいきたいと考えています

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クリエイターがマーケティングしやすい機能

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/09/19 11:29 https://markezine.jp/article/detail/16478

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