新しいことにチャレンジし“カテゴリ・クリエイター”になれ
青葉 ―― 優秀なマーケターは、どんな人でしょうか?
こと車のマーケティングに関して言うと、今は優秀な営業マンこそがマーケティングのプロだと感じています。日産には、毎年100台のクルマを10年販売し続けるプラチナ営業マンと呼ばれる人がいます。彼らを一言で表すと、商売の基本ができているのです。車は決して安い買い物ではないので、こちらも1年掛かりで販売計画を立てていくわけですが、その中で家族構成や暮らしの状況といった情報を得て、ついには気持ちまで分かるほどにお客様のことを深く理解していくのです。
彼らのノウハウを我々本社が一般化し、ひとつのシステムとして構築できれば、とても競争力の高い会社になるはずです。その実現を今も目指しているところです。
青葉 ―― 営業マンのノウハウを本社で把握し、仕組み化してまた全国の営業現場で活かしてもらえれば、全体のレベルアップが可能ということですね。マーケターの仕事は、さまざまな切り口で視点を持つことが次のアイディアにつながるかと思うのですが、ご自身が日常生活の中で心がけていることはありますか?
新しい話題の場所には、混んでいてもいち早く行くようにしています。例えば今年はお台場のダイバーシティや、スカイツリーにもオープンして間もないころに行きましたね。今、世の中の人が関心を持っていることに常にアンテナを張ることは意識しています。
青葉 ―― それでは貴田さんにとって、マーケティング・プロフェッショナルとは?
「新しいことにチャレンジできる人」ではないでしょうか。マーケティングの業務自体、トライ&エラーを積み重ねて探っていくものなので、成功も失敗もあってやっと前に進めるのだと思います。当社の例でいえば、まだ企業ブログという取り組みをどの会社もやっていない2004年に「TIIDAブログ」を立ち上げました。それこそリスクや運用方法など誰も分かっていませんでしたが、考え抜いてチャレンジしたからこそ得られたものも大きかったのだと思います。
今、新しいメディアやサービスが次々と登場し、技術の進化も非常に速いですが、だからこそ若い人には新しいことに挑戦して“カテゴリ・クリエイター”になってほしいと思っています。今までになかった新しいものを作ることは、なにも商品開発の領域だけでなく、マーケティングの世界でもできることです。
青葉 ―― 最後に、若手のマーケターやビジネスマンにメッセージをお願いします。
優秀なビジネスマンは、フットワークが軽く、野球に例えるなら、ゴロを積極的に拾いに行ける人です。それから5年後、10年後を見据える努力を怠らず、先見性を備えています。今進めている仕事に責任を持っているからこそ、将来どうなるのかをよく考えており、常に問題意識を持って仕事に当たっている、そういう人には、未来のリーダーシップを執っていってもらいたいです。
それから、特にマーケターの方には、細かい手法やテクニックを論じすぎずに“マーケティングを大局的に見通せる力”をつけてほしいですね。部分的な数字に一喜一憂するのではなく、その数字がリアルな成果にどうつながるのか、全体のストーリーを描けることのほうが大事だと思っています(文・高島知子)。
昨年、自然災害と為替変動による逆風にもかかわらず過去最高の販売台数を実現した日産自動車。中期経営計画「日産パワー88」を発表し、ブランドパワーとセールスパワーを会社の重点領域に位置づけています。
ブランドを強くすることで、販売・マーケティングプロセスを効率的にする取り組みにも注力。オーバーオール・オピニオン(お客さまの好意度)、パーチェスインテンション(購入意向)、そして販売するすべての車から得られる収益に至るまで、測定可能な領域を把握した上で、売上を向上させるマーケティング活動を行っています。
セールスパワーについては、各市場のニーズを取り込み、販売台数と市場占有率の向上を目標にしています。店舗を増やすとともに、1店舗あたりの販売台数を増やし、販売効率の向上に力を入れています。
貴田さんは、生産管理部門で全工場の部品物流改革プロジェクトを遂行され、入社当時からたっての希望だった営業部門に異動、そして日産を代表する「ティアナ」や「スカイライン」といった車種のブランドマネージャーを歴任され、現在は販売促進部にてオンラインからオフラインまでを統括するマーケティング責任者として陣頭指揮をとられています。
取材中に「日産らしさ」という言葉が何度も登場しましたが、どこから見ても日産らしく見えることを念頭に、販売会社との連携を大切にし、消費者が受け取るメッセージに一貫性を持たせることに注力されています。
製造現場から販売現場まで、豊富な経験と知識を持ち合わせている貴田さんだからこそ、統合的なマーケティングの仕組みを作り、磨き込みの徹底ができているのだと痛感しました。
