「マーケティングをマネージメントする」という視点
このような課題へのソリューションのひとつとして、1990年代前半に「統合マーケティングコミュニケーション(Integrated Marketing Communication:IMC)」という考え方が登場してきました。これは、ノースウェスタン大学のドン・シュルツ教授らが提唱したものです。
IMCの特徴は、消費者のデータベースを使ってターゲット別にセグメンテーションをおこない、すべてのコンタクト・ポイント(消費者との接点)において企業のメッセージをセグメント別に届けるようにマネージメントするという点です。
よく広告業界でATL(above the line:一般的にマス広告)、BTL(below the line:一般的にセールスプロモーション施策)、TTL(through the line:ATLとBTLの統合)などといわれますが、すべてのコンタクト・ポイントを有機的に統合し(integrated)、つまり、above the lineもbelow the lineも一気通貫で利用し(through the line)、マーケティングをマネージメントするという概念です。
ここで、「マーケティングをマネージメントする」という発想が大事になってきます。IMCでは、ブランド・エクイティ(ブランド資産)の算出やマーケティング目標の明確化、ROI(Return on Investment:投資効果)分析の重要性についても触れられています。つまり、through the lineでROI分析しないとダメですよ、ということです。「広告効果測定して、マーケティングをマネージメントしましょう」といってもいいでしょう。
マネージメントとは、資源や資産、リスクなどを管理し、ビジネス上の効果を最適化、最大化することです。マーケティングをマネージメントするためには、その効果測定、つまりアトリビューションが必須ということですね。アトリビューション・マネージメントが大事だと言い換えてもいいでしょう。
アドテクノロジーの発達により、アトリビューション・マネジメント実践環境が整っていく
しかしながら、IMCの考え方や「マーケティングをマネージメント」するという発想は重要ですが、それを実践するとなると簡単ではありません。
とくに、インターネット以前の時代においては、消費者のデータベースを作成し、ターゲットセグメント別にメッセージを届けたくても、それに対応できるメディアや施策に限界がありました。
以前は広告主企業が各世帯の情報を収集しデータベースを作成できたとしても、そこに届けることができるのは、紙のダイレクトメール(DM)、定期購読している雑誌や宅配の新聞などでした。しかし、これらは、開封したのかどうか、読んでいるのかどうかを測定できません。また、テレビやラジオは、エリアや時間帯でターゲティングすることはできますが、細かい消費者属性別のセグメントはできません。そして何よりも、本当に広告を見てくれているのか、聞いてくれているのか分かりません。
そのため、パネル調査やアンケート調査などで対処しているわけですが、全数調査は難しく、また即時性もないため、実際のマーケティングの現場でマネージメントに使う、あるいは日々のオペレーションに使うまでには至らなかったのです。広告効果測定を行いたくても、技術・環境が整っていなかったこともあり、アトリビューション・マネージメントができなかったのです。言い換えると、アトリビューション・マネージメントの実践環境が整うまでには、アドテクノロジーの発達やビッグデータの解析技術などの進歩を待たねばならなかったのです。
さて、今回はアトリビューションが注目されるようになった背景について、順を追って説明してきました。小手先の手法だけでなく、背景から押さえておくことで、アトリビューションの概念をきっちりと理解することに役立つはずです。次回からは、インターネットが普及する1990年以降の状況からアトリビューションが出てくるまでの流れを解説していきます。
