ターゲットを絞ると企業のメッセージが「宣伝」から「自分ごと」になる
── 松永さんの活動は、マーケティングの基本を押さえたものばかりです。日頃の活動において、気に留めていることはありますか。
「伝わらない前提で考える」ということです。昨今の消費者はたくさんの情報を持っていますが、伝える側はそれを考慮せず、さらにたくさんのことを伝えようとします。消費者には、せいぜいひとつのことしか伝わらないと留意しておくべきです。
── ひとつに絞っても伝わらない場合は、どうしたらよいですか。
伝え方を変えたらよいと思います。我が社には無添加のハミガキがありますが、「無添加」と訴えるのではなく、「ハミガキは食品と同じ」とメッセージを変えたことで、3年で売上が140%に上がりました。まず消費者の立場に立つこと。そのうえで、「商品のどこに共感してくれるか」を考え、訴求内容を見極めることが重要です。
── なるほど。
加えて、大切なのはターゲットを絞ることです。いま、弊社は「ヨガをする人=ヨギー」向けに商品を訴求すべく、ヨガのミニ番組への提供をしています。またインフルエンサーとなるインストラクターの方の活用、ヨガスタジオによる体験型プロモーションなども展開しています。
── ターゲットが「ヨガをする人」とは、かなり限定的な気がしますが。
ヨギーはナチュラル志向の方が多く、無添加商品に興味を持って下さるのでは、と考えたのが始まりです。でもターゲットを絞ることで、「環境を考える」という一見誰にでも当てはまりそうな思想を、より「自分ごと」として受け止めて下さる効果があるのです。
── 企業のメッセージが、「宣伝」ではなく「自分ごと」になるのですね。

日々マーケティング活動を行っていると、どうしても企画の面白さに目がいきがちです。でも、その企画が目的や理念につながるものか、意識せねばなりません。
弊社は2012年秋、屋久島の海を舞台にスイムツアーをする「屋久島オープンウォータースイミング」の協賛を行いました。屋久島と弊社に深い関係があったわけではありませんが、屋久島は自然遺産にも登録された自然豊かな場所ですし、何より水が柔らかい。「健康な体ときれいな水を守る」という理念を消費者に伝えるためには、よい活動だと思いました。
このように、理念と一貫性のある活動を続けていたら、いつしかそれが「ブランド」になると思っています。ブランドはメーカーがつくるものではなく、消費者のなかに生まれるものだと私は思います。
── ありがとうございます。最後に、同じくマーケティングに関わっている方へのメッセージがありましたらお願いします。
自戒も込めていますが情熱をもって行動し続けてほしいです。情熱があれば、いい人とつながることができます。さきほどご紹介したヨガ番組は、島本麻衣子さんというインストラクターにご協力頂いていますが、もとは知り合いでもなんでもありませんでした。ヨギー向けの企画がもちあがったとき、以前テレビで拝見した島本さんをふと思い出し、制作会社を介して出演を依頼してもらいました。
このように、思いがあると、常にアンテナを張った状態にもなりますし、人と人が自然とつながります。もし壁を感じている方がいたら、まずはパソコンを閉じ、自分の情熱を人に伝えることからはじめてはいかがでしょうか。きっと道がひらけると思います。