半導体メーカーのインテル、Spotifyで新しいターゲット層にリーチ
次の事例は、半導体メーカーのインテルです。インテルといえば、PCやMacBookに使われているCPUを製造するメーカーで、言ってみればB2B企業であり、IT業界の人間にとっては最重要企業のひとつです。しかし一般消費者への認知度という面ではまだまだリーチできるターゲット層が多く残されています。

インテルは2012年6月、Spotify音楽アプリ「Intel Sifter」をローンチしました。Spotify音楽アプリは前回の連載で説明したように、Spotifyデスクトップアプリ内で音楽コンテンツにエンゲージできるアプリケーションで、ブランドやメディア、アプリメーカーが「ソーシャル」「ディスカバリー」など多岐に渡る分野を展開しています。
インテルが発表した音楽アプリ「Sifter」は、Spotifyの2000万曲以上にのぼる楽曲カタログから聴きたい音楽を機械的なレコメンデーションや検索から探す代わりに、ユーザーのインタレストグラフに基づいたレコメンデーションと、Facebookのソーシャルグラフでつながる友人の趣味嗜好に基づいたレコメンデーションを通じて、新しい音楽に出会うことができるソーシャル音楽アプリです。
Sifterを通じてユーザーは友人と音楽を簡単に共有でき、また音楽と出会うことができるようになりました。ラジオやテレビのように一方的に音楽をプッシュされるのではなく、人と音楽を共有しながら体験するという、従来のマスメディアにはできない音楽体験がこのアプリによって実現したのです。その結果、Sifterはローンチ後に、アプリの平均利用時間が徐々に増加し、最終的にはSpotify音楽アプリで最長となる1時間30分を記録。キャンペーンの成功事例として結果を残しました。
なぜ、インテルはSpotifyを採用したのか?
そもそもなぜハードウェアメーカーやIT企業がクライアントのインテルが、Spotifyで音楽アプリを提供する必要があるのでしょうか?
Sifterが実現する音楽体験は、汎用性が高く効率性に優れたインテルのCPUとは正反対のイメージです。ユーザーの趣味嗜好やつながりに最適化された、ソーシャルでパーソナルな体験をもたらします。インテルは音楽という誰もが親しみやすいコンテンツをキッカケにすることで、ユーザーに好感をもってもらい、クールでポジティブなブランドイメージを構築する戦略を立案しました。その結果としてローンチしたSifterは、インテルのブランドイメージを、より消費者寄り、特に若者寄りに変えてしまう工夫が組み込まれた施策と言えます。

インテルの音楽を使ったブランディングはSpotifyにとどまりません。MTVとのパートナーシップ、米国で人気のピッチフォーク・フェスティバルへのブランド・スポンサーシップ、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)でのソーシャルリスニング・サービス「Turntable.fm」とのコラボレーションなど、インテルは若者との関係構築とブランド訴求に向けて、音楽と連動するあらゆるチャンネルを通じた取り組みを積極的に行なっているのです。