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MarkeZine Day 2025 Autumn

統括編集長インタビュー

「ネットをフル活用しクリエイターと読者のために世界を変える」『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』の剛腕編集者が描くコンテンツの未来像


場所が違えば、価格が変わるのは当たり前

 ―― でも同じコンテンツなのに、モーニングで読む人は有料、ヤフーで読む人は無料なのは、なんとなく違和感があります。

 そうですか? だってシャンプーは、コンビニとスーパーで値段が違います。単行本は再販制度によって価格が守られていますが、その形が単行本でなければ、価格も違っていいと思いませんか?

 ―― そう言われるとそうですね(笑)。

 出版社を「マスコミ」なんて表現するから、単行本という商品が「特別なもの」になるんです。日本には家電や日用品などメーカーがたくさんありますが、出版社は「コンテンツのメーカー」だと考えたらいいんです。

 ―― でも、有料で買った読者から文句出ませんかね?

 実際は蓋を開けてみないと分かりませんが、少なくとも私は、コンビニで「ドラックストアよりも高いじゃないか」と文句を言ったことはありません。

 ―― 逆にヤフーに無料公開することで、雑誌の販売部数や、単行本の売れ行きが悪くなることはないでしょうか。

 長期的に見ないと、答えは出ないと思いますが…。ただ、「無料にしたらもうマネタイズできないのでは」と思うのは拙速だと思います。

 ―― なぜですか。

 毎週インターネットで読んで下さった方が、たまたま駅のプラットフォームでモーニングを見て、「新幹線で読んでみるかな」となるかもしれない。同じシャンプーでも、ドラッグストアが2軒並んでいたら「安い方で買おう」と思うけど、ドラッグストアがない地域ではコンビニで定価商品を買うでしょう。

 ―― 時と場合によって適正価格は変わる、ということですか。

 はい。すべてのシチュエーションで無料のものを求めるとは限らない、と思います。そして何より、無料にすることで、エージェントにはいいこともあります。

 ―― ほう?

 いい作品なら必ずファンの裾野が広がります。たとえばファンが100万人いる作品よりも、1,000万人いる作品の方が、映画化されやすいかもしれません。映画化されると、さらに単行本が売れるかもしれない。裾野を広げた先に明確な戦略があれば、私は無料開放してもよいと思います。

 ―― アップル製品のように、同一価格を維持する戦略もありますね。

 それもひとつの戦略です。アップルはブランドを守るため、あえてそのような価格戦略をとっています。一方で「価格が高いもの」に価値を見いだす人もいます。

 ―― 誰ですか。

 熱烈なファンです。たとえば当社と契約する漫画家・安野モヨコさんには、『バッファロー5人娘』という作品があります。Kindle版の定価でモノクロは600円、カラー版は900円、コミックは1,470円で販売していますが、実は100冊だけ12,000円で販売したんですよ。

 ―― 漫画1冊で1万円超えですか!

 豪華な装丁で、全編カラーです。そして表紙をめくると、安野さんの直筆のサインが入っています。コミックの8倍の値段であっても、熱烈なファンは欲しいんです。

 ―― そう考えると、コンテンツの価格も、今後は二極化していくのかもしれませんね。

 もっとも多く流通するのは、出版社が出す単行本です。安い電子書籍と豪華本をエージェントが担い、もっとも一般的な、ライト過ぎもせず、熱狂的でもないファンのための本を作るのが、出版社の役割だと私は考えています。

 ―― 安さを求める人は電子版を買い、プレミア感を求める人は高額書籍を買う。単行本のターゲット層がだんだん不明瞭になってきました。

 紙書籍で安さを追求するということは、メーカーが読者のニーズを汲み取っていない証拠だと思います。

 ―― ということは、同じコンテンツでも「凝った高いもの」と「シンプルな安いもの」など、いくつかの種類に分かれていくということでしょうか。

 そうですね、もっと多くの種類が生まれるかもしれません。電子ならば、6種類ぐらいあってもおかしくないなと思っています。1.広告付無料コンテンツ、2.広告なし有料コンテンツ、3.広告付きで安価なカラー作品、4.広告なしのフルカラー作品、5.広告付きの無料動画コンテンツ、6.広告なしの有料動画コンテンツ、の6種類です。

 ―― だんだん、複雑になってきました。

 あくまで可能性の話です。最終的には作家やコンテンツの性格によって、ベストな方法を見極めるべきだと思います。

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クリエイターと読者が直接つながる場を作る

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

齋藤 麻紀子(サイトウ マキコ)

フリーランスライター・エディター

74年生まれ、福岡県出身、早稲田大学第二文学部演劇専修卒業。 コンサルティング会社にて企業再建に従事したのち、独立。ビジネス誌や週刊誌等を通じて、新たなビジネストレンドや働き方を発信すると同時に、企業の情報発信支援等も行う。震災後は東北で起こるイノベーションにも注目、取...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2013/07/17 13:17 https://markezine.jp/article/detail/17954

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