石谷聡史氏
さまざまな企業の統合マーケティング戦略のコンサルティング・プランニング業務を行なう一方、コンタクトポイント・クロスメディア・PDCAなどマーケティング・コンバージェンスに関連する新しい手法開発にも従事。『クロスイッチ-電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)やクロスイッチを元にした英語書籍『The Dentsu Way』(McGraw-Hill)を中心となって企画・執筆。中国・韓国・タイでも翻訳本が出版される。
クライアントにとって優秀な相棒でありたい
――この連載では、広告やデジタル、販促・PR、商品開発など、様々なマーケティング・コミュニケーション施策を横断して実施することで成果を上げられている方々に、考え方や未来の展望を伺っています。早速ですが、齋藤さんは様々なクライアントの仕事に携わられていらっしゃいますよね。特に、サントリー「角ハイボール」、ジェイアイエヌのPC用メガネ「J!NS PC」の一連のコミュニケーションをはじめ、これまでにはなかった「新しい市場」を作りだすようなコミュニケーションを手掛けていらっしゃることが興味深く、ぜひお話をおうかがいしたいと思いました。普段、どんな姿勢で仕事に取り組まれているのでしょうか?
新しい市場といっても、作っているのは僕ではなく、あくまでクライアントだと考えています。ただ、もちろん作り出していく上での意味のある存在でありたいと思っています。
前回この連載に登場されていた原野さん(参考記事)も、そうだと思いますが、クライアントと並走するような仕事のスタイルに強みがあるんじゃないかなと思います。
1社のクライアントと交わすコミュニケーションの総量は、すごく多いです。付き合いも長い会社ばかりで、長期的な視点で取り組めています。
――案件ごとを担うというよりも、パートナーのようなイメージですか?
そうですね、クライアントと一緒により勝ち目がありそうな道を探っていく感覚です。僕自身は電通でメディア担当や営業を経て、クリエイティブの仕事にも携わっているので、そもそもあまり“自分はクリエイターだ”という意識がありません。クリエイティブに限らず、クライアントのマーケティングやコミュニケーション活動の一端を担う、優秀な相棒になれればと思っています。
この連載「統合マーケティング・コミュニケーション」の統合って何かなと改めて考えたんですが、例えば角ハイボールのコミュニケーションだと、僕らは小雪さんや菅野さんの広告や店頭POP以外に「350ml缶で物足りない人がいるからもう少し容量の大きいサイズがあったほうがいいのでは」とか、「ソーダが瓶だけでなく、ペットボトルもあったほうがいいのでは」などと、商品自体にも関わることがあるので、確かに統合的に考えているといってもよいと思います。
――そこまで踏み込めるのは、やはり信頼関係あってこそなんですよね。統合という点では、一つのブランドについてだけでなく、例えばサントリーのウイスキーでは角瓶以外にもトリスや響など他ブランドを含めて手がけられています。
これは徐々に増えていったんです。今ではウィスキー全体における各ブランドの立ち位置を踏まえて個別の企画を考えられるので、より戦略的なコミュニケーションができていると思います。
でも根底にあるのは、サントリーのチームの皆さんがすごく考え抜いていらっしゃることにあります。もう5、6年前ですが、オリエンで1枚の絵を見せてもらいました。たくさんの人の中に、ハイボールをいろんな理由で楽しんでいる人と、これもいろんな理由でまだ試していない人がいて、間には“買わずの川”が流れているんです。
「CMでも店頭でも飲食店を介してでもいいから、この川を渡ってきてくれる方法を考えてほしい」と言われて、一瞬で腑に落ちたのを覚えています。