コミュニケーションの力で世の中をより良くしたい
――ビッグデータの活用をはじめ、今はマーケティングに当たり前のようにデジタルが組み込まれてきていますが、どう捉えていますか?
僕は根本的には、マスマーケティングもデジタルマーケティングも変わらないと思っています。肝心なのはアイデアの芯が何かということで、どういう手法を使おうがつまらないものは話題にされないし、シェアもされません。
ただ、データに関しては何か新しい取り組みが必要だと感じています。ネットはマスと並列なメディアというより、もはやインフラに近い。それだけに、多くの企業がオンラインで顧客と直接つながりたいと思っているにもかかわらず、顧客データは今アマゾンや楽天、あるいはファンを抱えているフェイスブックに蓄積され、企業や僕らは直接データを持ってはいないんです。だから我々も何か、顧客データを直接得るための投資が必要なのではないかと感じています。
――2005年に電通の子会社として立ち上げられたdofはこの春から独立をされました。思い切った決断だと思うのですが、なぜあえて独立の道を選ばれたのかと、これからの展望を聞かせていただけますか。
電通から独立した一番の理由は、経営者としての危機感を高めるためです。dofは同じく電通出身のクリエイティブ・ディレクター、大島征夫と立ち上げて、今は4人でやっていますが、いずれ僕や大島がいなくなったときに会社はどうなるのかな、と最近思ったりするんです。会社としてこの独立を機に、より経営のことを考えたいという思いがあります。

もう一つは、もっと柔軟に世の中にかかわれないかと思ったことです。例えば先日、友人の立ち上げた食品会社のネーミングやロゴデザインを手がけたのですが、「安心な食材を提供したい」という起業の趣旨に賛同したので手弁当で携わりました。その代わり、彼は僕に社外取締役になってくれと言い、上場前の株を譲渡してくれた。
金銭で割り切ることに捉われなければ、ビジネスを成立させ、かつ世の中をより良くするために僕らがコミュニケーションの力でできることがまだまだあると実感したんです。
個人的には、あまり中長期プランがないんですが(笑)、振り返ると3~4年スパンで担当業務や立場が変わり、それぞれの間で出会った人たちにすごく成長させて頂きました。いろいろなことに挑戦したいので、楽しんでやっています。
また、電通に10年、dofが9年目なので、10年スパンでも違うフェーズに移っているような気がします。僕は72歳まで働こうと決めているんですが、そうすると42歳からあと3周りある。いつも「次は何をしようか」と考えているくらいが、人生おもしろいんじゃないかなと思っています。
齋藤さんはもともと、電通の独身寮の先輩で、ある企業のマーケティングコミュニケーション戦略のお仕事でもご一緒していました。電通時代・dof立ち上げ以降含め、様々な経験と顔のある齋藤さんが統合マーケティングコミュニケーションを実践する際の、仕事の信条をぜひお聞きしたいと思いました。
特に印象に残ったのは、「クライアントの優秀な相棒でありたいという姿勢」、「一緒に勝ち目のある道を探して作っていく仕事のスタイル」、そして「短期的な売上(点)だけでなく中期的なブランドの成長(線)を大事にされている」という点です。
良いアイデアや企画を考えても世の中に出なければ、ないのと同じ。クライアントと考え方や仕事の進め方を共有しながら具体化していくことで、マーケティング・コミュニケーションのコンセプトづくりからディテイルの施策までを一貫して行いやすくなるのはないでしょうか。企画のアイデアだけでなく、それをどのように実現していくかも、プランナーの大事な仕事だと改めて感じました。
