生活者のアイデアでこれまでにない店舗を作る
押久保:なるほど、だから1年前に公開したのですね。
坂田さん:ショッピングセンターですから、夕飯の野菜を買いにきたおばちゃんや、家族サービスで訪れたお父さんなど、いろいろな方がいらっしゃいます。そんな何気なく訪れた生活者でも、ふらっと立ち寄れるようなクルマのお店にする必要があります。このような企業のニーズをユーザーも参加しやすい「お題」に変換してアイデアを募集しています。現在、Blabo!では「クル マに興味のないわたしもおもわず立ち寄っちゃうクルマのお店。いったいどんなお店?」という問いかけにいろんな切り口のアイデアが寄せられています。

北島さん:Blabo!での議論を通じて、車を動かしたい、お出かけしたい、というモチベーションはどこにあるのか、を考えています。これって、会社の存在意義を考えること、そのものなんですよ。これまでは、房総半島で車の販売店を展開しよう、そのためには人を何人集めればよいのか、店内のディスプレイにはいくらかかるのか…などをまず考えていました。もちろん、そういった視点も重要ですがそれでは他との違いを生み出せない。だから「なぜ私たちは車を売っているのか」「すべての人に、素敵なお出かけ体験を提供するには?」という原点に戻ってプロジェクトを進めています。
押久保:別の業種ですがある大手アパレルさんに取材させて頂いた際にも、「私たちは洋服ではなくライフスタイルを提供している」とおっしゃっていました。もちろん効率も大切ですが、それだけだと価格競争に陥ってしまいます。
北島さん:クルマとユーザーの間に立ち、その間でどんな価値を生むか、を考えねばなりません。でも小売業の発想で考えると、「車をどう並べるか」という議論に陥ってしまう。KPIも部分最適になっていくでしょう。
押久保:現在までのアイデアの集まり具合はいかがですか。
北島さん:新しい気づきがたくさんありました。「お出かけしたくなるときは、どんなとき?」と聞いたとき、「髪を切ったとき」「カメラを買ったとき」という人がいて、「確かにな」と思いました。日常生活のなかにも、お出かけしたくなるシーンっていっぱいあるんだなと思いましたね。
押久保:アイデアは、どのように活かされるのでしょう?
北島さん:まだ決まったわけではないですが、広がりのある議論が生まれています。「一眼レフは高いから、レンタルできる場所があったらいいね」「撮った写真は、プリントアウトしたいよね」「アプリと連携したらどう?」みたいに。ガリバーのお出かけアプリを作って、房総半島のアルバムを納品するサービスをしてはどうだろう、とか。車は購入したら終わりですが、このような場があれば、買ったあともお客さんと長期的に繋がることができます。また車を買わない人とも、関係を築くことができる。車屋以上の広がりが見えてきました。
押久保:ユーザーの声をまとめていくプロセスも重要ですよね。
坂田さん:まずは生活者の声を聞き「どんな不満があるのか」「どこに課題があるのか」をしっかりと把握します。そこから企業のサービスやコンセプトを開発しています。逆に言うと、企業論理で「車を何台並べるか」が先に来てしまうと、生活者不在の商品開発が進んでしまう 恐れもあります。企業の課題を整理し、ユーザーを巻き込んで何を解決したいのかを設計する ことが、オープンイノベーションを正しく活用する上では重要です。
押久保:なるほど。可能性が広がりますね。
坂田さん: ただオープンイノベーションも万能ではありません。時折Blabo!を利用すればイノベ ーションを生み出せるといった勘違いをされる方もいらっしゃいますが、オープンイノベーションを上手に活用するには、何を実現したいのかというビジョンを企業が明確に持つことや、生まれたアイデアを事業化する能力などが問われます。ですから、私たちは実際にサービスを具体化するところまでお手伝いをさせていただいております
押久保:最後に今後の目標を教えてください。
北島さん:Blabo!を通じて、「なぜ車を売っているのか」という原点に立ち戻るきっかけを頂けました。でも、もっと大切なのは、店づくりやまちづくりに多くの方が参加し、楽しいと思ってもらえること。楽しい場所には、人が集まってきますから。1年後に「房総半島の店舗は、俺が作った、私が作った」と言っている方が1万人ぐらいいたらいいですね!
坂田さん:オープンイノベーションは、黎明期です。まだまだ商品やサービスの開発に生活者を参加させようという考え方は浸透していません。ただ、三井不動産、アサヒビール、 ガリバーをはじめとした大企業がBlabo!を取り入れた商品開発や店舗開発を実現することで、少しずつ実績が生まれています。Blabo!としても多くの企業の方々に、外部の知恵を取り入れる楽しさや有用さを感じ ていただき、このような取り組みを広めていきたいと思っております。
押久保:ありがとうございました。
