「サーチ」:投資効率はいいが、禁断の部分も
土谷 本日は、マリンソフトウェアのお客様でもあるデルの千歳さんとの対談、大変楽しみにしております。デルはPCのネット販売を世界中で展開するEコマースの先駆者であり、独自のオンラインマーケティング戦略をお持ちです。まず、千歳さんのミッションについてお聞きしたいと思います。
千歳 いわゆるマーケティングコミュニケーションの領域で、ECをやっている関係で「オンライン・デマンド・ジェネレーション」と呼ばれる職務が中心です。ブランドやカテゴリに対して関心を持っている方をサイトへ誘導しお買い上げいただくまでの環境づくりや、コミュニケーションのあり方を考えて実行する仕事です。パソコンという購買間隔の長いものを販売しているので、何年かに一度めぐってくる買い物のタイミングを逃さないように、いかにオンライン上でマーケティングをしていくかがテーマです。
土谷 予算配分で言うと、デルはかなりの部分をSEMに割いていますよね。
千歳 日本でも有数のSEMにお金をかけている会社だと代理店さんから聞いています。サーチはEC事業者にとって、コンバージョンに一番近いヴィークルであり、短期的な投資効率はよくなります。ただし、そこに予算を寄せすぎると縮小均衡に陥り、中期的な顧客開拓がおろそかになりかねませんので、購買過程全体を想定したメディアミックスが大切だと考えています。
土谷 自分の興味を検索という能動的行為で自己申告してくれる方々が対象ですから、刈り取りという意味で効率がよいのは当たり前ですね。その一方で「サーチは頭打ちだ」という人も多いんです。太い金脈だけにリソースを投下していればいつかは掘り尽くして終わってしまいます。重要なのは太い金脈は確実に少ない時間や人手で対応し、次の金脈をみつけるところに知恵を注げるかです。太い金脈にはテクノロジーで効率化を、新しい金脈にはマーケターの経験と知恵と時間を充てられれば頭打ちは防げます。
千歳 本来はオーガニック検索で必要十分なトラフィックが稼げていれば良いのですが、こちらが意図的に発信したい何かが存在する場合や、異業種や競合対策としてSERPのカバレッジを高めるなど、攻守両面でSEMの果たすべき役割があります。投資配分という意味ではコンバージョンを基準に考えがちですが、そういった役割も含めてSEMの効率を考えるとことが大切だと思います。
土谷 「攻守両面」という感覚というのはこれまでの広告にはない感覚ですよね。
千歳 そうですね。新聞広告であれば、朝、開いた時に「競合も出ていた」という感じですが、オンライン広告の場合は非常にダイナミックな展開になるので、そういう感覚はやっぱりあります。
土谷 新しい技術がどんどん生まれるオンラインの世界ではルールが確立されておらず誰かが取り締まってくれるわけでもないので、他社が自社のブランドワードを使っていても自分たちで対処せざるを得ない。こういう負荷がマーケターにかかってくるのもオンラインならでは。とくに有名なブランドではその悩みは尽きません。マーケターの方はやらなければならないことが山ほどある。
実験的なことに使える予算はどうやって獲得しているのか
土谷 アメリカの企業には新しいテクノロジーは自社を優位に導く武器だという認識のマネージメントが多いと感じますが、日本ではあまり積極的ではない印象です。ツールの導入決定は経営判断だと思ってるんですが、予算配分も同じ気がして、決裁者に説明するとき苦労されたことがあるんじゃないかと想像するのですが。
千歳 これまでの実績と統計的に推定される期待収益などを勘案しながらメディアプランを組みたてていますので、ある程度合理的な説明が成り立つような環境にはなっています。ただ、ブランドとして取り組まなければいけない課題がある場合には、一定の割合で予算をそういった合理性からは切り離して運用したりする場合もあります。
土谷 実験的なことに使える予算を認めさせる方法、ぜひお聞きしたいです。
千歳 認めさせるというか、マーケティングとして抱えている課題や目的に対する合意がある前提でプランを進めますので、そのために捻出しているかたちになるんですけどね。一定の予算を実験的なことに使うとして、それが短期的には空振りになる場合もあると仮定すると、例えば100使って100のリターンを出せばよかったものを、80で100のリターンを出すような感じになります。ひとつひとつの活動に対する精度を上げなければならないので担当レベルではしんどくなります。実際には、そうやって配分した予算は、今までの価値観では選択しないような媒体や手法になりますが、それがどんなインパクトをもたらすかをチーム全体で学習する。それがあるから、単回帰的なプランにならない微調整ができるんです。
土谷 オンラインは結果がすぐ見えてしかも修正もすぐできるだけに、テストをいかに地道に繰り返し次の策に活かすかが成果に関わります。予算も有限ですが、テスト的な取り組みをするのも時間との戦いですよね。
千歳 我々は四半期(13週間)でビジネスを完結しているので、スクラッチで何かを仕込む場合のワークロードは高くなりますね。
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「ディスプレイ」:間接効果が可視化され、投資額を決めやすくなった
土谷 ディスプレイについては、アドテクノロジーやツールの進化によってパフォーマンス向上や効果測定が可能になってきました。
千歳 ディスプレイはダイレクトなコンバージョンを唯一のKPIとするとやはり非常に効率が悪い。膨大なインプレッションとそこで我々のクリエイティブに対してどのようなリアクションがあったのかを掴む努力が必要になる。その手段として、アトリビューションやビュースルーを活用することで間接効果が見えてきたのは前進を感じます。アドテクの進化に歩調を合わせていかに動的にコミュニケーションしていくかというのがこれから先の課題かなと。
土谷 マリンソフトウェアでもオンライン上のアトリビューションを見られる機能を提供していますが、「アトリビューション」という言葉から皆さんが期待することは非常に幅広いと感じています。
千歳 アトリビューションは時間とお金と人的リソースを費やして取り組んでいます。購買に至るパターンの把握という意味では色々と理解が進み始めた一方で、そこから得られる推定値と実績の乖離を検証したりすることも必要ですので、時間をかけてモノにしていく必要があると感じています。
分析する情報の粒度や、オフライン媒体での接触、競合の露出量との関係などさまざまな変数や因子が存在するので、必勝パターンの特定を進めつつ、常に同じクラスターだけとキャッチボールしているような状態に陥らないように俯瞰する意識も必要だと思っているんです。パターンが見えてきちゃう良し悪しがありますので。
パターンがわかるというのはある程度、相手が特定できている状態じゃないですか。ということは、そのうち刈りつくしてしまう恐れがあるかもしれない。得意なクラスターがあって、その人たちをコンバージョンさせるのは手馴れてきました、という時点で新しいお客様を見つけるような仮説を求めてデータを見直すことが必要なのかもしれません。いい意味でカオスの状態を意図的に作る、と。
土谷 新しいお客様がどこにいるのかは、オーディエンスデータからある程度つかんでいるのでしょうか。
千歳 デルの中心顧客は30-40代の男性ですが、Facebookのファンのプロファイルを見ると、20代、30代の女性が一定の割合で存在する。媒体のプロファイルの違いと言ってしまえばそれまでですが、主要な購買層と、SNSを通じてなんらかの関係を持てている層の間にギャップがあるとも言えます。それをどう埋めるかを考えたときに、そこをファーストタッチにして、外のネットワークや自社サイト内での動きを観察して、改めてデータを見直す、という再検証的な作業も必要になると思っています。
ソーシャルメディアは「メディア」なのか?
土谷 ソーシャルメディアはいつごろから使い始めたのでしょうか。
千歳 Twitterを始めたのが、2009年の3月ころ。その頃は新しい広告媒体という発想でしたので、コンバージョンさせることが第一義でした。パソコンがどのくらい売れるのか1年間コツコツやってみたところ、そこそこの実績が確認できましたのでアリだな、と。今は、社内の各ファンクション、代理店さんも含めたヴァーチャルチームができあがっているので、システマティックに運用していますが、Facebookを始めてからは、運用面は外部のエージェンシーに任せて、我々はコミュニケーション戦略や実際の会話に対するレスポンスなどのポリシーを担当しています。
土谷 ソーシャルメディアを選択する際のポイントは?
千歳 前提にしているのはある程度個人が特定できるかどうか、サービスの特性と利用者の属性が我々の方向性に適しているかどうかを検討します。私の中では、ソーシャルメディアを「メディア」としてはあまり考えていないのです。メディアと考えるとどうしてもリーチがほしくなってしまう。インタラクションを通じて関係作りをしていくことに重きを置いて、その広がりを見ていきたいと思っているので、ある程度のリーチは投資するうえで絶対必要ですが、いたずらに数が多いことはあまりプラスになりません。
土谷 「ターゲットであろう人たちにタッチしているはず」というトラディショナルな広告の時代から、オンラインで「特定の誰かに確実にタッチしている」時代になってきました。タッチできた相手が誰でどんな人かを理解したうえで、そこからさらにコミュニケーションターゲットを広げていくデジタルマーケティングは従来型とは発想がまったく違います。いかにタッチポイントを増やすか、そのために何を使うのかをマーケターが考えなければいけない。
千歳 我々の場合、比較的購買間隔の長い耐久消費財を扱っているので、個人が見えているほうがやりやすい。おそらく業種業態によって期待するものが変わってくると思うのですが、代理店さんにはそういったビジネスの構造も加味したうえで施策をデザインするようなセンスを持っていただきたいと思っています。
土谷 自分たちの枠だけで考えないということですね。Facebookに関して言うと、米国では「いいね!」を追うことが一段落してリターンを重視する段階に入っており、Facebook広告を活用する動きが目立ってきています。それに応じてマリンソフトウェアでも、以前ターゲットしていた人たちの設定を再利用する機能や、ローテーションA/Bテストが簡単にできる機能、入稿をすばやく大量に展開するためのウィザードなどを用意しています。
さまざまな可能性があるメディアなので、まずは小額でもテストして、結果を見てまた考えて、そうやって自社に取っての必要な指標を導きだしておくべきだと思います。
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「モバイル」:買ってもらうデバイスは、実は何でもいい
土谷 デバイスの変化にはどのように対応していますか?
千歳 サイトへのトラフィックを見ても、タブレットを含むモバイルデバイス経由でのアクセスは増えています。また、パソコンとモバイルではトラフィックのピークやサイト訪問の目的にも差異があります。我々からすると、お買い物という意味ではどのデバイスでいつ買っていただいても構わない。ただし、コミュニケーションの観点で言うと、時間や場所といった行動特性にまで踏み込んだ、リアルタイムかつTPOに合ったダイナミックなコミュニケーションを追求していくことが今後、より強く求められていると思っています。
土谷 トラディショナルな広告の時代には、その性質上「最大公約数パターンはこれだ」と想定することが一番効率の良い方法だった。マーケティング全体もターゲットを静的対象のように捉える傾向がありました。ターゲットにリーチできているかも明確にしづらかったためクリエイティブの作り方も含め、この「最大公約数」が重用視されてきましたが、同じ発想でオンライン広告を使いこなそうとすると、むしろ無駄が増え効果が下がることになる可能性がありますね。
デジタルマーケターが陥りやすい罠
千歳 オンライン広告はトラックできるから、ファーストタッチとラストタッチの効率の良い場所が特定しやすい。だからこそ「ここが当たり!」に固執しすぎてしまうことがある。実は非常に狭いところを一生懸命掘り返していただけ、という経験は私自身もあるんです。
あるときを境に数字がついてこなくなる瞬間がある。「なぜだろう」と思って考えていると「ここは同じことばっかりやっていた」というのに気づくという経験が過去に何度もありました。そこがデジタルの便利なところであり怖いところですね。データに誘導されて気が付くと、すごい狭いところに行っちゃって大事な本流を逃しているという。
土谷 そういうときはどうするんですか?
千歳 一度頭の中をリセットして、自分たちがやってきたことを全否定してみたりします。コンバージョン率の裏側にある非コンバージョンの動きを想像したりする感じです。
あとは、フィールドに出たり、FGIなどを通じて生の声に触れることも大切だと思います。パソコン売場であれば、秋葉原と有楽町、郊外の家電店でマンウォッチングしたり、まったく関係ないカテゴリの広告活動からその狙いを想像したりすることで、新しい視点を得られることもあります。
デジタルの人が気を付けなければいけないのは、データだけ見てわかった気になってしまうこと。データから何かしらの見立てを作るセンスも大事ですが、相手は人間なので、人の生の動きや発言から得られるものもデータを嗅ぎ分ける上でとても役立つはず。なので煮詰まったら野に出るというのが一番僕はいいと思いますよ。
究極の「全体最適」とは
土谷 よく話題になる「全体最適」についてなのですが、立場やマーケティングの考え方の違いによるボタンの掛け違えがこの言葉を難しくしているのではないかと思います。
千歳 全体最適というのは便利な言葉だけに、私自身も局面に応じてその言葉に含める意味は異なっていると自覚しています。大事なのは時間、目的、範囲といったものを意識しておくことかなぁ、と。究極的な全体最適は、会計年度が閉まったときに利益が出て顧客が増えて、満足度も上がって、というような「会社として三方良し」な状態だと思いますが、デジタルマーケティングに携わる者としてはそこまで待たずに何か手ごたえを感じたいところです。担当している範囲で、四半期ないし半年程度の目的設定に対してミートするような施策が打てた場合が、PDCAのサイクル的にも良い塩梅なのかなぁ、と思います。
ただ、それは一階層上の人から見ると「部分最適」なんですよね。レイヤーが違うと全体のスコープが変わってくるので、みんなが「それだね」と思える全体最適は実はないという気がしています。各人のレベルで全体最適されて、それが積み重なった結果、お客さんが選んでくれるというのが究極の全体最適だと思っているのですが、どの会社でもそれは永遠の課題なのではないかな、と思っています。
土谷 最初から100%全体最適できるということはないからこそ、何を「全体」とするのか、その範囲設定をするのは広告主側のマーケターの責任。トライ&エラーで改善していくためには、仮にでも最初に枠をセットして始めてみなければ何も出てきません。
一方で経営者の方にぜひ理解いただきたいのは、デジタルマーケティングは何度でもテストができ短期サイクルで成果を追求できる世界であり、決して 「ツールは人に代わって作業するものではない」ということ。将来の金脈を掘り当てるためには大量のトランザクションをこなし何度も分析し再度実行しなければならない。以前は存在しなかった作業領域でありテクノロジーの力が必要です。日本の企業はツールを入れるのに二の足を踏むことが多い。現場を理解している担当者がいいと思っていても、上司を説得するのに時間がかかってしまう。そういうところは少しだけ発想を変えてみていただけたらと思います。これは成果を上げるための武器であると。今日は刺激的なお話、ありがとうございました。
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