レコメンドの固定観念にとらわれていないか?
アーリーアダプターが利用していた時代から、レイトマジョリティへと移行しつつある現在のEC。その変化に対応できずにいるサイトをいかに改善し、売上向上につなげるかにフォーカスしたゼロスタート社のECソリューション「ZERO-ZONE」は、デジタルデバイスやインターネットについての知識をもたない人も迷うことなく使える操作性を追求している。今回は、ゼロスタート代表取締役社長 山崎徳之氏に「レコメンド」について話を聞いた。
レコメンドといえば必ず言及されるのが、Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というもの。「協調フィルタリング」と呼ばれるこの手法が、Amazonの売上を押し上げていることはよく知られている。しかし、「固定観念にとらわれてはいけない」と山崎氏。レコメンドには、狭義のレコメンドと広義のレコメンドがあるという。
「多くの人が思い浮かべる協調フィルタリングは狭義のレコメンド。機械学習や相関係数にを用いたレコメンドで、買う人の趣味嗜好が出やすい商品に有効という特徴がある。一方、広義のレコメンドは本来の「おすすめ」という意味のレコメンド。日用品をよく買うお客様に、新しい洗剤や今日の特価品をおすすめする、といったもので、ユーザーの行動履歴は使いません。『この人はサバをよく食べるから、イワシをすすめよう』ではなく、『今日は、アジが安いですよ』とおすすめする。そのほうが、おすすめされるほうもうれしくないですか?」
従来の手法ではカバーしきれない領域があることに、いま多くのサイト運営者が気付き始めている。たとえば、デジカメや時計を型番で検索すれば、そのものズバリの検索結果を引き出すことは簡単だ。しかし、最近では、その商品のあとに出た新商品がある場合、その情報も表示するようになってきた。
「新商品が出たことを知らずに、去年のモデルを検索してる可能性ってあるじゃないですか。特に価格比較サイトの場合、値下げ率の大きい旧機種が上位に表示されやすい。それをわかったうえで購入するならいいのですが、もしかしたらこの人は5000円高くても、新機種がほしいのかもしれない。そういう場合には、『この機種を買っている人はこの機種も買っています』というおすすめより、単に『この機種の後継機種が出ています』というおすすめのほうが喜ばれる可能性は十分ある。ケースバイケースなので、組み合わせは非常に重要だと思います」
レコメンドで重要なのはモデルであって手法ではない
では、ゼロスタートのレコメンドエンジン「ZERO-ZONE Recommend」はどのような手法を用いているのだろうか。「最近はこれに収まらないところも出てきているのですが」と補足しながら、山崎氏はZERO-ZONE Recommendで利用されているレコメンド手法の例として以下の4つを挙げた。
サイトの特性に合ったレコメンドを実現するには、こうした手法をレコメンドエンジンに組み込んでいくことになる。しかし、「大事なのは手法ではなくモデル」と山崎氏は言う。
「レコメンドの効果を最大化するのに非常に重要な要素がモデルです。レコメンドを生成する際には、APIを通してデータの入出力を行い、数学的な演算を行うエンジンと接続します。ここで単なる演算をするだけでなく、ビジネスロジックを入力と出力に適用するのがモデルの役割。つまり演算はビジネスロジックのための道具にすぎません。複数のエンジン(レコメンド手法)の掛け合わせをサービスに合わせて最適化するモデルを実装すること、これによって精度の高いレコメンドが可能になり、収益とユーザ満足度を向上させることができるのです」
レコメンドの目的はユーザーに「気づき」を与えること。その背後では、精度の高いレコメンドを実現するために、エンジニアが試行錯誤を繰り返しているのだ。
レコメンドはテクノロジーの時代からサービスの時代へ
さまざまなデータと手法を用いて、より洗練されたレコメンデーションが可能になるなかで、山崎氏は、レコメンドが新たなフェーズに入りつつあると感じている。
「レコメンドは、テクノロジーの時代からサービスの時代に変わってきていると感じています。これまでのECサイトはアーリーアダプター、ITリテラシーや情報感度の高い人が使っていました。そういう人たちは、本やゲーム、フィギュアのように協調フィルタリングが効きやすいものを好む傾向があります。
これからのECはレイトマジョリティ、あまりリテラシーは高くないけれども、小売業界の売上の大部分を構成している人たちが利用するようになる。そういう人たちが求めるレコメンドというのは、協調フィルタリング的なものよりも『値引き率が高いですよ』といったもの。それらをいかに柔軟に組み合わせられるかがカギになるでしょう」
ECソリューション「ZERO-ZONE」では、レコメンド、サイト内検索、ビッグデータ検索、アクセス解析の4つのサービスを提供している。サイト内検索エンジン「ZERO-ZONE Search」はイトーヨーカドーやローソンHMVエンタテイメントといった大手企業に次々と採用され、大きな注目を集めた。これらサービスを連携させ、多様化する消費者行動に対応することもできるのがゼロスタートの強みだ。とくにサイト内検索とレコメンドの補完性は高いという。「見つからない商品を見つけるという意味では、検索とレコメンドはまったく同じ。検索という行為に対して情報を表示するのか、検索をしていなくても情報を表示するのか、という違いだけなのです」
ゼロスタートのレコメンドエンジンに関心を持つ企業は、大規模サイトを運営している企業が多く、カスタマイズしてレコメンドのロジックを作っていくことに積極的だという。「サイト内検索と同様、レコメンドも大規模サイトに導入していただくケースが多いです。大規模サイトは売上規模が大きいだけに、ちょっとした改善で生まれる収益も大きい」と山崎氏は説明する。
「ゼロスタートのすべてのソリューションの中心にあるのはロジック。マーケティングロジックが中心にあり、検索やレコメンドという手法がある。そのロジックを構築するためのビッグデータ検索、それを検証するための効果測定があるのです。すべては、どういうロジックでお客さんに商品を提示すれば買っていただけるか。その部分をコアとして我々のソリューションも構築しています」
山崎氏が見つめるのは「広告」
ゼロスタートは、ECソリューション「ZERO-ZONE」に事業とともにITエンジニアの紹介・派遣・育成事業を展開してきたが、2013年11月、ECソリューション事業に一本化すると発表。ECに取り組む企業が増えるなか、自社ソリューションをさらに充実させていく姿勢を明らかにした。事業再編を踏まえて、山崎氏は今後どのような方向に進もうとしているのだろうか。
「サイト内検索で0件ヒットが出てしまうサイトはまだまだたくさんあります。私たちがお手伝いできるECサイトは山のようにあるので、当面注力していく必要があると感じています。もうひとつ、いま興味があるのは、検索やレコメンドの前段階に対するアプローチ。簡単に言うと『広告』です。広告への貢献、これを次の事業ターゲットとして捉えています」
サイト内検索やレコメンドはサイトを来訪してもらってから威力を発揮する。山崎氏はその前段階、つまり、広告でユーザーに知ってもらい、サイトに来てもらって、心ゆくまで納得のいく商品を見てもらう。この流れを作り出すために、サイト内検索で使われた検索キーワードを広告表示基準として活用することに注力していきたいと語る。
「最近、DMPなど注目されていますが、実は検索条件やレコメンドのデータはDMPにとって最も有効だと思っています。ゼロスタートの検索エンジンを導入している企業は、サイト内検索を駆使している。その検索条件をDMPに流し込むことによって、より良い広告表示も可能になるのではないかと考えています」
インタビューの終わりに、山崎氏は株式公開も視野に入れていることを明らかにした。2014年を迎えたばかりだが、ゼロスタートの挑戦はこれからも続いていく。
ゼロスタート山崎氏のレコメンド連載が、ECzineで始まりました!
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