SpotifyとBeats Musicの違い
さて、ここまでBeats Musicの何たるかを紹介してきましたが、既存のサービスとの違いを把握することでその特徴がさらにわかりやすくなるかと思います。そこでここではBeats Musicと、音楽ストリーミングサービスの領域のリーダーでもあり、日本での始動が噂されるSpotifyとを比較してみたいと思います。

大きな違いを3つ挙げてみました。1つ目はビジネスモデル。2つ目はサービス内容。3つ目はマーケティング戦略です。
ビジネスモデル ~有料 vs 無料~
まず1つ目のビジネスモデル。Beats Musicには有料のプランしかありません。しかも月額9.99ドル。Spotifyの無料と9.99ドル、2通りの価格帯を提供しているプランとは、正反対です。
Spotifyは無料会員を増やし、そこから有料会員へと誘導することで、多くのユーザーとコンバージョンを獲得してきました。Beats Musicが高級ヘッドフォンと音楽サービスを同じように考えているのかどうかはわかりませんが、有料プランのみの戦略が今後どのようにユーザー獲得に影響していくのか、注目です。
サービス内容 ~キュレーション vs オンデマンド~
キュレーション型音楽サービスであるBeats Musicに対し、Spotifyはオンデマンド型サービスが主軸となっているところが大きな違いです。Beats Musicでは、ユーザーは音楽を探す手間が少なくキュレーションされたコンテンツを楽しむスタイル。一方Spotifyはユーザーが音楽を探したり、友人が聴いた音楽から再生したりと、自らが音楽を探しながらコンテンツと出会うサービスであることから、異なるアプローチを取っていることが特徴です。
マーケティング戦略 ~ソーシャルのクチコミ vs マスメディアとセレブ ~
3つ目のマーケティング戦略も大きく異なります。Spotifyは創業以来、ユーザー間のクチコミを通じてジワジワとコミュニティを拡大してきました。またFacebookと連携し、聴いた曲がソーシャルメディア上のフィードに流れる仕組みによって友人知人への露出やエンゲージメントを増やしてきました。一方Beats Musicのマーケティングは、ヘッドフォン販売で培った経験を活かし、マスメディアとセレブリティ、そして資金力を大胆に使って一般消費者へのリーチを狙う戦略を進めます。
彼らのPRの具体例をいくつかあげてみます。まずBeats Music発表時には一般向けメディアを含む数多くの米メディアでレビュー記事を露出してバズを作り、新しいモノ好き、音楽好きの関心を促します。また1月27日に開催された米グラミー賞のプレパーティー・イベントをロサンゼルスで開催し、有名ミュージシャンのパフォーマンスや著名なゲストの参加をニュースにすることで話題を作り、ブランドへの注目を高めます。今後は、2月に行われるスーパーボウルでテレビCMも流す(放映料は30秒400万ドルとも言われています)予定もあり、さらに米国の人気トーク番組内でも取り上げてもらう計画もあるとのことです。
このことからもBeats Musicは、コアな音楽ファンやiPhoneユーザーといった限定的なユーザーを狙うのではなく、一般消費者に向けて音楽サービスの認知を一気に拡大していこうという思いがうかがえます。
しかし、現段階ではSpotifyが音楽ストリーミングの領域で他社を一歩リードしていることは確かです。現在、Spotifyはアクティブユーザー数2400万人、有料会員数600万人以上を抱え、世界55か国でサービスを展開しています。Beats Musicがここまでの規模に追い付くには相当な時間がかかるでしょう。
その半面、音楽業界に新たなアイデアとコンセプトを持ったサービスが現れたことは、競争が激しく乱立状態にある音楽サービスの分野において、新しいビジネスモデルやマーケティングを推進し、さらに発展していく上での起爆剤になるのかもしれません。