SNSガイドラインあっても、炎上対応は難しい
企業はWEBやSNSを通してユーザーとコミュニケーションをとるなど、ネット利用が活発になる反面、ネット上のトラブルは尽きない。「有名人が来店した」といった飲食店アルバイトの不用意なツイートによるトラブル、マンションの工事業者によるマンション欠陥情報の投稿といった情報漏えいなど。オンライン上のリスクは無視することができない状況だ。そのため、昨今では、上場企業の3~4割がSNSの利用ガイドラインを持つという。しかし、炎上などのトラブルを完全にコントロールすることは難しい。このような状況で企業はどのように対応するべきか。エルテスの後藤田 隼人氏と、安達 亮介氏に話を伺った。
エルテスはオンライン上のリスクについて、体制構築・予防・危機管理システムの運用・危機対応の支援をワンストップで提供。自社の商品やサービスの「評価」を管理する「レピュテーション・マネジメント」や、SNSなどオンライン上の危機管理を行う「オンライン・リスクマネジメント」などの幅広い知見を持っている。同社がこの事業を開始したのは、2007年。当時展開していたシステム開発やSEO対策事業のクライアントから「口コミサイトに悪口を書かれてしまった」という相談が増え、オンライン上の誹謗中傷対策を始めたことがきっかけだという。
今日からでも実行可能な対策とは?
企業の危機管理がオンライン上に広がった背景には、「デジタルネイティブ人口の増加がある」と、安達氏は語る。パソコン通信時代など、利用者が限られていた頃は「ネットマナー」がある程度浸透していた。しかし、匿名性の高い掲示板の台頭などで「ネットなら何を言ってもいい、それがネットの文化」といった認識を持つ人も出てきている。そのような人が容易にネット上で発言できるいま、危機管理は社員やユーザーの倫理に任せるだけでは不十分になっているのだ。
「例えばECを行う会社では、運悪く配送ミスがあっただけで、非難されることもあります。ひどい場合は、批判サイトやブログを作られることも。そこからネガティブな情報が広がると、商品が売れなくなってしまうかもしれません。それは致命的です」と、 後藤田氏は指摘する。特にアルバイトや派遣社員が多い流通・小売・飲食などの業種では、企業にSNSの運用ポリシーがあっても浸透しづらく、他業種に比べてトラブルが発生しやすいという。
しかし、すべての会社が、充実した危機管理サービスを受けられるわけではないだろう。自社ではどのような対策を行えるのだろうか。
「まずやるべきことは、定期的なモニタリングです。社名、代表者の名前、グループ企業名など、いくつかのワードをGoogleやYahoo!などの検索エンジンで定期的に検索する。そして、それに紐付いた投稿をチェックし、自社にどのような意見が寄せられているかを把握します」と安達氏。自社はどのような評価をされているのか、論調に変化はないかをチェックすることで、大きなトラブルは防ぐことができるという。
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ネガティブな意見からの気付きが重要
多くの企業サイトでは訪問者の約6割が、検索エンジン経由でやってくる。つまり、検索結果に想定外の情報が入っていると、サイトへの訪問や購買にはつながらない。GoogleやYahoo!の検索結果を随時チェックすることは、地味なようだが、危機管理の第一歩なのだ。同社のWEBモニタリングサービス「WEBリスクホットライン」でも、4時間に1度、スタッフがクライアント企業の情報を目視でチェックしている。
モニタリングで重要なことは、いい情報も悪い情報も一旦受け止めることだ。例えば「批判」の書き込みがあっても、すべてが悪いとは限らない。自社が気付いていない、問題点を指摘しているケースもある。あらゆる書き込みを受け止め、何が自社にとって問題か客観的に把握することが大切だ。
「悪い書き込みがあったとき、『何を批判しているのか』が、明確に分かっていない企業も多いんです。だから『文句を言われているから謝っておこう』となる。でも、この姿勢で対応をすると、火に油を注ぐことになります」と安達氏。
炎上したら24時間以内の対応が必須
企業がリスクを予防するためには、自社のポリシーを明確にすることも重要だ。「なぜその施策を行うのか、というポリシーを明確にする必要があります。そして、必要に応じてそポリシーやロジックを周囲に説明する。自社が行っていることのいい面も悪い面も把握し、そのうえで考え方をPRすることが大切です」と後藤田氏は語る。
また、ネット上に自社の擁護派がいた場合は、彼らの主張も同時に把握することが重要だという。症状が分からないと治療できないように、自社をとりまく評価を客観的に把握することが、適切なリスク対策の第一歩だ。
では、実際に炎上などのトラブルに巻き込まれたら、どうすべきか。オンライン上でのトラブルは通常、深夜や休日に多く発生するという。時間帯は22時から2時頃で、年末などの長期休暇中にも起きやすい。自社の力だけで対策をすると、リアルタイムでの監視や対応は難しいが、放置すると収束も難しくなる。そのため、まずは「24時間以内」の対策を心がける必要があると後藤田氏。「事態が起こって、24時間経過すると何をしても手遅れになりがちです。果たして問題は自社にあるのか、その場合は謝罪文を出すのか出さないのか、などを判断する必要があります」
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ツールやサービスの利用は見極めを
企業の規模や業種を問わず、リスク管理の必要性は増しているといえる。プロの力を借りる場合、数多くあるツールやサービスをどう選べばよいか。「モニタリングツールの場合は、リアルタイム性を重視することです。多くのツールは、様々なメディアをクロールして情報を取得するため、タイムラグが生じたり、処理の関係で早くても1日前の情報しか取得できない。これでは、トラブル時の対策が遅れがちです」と後藤田氏は解説する。
またテキストマイニング技術を使い、各種投稿がポジティブなものか、ネガティブなものかを判断するツールも多い。これらは安価で効率的だが、判断のベースとなる辞書機能はまだ不十分。精度的には3割程度なので判別ミスも多いという。
そして、目視で監視するサービスも多いが、モニタリング対象をクライアントが運営するメディアに限定するものも。この場合、メディア内の健全性を保ちたい企業には向いている。だが、企業そのもののリスク対策となると、必要なノウハウが変わってくる。エルテスでは過去の炎上事件約1500件をデータベース化。炎上に加担するブラックユーザー90万アカウントなどの蓄積による、コンサルティングを強みとする。このように、一口にモニタリングといってもさまざま。予算やニーズにあったサービスを見つけることが肝要だ。
社員の意識改革、カギは「自分事」
並行して、社員やアルバイトなどの意識改革も必要だという。例えば震災後、あるレンタルビデオ店の店長が「テレビはつまらないだろうから、ビデオを借りに来て」とネットに書き込んだ。また同時期に、「防災用品は当社で」と書き込み、「便乗商法」だと非難を受けた家電量販店店員もある。彼らに悪意はなかったかもしれない。しかし、結果として炎上してしまったため、企業には負のイメージがついた可能性もある。
「炎上事件のなかには、何気ない一言が波紋を呼ぶ『天災』に近いケースもあります。また一方で、『炎上したら、書き込みを消せばいいのでは』と軽く考える人もいる。必要なのは、日ごろの教育なのです」と安達氏は説明する。エルテスでは、WEBリスク予防の研修も行っているが、教育のポイントは、自分事としてリスクを考えてもらうことだという。極論だが『トラブルを起こした場合、会社は存続できるかもしれない。でも自分はどうなる?』という意識が予防につながる。
SNSが発達し、「攻め」だけでなく「守り」のマーケティングも必要になった2010年頃から、企業の危機管理のニーズは高まっていると言われる。エルテスは3月、記者会見のマネジメントなどを通じて、長く企業の危機管理に携わっている電通と業務資本提携を行うなど、その守備範囲を広げている。今後の企業の成長には、「攻め」と同様、鉄壁な「守り」も必要なのだ。
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