施策の起点は「現状への疑問」
雪印メグミルク株式会社 市乳事業部飲料グループ 竹谷和章氏
株式会社Z会 マーケティング部宣伝営業課 伊豆蔵善史氏
株式会社TBWA HAKUHODO タッチポイントエバンジェリスト 皆川治子氏
篠崎:両社はどちらも老舗ブランドであり、今回の取り組みでは今までやってなかったことにチャレンジして、ブランドを再定義されています。なぜ、このような施策を行おうと思ったのですか?
伊豆蔵:少子化や教育分野の競争激化もあり、危機感をずっと持っていました。Z会では従来、テレビや新聞、Webの広告を通して、コミュニケーションをしてきました。この手法でも、保護者には伝わっていると感じます。でも、当事者である高校生、特に難関大学を目指す高校生に振り向いてもらうには、現在の施策だけで良いのだろうかという疑問がそもそもの起点です。そして、Z会について高校生に興味を持ってもらう施策として今回の企画が出てきました。
竹谷:商品やブランドも導入期・成長期・成熟期があれば、いつか衰退期に入ると考えていました。そのため、雪印コーヒーが50周年を迎えた時、これがピークだと思い込んでいた節がありました。しかし、仮にこの商品が「100周年を迎えた時にどうなっているか」を想像した際にこのままでは駄目だと感じました。そこで、ブランドの見方を変えてみようと思ったのがきっかけです。
皆川:今回の取り組みは、実際にブランディングを狙われていたんですか?それとも別の狙いがあって、相乗効果的にブランディングもできたのでしょうか。
伊豆蔵:ブランディングを狙っていました。そのため、今回はマスを使わない方法をとりました。というのも、ターゲットは難関大学を目指す高校生という限られた層です。そこにリーチするにはマスではないよね、と。当社はマス担当・デジタル担当という部門で分かれていないので、予算調整を含めて企画は進めやすかったです。
竹谷:私たちはメーカーなので、ブランドや商品は命です。プロモーションを考える場合でも、最終的には商品やブランドに行き着きます。なので、ブランディング部門で評価していただいたことに違和感はありません。ただ、今回の取り組みは「ゆきこたん」をゼロからみんなで作り上げようというコンセプトなので、既存のお客様を中心に、当初は非常に戸惑われていたと思います。結果として、アプローチの仕方はこれまでと変わったと思います。
施策も一緒に作る
篠崎:今回の施策は、場合によってはブランドを棄損するリスクもあったかと思います。チャレンジできた秘訣は何でしょうか?
竹谷:確かにチャレンジであり、苦労もありました。でも、この状況を打破するための答えは他になかったと思います。リスクヘッジも大切ですが、リスクを怖がらずに進むことで得られるものがあると思います。社内でも、失敗するリスクよりも何もしないリスクの方が大きい、と伝えました。また、キャラクターが独り歩きを始めてしまわないか、という不安はありました。しかし、私も「ゆきこたん」ファンの目線に立って、展開を楽しむようにしています。もちろん、要所要所でこちらが主導のイベント開催やチェックはしていますけどね。
篠崎:なるほど。では、両社はどのように具体的な企画に落とし込んでいったのでしょうか?
皆川:最近の広告づくりでは、先に「絶対に守るものはコレとコレ」という定義をして、あとはクライアントと代理店が一緒に考えていく、という動きが見られます。両社もそうだったのではないかと思うのですが。
竹谷:そうですね。最初に代理店さんに提出したブリーフは、A4一枚程度のものでした。そこから、一緒に作り上げました。試行錯誤をしながら答えを見つけたという感じです。
伊豆蔵:私たちは「難関大学を目指す高校生に対して情報を届けたい」という課題が明確でした。ただ、マスを使わず、生放送でクイズ番組のような企画を行うといった具体的な話は代理店さんのひらめきでしたが、その後の構成や演出については何度も打合せを続けた結果出てきたものです。
篠崎:施策を実現するために、社内へはどのようなアプローチをしたのでしょうか?
竹谷:SNSを本格的に使った施策は初めてでした。そのため、社内の人間もどう判断して良いわからない。その状況を上手く活用することを考えました。営業的な数値データはもちろん、ソーシャルでの評価という視点でツイート数などの定量的なデータや、ネット上での「ゆきこたん」への反応といった定性的なデータをさりげなく用意しました。地道なアプローチを続けた感じです。
伊豆蔵:当社の場合は、部門横断の社内プロジェクトとして取り組みを進めました。宣伝担当以外に、教材作成を担当する部署など多くの人を巻き込みました。施策の実施については全社的な承諾を受けたうえで進めていきました。でも、そのあとの演出や構成は現場で判断できるようにしました。