イノベーション教育の“イノベーション”って、いったい何だ?
積み上げた知識を元に、論理的な分析を活用して、課題を解決していく。それが、従来の教育がビジネスマンにもたらすもののイメージでしょうか。しかし、それは“定型の課題”解決には役に立っても、イノベーションを起こすことにはつながりません。アップルやグーグル、そしてフェイスブックといった“世界を変える”ビジネスは、論理思考だけからは生まれてこないのです。
ここで言う「イノベーション」は何も、IT系デジタル系の革新にとどまるものではありません。ましてや“技術”革新だけを指すものではありません。アイスクリームだろうがファッションだろうが、不動産業だろうが営業スキルだろうが、“従来にない”もので、“その領域のあり方を変える”ような事柄であれば、すべては「イノベーション」と考えて良いと思います。
日本の「失われた20年」はイノベーションの不在が原因か
イノベーションの重要性は、海外において早くから強く意識されてきました。従来の“論理だけ思考”とは一線を画す思考法を体系化し、大学でプログラムが組まれビジネスの現場にも活かされています。最も有名なのは、米国スタンフォード大学のd-schoolが標榜する「デザイン思考」です。(デザイン思考の連載はこちら)
一方で日本は“ものづくり”の精神で“改良”を繰り返し“高品質”で勝負して来ましたが、それらはあくまでも従来の延長線上にあるもので、「イノベーション」からは遠いものであったと言えます。この「イノベーション」の不在が「失われた20年」の大きな要因のひとつだったのではないでしょうか。
しかし、ここに来て日本でも“イノベーションを起こすための教育”が注目を集めています。経済産業省は「フロンティア人材研究会」を組織し、2012年3月には“イノベーションを起こすような人材をどう教育しどう活かして行くか”について調査考察し、報告書をまとめています。そして、東大にも京大にも慶応大学にも、広い意味での「イノベーション教育」を標榜している学部や組織がぞくぞくと出てきています。2012年には「イノベーション教育学会」も組織され、筆者も参加しています。今年の第2回年次大会開催のお知らせには、こう記されています。
「革新的で社会に大きなインパクトを与える製品・サービス・ビジネスモデル・社会システム等を生み出す力を養う、イノベーション教育に関する社会的関心も高まり、イノベーション教育を実践する大学や企業も増えつつあります」
4回を予定しているこの連載では、まず6月に訪れた“世界のイノベーション教育の雄”フィンランドのアアルト大学の訪問記をお届けします。そして、日本のイノベーション教育の現場(東大と慶応大学を予定)を取材し、合わせて世界のイノベーション教育の現状についても触れていきます。