Webサイトの内と外のリンク構造
ところで、このグラフをあえて両対数グラフで表現したのには理由があります。それは繰り返し紹介しているWebのネットワーク全体のリンク数はベキ分布に従うという事実との比較を行いたかったからです。
ベキ分布にしたがうのなら両対数グラフでの表現は直線になります。つまり、Webのネットワーク全体を両対数グラフで表現すれば、グラフは直線で表されるはずなのです。しかし、上で示したサイト内のリンク数のグラフは直線とは程遠い分布を示しています。つまり、サイト内はベキ分布ではないということです。
多くのサイトがグローバル&ローカル・ナビゲーションを採用していることを考えれば、サイトの内部と外部でリンク構造が異なるのは不思議な感じもします。しかし、今度は上でリンク数の調査を行ったのと同じ3つのサイトの各ページのページビューを両対数グラフで表現すると、逆に納得させらたりもします。
ご覧の通り、被リンク数は階段状の分布を示しているにも関わらず、ページビューのほうはベキ分布の直線に近い、なだらかな曲線を示しています。サイト内だけでみれば、階層構造化されたサイト内のリンクは明らかに上位の階層にあるページに有利な設計となっています。グローバル・ナビゲーションに配置されたページは、リンクの数からいっても、ページ内での配置からいってもアクセス数的には有利なはずです。
しかし、実際には上位の階層にあるページのアクセス数が多いとは限らないのです。その理由はきわめて単純です。各ページへはサイトの外部からもユーザーが訪問してくるからです。サイトの外部からの訪問は、はじめに示したSearch、Subscribe、Shareの3つのSに最適化されていればいるほど、多くなります。その場合にはもしかすると、サイト内のリンクよりサイトの外部からはられたリンクのほうがはるかに多いページというのもでてくるでしょう。
Webサイトの境界をはずす
この点はWebサイトを構築、運用する人が誤解しがちなところです。実際、私たちはWebサイトの構築、リニューアルといえば、自社サイトをどう設計するかということばかりを考えがちです。しかし、すでに見たようにWebサイトは大きなWebのネットワークの一部です。ドメインによる境界は存在していても、ネットワーク上に無数にはりめぐらされたリンクがその境界を実質的には無意味なものにしています。Webサイトによって示されたアイデンティティは括弧とした境界によって表現されるのではなく、ぼんやりとしたあいまいな境界を越えて外部に流れ出します。
マーケティング的観点で見れば、より多くのユーザーに訪れてもらうためには外部からのリンクを増やし、境界をより一層あいまいにしていくほうが得策でもあります。実際、Amazonに代表されるアフィリエイトのシステムは、外部に自社サイトのリンクを増殖させることで境界のないWebのネットワーク構造をうまく利用している例だといえます。
すこし前までは、一般の企業サイトが自社サイトの外部にリンクを増やす手段といえば、SEMの手法くらいしかありませんでした(バナー広告などもありますが、価格的にはどんな企業でも利用できるというものではありません)。しかし、今ではSEM以外にもビジネスブログやRSS/Atom Feedを使った手法やSMO的な手法で、外部リンクの増加を狙うことはむずかしくありません。
もちろん、RSS/Atom Feedをユーザーに購読してもらう場合でも、ビジネスブログをユーザーのブログにトラックバックしてもらう場合でも、ソーシャルブックマークにブックマークしてもらう場合でも、SEOで検索エンジンに最適化する以上に、ユーザーに受け入れてもらうことは簡単ではありません。ユーザーの行動を思うようにコントロールしようと考えるのは明らかに間違いです。
繰り返しますが、主導権はユーザーにあります。RSS/Atom Feedの配信やトラックバックを用意するなど、機能面でユーザーが利用しやすいようサポートすることはできても、ユーザーの行動を企業側から制御することはできませんし、そう考えることはユーザーの信頼を失うことになりかねません。むしろ、企業側はユーザーが自主的にリンクしたくなるような、自分のブログやSNSで引用したくなるようなコンテンツを用意することで、自社のアイデンティティがユーザーによって外部に持ち出され、拡散していく仕組みをつくり、あとはユーザーの手に委ねるべきなのでしょう。
