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ビジネスマンのための必読オンラインマーケティング塾

第5回 創発的視点でオンラインマーケティングを考える

Linked:スケールフリー・ネットワーク

 さて、オンラインマーケティングの特徴として、ここまで「プル型のマーケティングであること」、「情報選択の主導権はユーザー側に委ねられていること」のふたつを挙げさせていただきましたが、こうした特徴があらわれるのは、Webがリンクでつながったネットワークであるからです。

 先に紹介した、創発や自己組織化を研究する複雑系の科学では、水が沸騰して水蒸気になったり、0℃で氷になったりする相転移のような集団的な現象を研究の対象にします。相転移が集団的な現象ととらえられるのは、水がマクロなレベル(集団的なレベル)でいつ沸騰し凍るかは予測することはできても、個別の水分子(H2O)のレベルでそうした相転移がいつ起こるかを予測することは不可能だからです。

 現代の複雑系の科学の分野では、私たちが普段、目にするような現象はすべて、ミクロなレベルでは量子力学的な非決定論的ふるまいを見せる原子や分子が膨大な数集まった集団となったときにみせる集団的現象として捉えられています。「なじみ深い巨視的な現象から未知の微視的な現象を正しく推し量ることはできない」のであり、また、その逆に微視的な現象から演繹的に巨視的な現象を推論することもできないのです。

 同じようにWebページを個別に見て、マーケティング効果を得られるかどうかを判断することもできません。例えば、SEOを行う際に外部リンクの調査を行ったりしますが、それはWebのネットワークにおいては特定のページや特定のサイトそのものが単独で価値をもつのではなく、むしろ、そのページやサイトがどんなページやサイトからリンクされ、どういったクラスターを形成しているかが重要だからだと言えます。

 前回の「ロングテールを誤解していませんか?」でも少し紹介しましたが、複雑系のネットワーク研究で著名なアルバート・ラズロ・バラバシらによれば、Webのネットワークは何の法則性ももたないランダム・ネットワークではなく、それぞれのWebページに対する被リンク数がベキ分布にしたがうスケールフリーの性質をもっていることがわかっています。

 ごく少数のページが膨大な数のリンクを集める一方で、ほんのわずかなリンクしか集められないページが無数に存在するというのがスケールフリー・ネットワークの特徴ですが、こうした被リンク数の大きな偏りをベースにPageRankという独自の評価アルゴリズムを組み立てているのがGoogleです。

 このPageRankというアルゴリズムをみると、Googleは、各Webページの評価を個々のページの内容を判断する還元主義的な視点での評価以上に、集団的レベルで創発主義的視点での評価を重視していると考えることができます。しかも、従来のマーケティングのように個体のもつ属性(住所や性別、年齢、収入などのパラメータ)によって平面的なセグメンテーションを行うことで集団を評価しているのでもなく、リンクによってつながったノード(各Webページ)同士が互いに影響しあうようなダイナミックの集団として評価を行っているのです。

Webサイトのナビゲーション設計

 Web上のリンクは外部のサイトから貼られたリンクだけではありません。当然、ひとつのWebサイトの中にもページ間をつなぐリンクが存在します。しかし、サイト内のリンクはサイトの外部にあるリンクとは大きく構造が異なっています。その違いは、主に現在のWebサイトの設計思想によるものです。

 まず、既存のWebサイトはツリー型の階層構造を基本として設計されています。サイト全体をコンテンツの内容に応じてカテゴライズし、さらにそれを小さなカテゴリーへと分類していく形をとります。企業サイトであれば、製品、採用、IR、会社情報、プレスリリースなどの形で、対象となるターゲットごとにコンテンツのカテゴライズを行なったり、同じ製品情報でも個人向けと法人向けに分類したり、潜在顧客向けの製品情報とは別に既存顧客向けのサポート情報をもったりします。

 その上でツリー型の階層構造をベースに、サイトのナビゲーション・システムが設計されます。グローバル・ナビゲーション、ローカル・ナビゲーションを軸とした代表的なナビゲーション・システムは、階層化されたディレクトリ構造を反映したものとして設計されます。その他にヘッダー部とフッター部にそれぞれ全ページ共通のリンク要素を配置したり、サイトによってはページの内容に応じた関連情報へのナビゲーションを配置したりもします。

 そのようにしてリンク構造が設計されたサイトのページごとの被リンク数を、両対数グラフで表現すると以下のような分布が得られます。

サイトのページごとの被リンク数

 3つのサイトのいずれも階段状の分布を示しているのがわかると思います。これは先に説明したサイト内のナビゲーション設計の仕方を考えれば、当然の結果です。すべてのページに共通のグローバル・ナビゲーション、各カテゴリーで共通のローカル・ナビゲーションが存在するのですから、被リンク数の分布が階段状になるのは当然のことなのです。

次のページ
Webサイトの内と外のリンク構造

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この記事の著者

棚橋 弘季(タナハシ ヒロキ)

芝浦工業大学工学部(建築学専攻)卒。マーケティング・リサーチ、Web開発等の仕事を経て2003年より株式会社ミツエーリンクスに。現在はWebを使ったマーケティングに関する企画や自社サービスの開発に従事。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2006/09/22 13:30 https://markezine.jp/article/detail/213

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