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ビジネスマンのための必読オンラインマーケティング塾

第5回 創発的視点でオンラインマーケティングを考える

Webのネットワークは、膨大な数のWebページが相互にリンクでつなぎあわされた複雑なネットワークです。こうした膨大な数のページが織り成すネットワークは、前回の「ロングテールを誤解していませんか?」でも見たようにベキ分布にしたがう秩序を垣間見せてくれています。複雑系の科学の分野では、構成要素の多様性と複雑さが増すとその系は創発的現象を見せはじめるといいます。今回は、そうした現代科学の分野での研究結果も援用しつつ、マクロな視点でオンラインマーケティングについて考察してみたいと思います。

「分ける」ことは「分かる」こと

 データを分析する、業務を切り分ける、実地検分する。「分ける」ことは「分かる」ことだと言われます。物理学者、化学者は物質の性質や宇宙の法則を理解するため、分子、原子、その構成要素である原子核、中性子、電子といった物質の最小単位を探してきましたし生物学の分野にも多様な種を分類し系統樹を作成する分類学があります。

 私たちが普段、使っているカテゴリー化や階層構造化も対象を認識、理解するために用いられます。天と地、昔と今、危険と安全、原因と結果、敵と味方、あなたと私。私たちは目の前に広がる空間や時間そのものや、そこに存在するさまざまな対象物を何かしらの視点に基づき分類することで、それらが自分にとってどんな意味をもつかを認識、理解していると言えるでしょう。

 同じくマーケティングにおけるセグメンテーションも理解のための道具です。セグメンテーションにより市場を細分化することで、ターゲティングを行うべき市場を絞り込めます。セグメンテーションとターゲティングによって自社あるいは自社商品にとって最適な市場を絞り込めれば、どうポジショニングすれば差別化につながるかも明確化できます。そこでどんなメッセージを発信すればよいかもわかってきます。その意味で、市場の細分化は市場理解のひとつの方法だといえるでしょう。

 とはいえ、当然、市場をいくつかのセグメントに細分化したからといって、個々の顧客を理解することにはつながりません。そのため、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを経て実施されるマーケティングのプロモーション戦略は、自然とマスマーケティング的な手法となります。個々人を対象にしたワン・トゥ・ワン・マーケティング的なプロモーション手法もありますが、その場合、いわゆるマーケティングの4PのうちのひとつのP(プロモーション)だけをワン・トゥ・ワンにすることになりますので、製品戦略や価格戦略、チャネル戦略と齟齬が生じて意図したとおりには進まない可能性があります。これは理解に用いる分類と行動に用いる分類が異なっているために生じる齟齬だと言えるでしょう。

口コミによる結晶化には構成要素の多様性が必要

 しかし、そうした齟齬以外にも、ワン・トゥ・ワン・マーケティングはもうひとつ別の問題を抱えていると言えます。それは個人間のつながりを軽視してしまう傾向があるという点です。「分ける」ことは「分かる」ことです。ワン・トゥ・ワン・マーケティングのように個人レベルまで分けて理解することで個人に対する理解は深まるかもしれません。

 しかし、同時に「分ける」ことによって見えなくなるものもあります。ワン・トゥ・ワン・マーケティングの場合、「分ける」ことで見えなくなりやすいのは、個人間のつながりではないかと思います。もちろん、見えなくなりやすいことがわかっていれば、対処法を考えられますので、必ずしもワン・トゥ・ワン・マーケティングが個人間のつながりを無視しているという意味ではありません。

 ブログやSNSでのユーザー間のやりとりを見ていると感じられるのですが、個々人はそれぞれ独立した個人であると同時に、他の人や社会とつながった存在です。自分で考え、判断を下すと同時に、他人や社会からの影響も受けます。ブログを用いたアフィリエイトが成り立つように、個人が他の個人や社会とつながっていれば口コミの効果が期待できます。そして、アフィリエイトに参加する人が増えれば増えるほど、アフィリエイトという仕組み自体の認知や信頼も向上し、その数が閾値を超えれば、口コミ+アフィリエイトによる売り上げは無視できないものとなるでしょう。

「多様性が閾値を超えると相転移が起こり、触媒作用を受けた反応の巨大な織物が『結晶化』する」
自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法測
スチュアート カウフマン著

 実は、マスマーケティングの場合でも情報の伝播の仕方は同じではないかと思います。つまり、マスメディアから発信される一次情報のみが情報の伝播の鍵を握っているのではなく、その一次情報が口コミを誘発できるかどうかが情報の伝播の鍵を握っていたのではないかと思うのです。

 一定の数以上の見込み客の存在が予想される大きなターゲット市場に対してメッセージを発信すれば、ユーザー間で口コミを誘発できる可能性は高くなります。かつてのようにテレビの視聴率も高かった時代には、多くの人が同じ時間に同じ番組を見ていたために、次の日の職場や学校で前の晩に見た番組の話題が自然に交わされる状況が生まれやすかったはずです。現在のテレビCMが抱える問題点は、同じ時間に同じ番組を多くの人が視聴することが非常に稀になってきたことで、対象商品に関心をもつ人々が「結晶化」し、口コミが発生する機会が生じにくくなってきたことにあるのではないかと思ったりします。

 そして、それはそもそものコミュニケーション設計が企業と個々人の間で個別に行われることが想定されたワン・トゥ・ワン・マーケティングの場合、「結晶化」という波及効果が非常に生まれにくく、市場での情報伝播力がきわめて弱くなってしまうために、すくなくともマスマーケティングと同じような効果を期待することはできないはずです。

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この記事の著者

棚橋 弘季(タナハシ ヒロキ)

芝浦工業大学工学部(建築学専攻)卒。マーケティング・リサーチ、Web開発等の仕事を経て2003年より株式会社ミツエーリンクスに。現在はWebを使ったマーケティングに関する企画や自社サービスの開発に従事。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2006/09/22 13:30 https://markezine.jp/article/detail/213

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