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「広告主の利益に繋がり、かつ媒体社の収益最大化を実現する仕組みをつくる」電通が目指すPMP市場の構築

プライベート・マーケットプレイスの構築により、媒体の「枠」の価値が再認識される

――電通とGoogle が提唱するPMPの仕組みは、広告主と媒体社の双方にメリットがないと成立しません。広告主にとっては、在庫を優先してもらうために高いお金を払うということです。つまり、コストが高くなっても、出稿したいプレミアムな広告枠ということですね。

 「基本的な概念はそうですね」

――いわゆる伝統的な純広告と、ここ数年で急速に伸びてきたRTB取引。双方における何かしらのデメリットを解消するために、PMPの市場を新たに構築していくのでしょうか?

 「まずRTBのデメリットとしては、先日Googleが発表したビューアビリティの低さが挙げられます(関連ニュースはこちら)。また出稿するサイトや枠を指定できないことによる、ブランド棄損も依然として課題です。DSP各社はアドベリフィケーション機能の拡充に取り組んでいますが、完全にセーフティーにすることは難しいでしょう。そしてPMPのように、優先的に在庫を買い付けることはできません。

――セーフティーな媒体に露出し、かつきちんと見られているかは、広告主にとっては重要な問題です。

 「少し観点を変えてみましょう。昨今は『枠から人へ』という大合唱のもと、オーディエンスに振り切ってRTBの市場が拡大しているように感じています。しかしその一方で、オーディエンスベースでリマーケティング施策を行っているものの、各ドメイン毎のパフォーマンスを確認すると、一つのドメインが全体のコンバージョンの半分程度を占めているといった状況は多々あります。つまり、『人』がベースと言いながらも、実際は枠に甚だ依存しているケースはとても多く、パフォーマンス重視の広告主の場合でも、枠の重要性が再認識され始めています

――本来の媒体の「枠」の価値があって、さらにそこに「人」を掛け合わせることで、広告主はパフォーマンスを上げていくことができるということですね。では媒体社にとってのメリットは?

 「媒体社にとっては、PMPにおいてはCPMが高くなるので、収益が増えるというメリットがあります。すなわち、適正な価格で価値を生み出している枠を売ることができるのです。同時にRTBとは異なり、自社に出稿する広告主を把握することができ、透明性を確保することもできます」

――ではPMPは純広告のどのような問題を解決できるのでしょうか?

 「純広告のデメリットとしては、端的に言うと運用型ではないことです。価格をはじめ、フレキシブルにチューニングすることができません。そして人でターゲティングできないことも挙げられます」

――少しプログラマティックになることで、広告主と媒体社のニーズをすり合わせて、価格設定をより柔軟に固定できるようになるということですね。でも、フレキシブルになるのは、果たして媒体社にとってはメリットなのでしょうか?

 「純広告の枠は、媒体社にとって一番大きな収益を得られる広告メニューです。しかし全体で見ると純広告のシェアは下落しており、それとは反対にRTBのシェアが拡大しています。このままの状態が続けばRTBのシェアの拡大に伴い広告単価が下がり、媒体社の収益は減少していきます。だからこそ媒体社は、純広告よりは単価が下がるかもしれないが、柔軟な売り方ができるPMP市場に参加することで、RTBよりはCPMを高く維持して収益を拡大していくことができます」

――RTBでしか在庫を売ることしかできない媒体社は、その媒体社を指名買いしてくれる広告主がいないということです。この媒体であれば高値でも買いたい、という指名買いをしてくれる広告主がいる媒体にならなければ、本質的に媒体の価値を上げていくことができないでしょうね。

 「先ほど話したように、『枠』の価値は非常に大きいです。なので広告主に“媒体の価値を再認識してもらう”ということも、PMPの取り組みの意義の一つです」

ブランディングとしてのネット広告の可能性

――パフォーマンス系の広告主にとっては媒体の枠の価値を再認識するということですが、一方でブランディング系の観点からはいかがでしょうか?

 「PMPの市場を構築していくにあたり、大きく2つの観点があります。一つは先ほど述べたパフォーマンスベースの視点です。そしてもう一つは、ブランディングの観点です。PMPにおける大きなメリットは、媒体社のオーディエンスデータを活用できるポテンシャルがあることです。

 ただ日本においては、媒体社のオーディエンスデータのマネジメントはまだあまり進んでいない現状があります。マネタイズの出口が見えなかったため工数をかけて取り組んでこなかったという背景があるのですが、オーディエンスデータのマネジメントに取り組むことでインプレッションの価値を大きく向上させ、結果として媒体の収益向上につなげることができます。単純に枠ベースで売るよりも、付加価値をつけて売ることで当然CPMの金額も高く設定することができます。枠の価値をオーディエンスベースで高めていくのは非常に重要な要素であり、電通としてもそこを支援していきたいと考えています」

――プレミアムな広告枠に、人でターゲティングできるようになれば、ネット広告をブランディングとして活用していく可能性があるのではないでしょうか。単純なクリック数ではなく、リーチが重要になるということです。例えば日経電子版を見にきている20代の女性にピンポイントでジュエリーブランドの動画広告を配信できたとすれば、クリックせずともリーチするだけで十分に価値があるでしょう。ここにブランディングとしてのネット広告の可能性があるのでは。こういったことが実現できれば、媒体社も適切な高価格で広告在庫を売ることができるし、それは広告主にとっても納得できる単価になるでしょう。

 「ご指摘の通りで、媒体価値にオーディエンスデータを紐付けてセールスすることは、このPMPの取り組みの一つの柱にすべきと考えております。まずは各広告主にとってのそれぞれの媒体価値を精査し、SSPやアドサーバー(DFP)、もしくはDSP側からオーディエンスターゲティングをかけます。そして、そのパフォーマンスの結果などを鑑みて、電通としても有益なデータを保持します。文章にすると易しいですが、媒体社のテクノロジーのインフラ整備をはじめ、クリアすべき問題も多くあります。なので、媒体社にも協力していただきながら、着実に進められればと考えております」

次のページ
新たな市場、プライベート・マーケットプレイスを構築していく上での具体的課題

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2015/01/16 08:00 https://markezine.jp/article/detail/21477

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