ビデオ広告市場が確立、広告主がますます積極的に
MZ:ビデオ広告の市場は、去年から今年にかけて大きく伸長しています。動画コンテンツを提供する各社がコンテンツや広告商材を拡充していますが、まずはこうした市場環境をどうご覧になっているか、うかがえますか?
半田:昨年はまさに、ビデオ広告が華開き、定着に入りだした年になりました。私はもう10年ほどビデオ広告に携わっていますが、これまでに何度か「今年がビデオ広告元年だ」といわれたタイミングがありました。それがやっと、現実のものになったという印象ですね。
とりわけ昨年の下半期の伸び率が著しく、結果的に2014年の市場は前年比約2倍の300億円超になっています(参考情報:株式会社サイバーエージェント、株式会社シード・プランニング調査結果)。
MZ:スマホでの動画視聴も一般化してきました。ユーザー数の増加も、市場の成長に大きく影響していますよね。
半田:当然、そうですね。インフラ、デバイス、権利処理等含め映像視聴環境が整い、動画視聴ユーザーの圧倒的な増加により、広告主様がより積極的になっていることも大きいです。これはつまり、CMを出せる場所と数が圧倒的に増えたということを表しており、純粋にリーチ補完ができる広告メニューになってきたという印象を持っています。
この10年のうち実に約8年くらいは、ビデオ広告は効果があるのか、測定方法はどうなのかという懸念が先に立ち、模索の状況が続いていました。しかしこの1年、米国であれだけ浸透しているのだから、日本においても「効果があるはずだ」という前提で、ご出稿頂けるような変化が起きました。そのうち最もわかりやすい効果が、動画視聴ユーザーが増加したことによる「TVCMのリーチ補完」という目的での出稿です。
さらに、昨年下半期以降は広告主様側がTVのリーチ補完にプラスして、自社に合った活用や測定の方法を積極的に探る傾向が強まって、市場の定着につながっているように感じます。
リーチの重複への期待も高まる「テレビCM×ビデオ広告」
MZ:ヤフーでも、ビデオ広告を中心としたリッチ広告の拡充を掲げられ、スマートフォン版のYahoo! JAPANトップページにおいてはプレミアムビジョンなどもありますよね。
上池:はい。「GYAO!」などの映像コンテンツに挿入するインストリーム広告に対して、Yahoo! JAPANなどのWebメディアの広告枠に流れるビデオ広告はアウトストリーム広告と呼ばれています。アウトストリーム広告においても、調査によって認知やブランディング効果を検証し、効果があると結果がでています。
効果について実感し始めた広告主様側においても、ビデオ広告を導入しようという方向へ変化してきています。
MZ:なるほど。テレビCMとの連携も、最近よく聞きますね。ネットでしかリーチできない層を捉えてリーチの最大化を図る広告主も出てきていると思いますが、いかがですか?
半田:「リーチ最大化」には、一定のニーズがあります。特に若年層へのアプローチは当然ながら、M2、F2等含め、テレビとネットでリーチを補完し合うためにテレビCMとビデオ広告で最大リーチを獲ることは大前提です。その一方で、テレビとネット両方で接触すると認知や想起率、態度変容のスコアが上がるという「リーチの重なりこそ効果が見込める」という考え方が広がってきました。
上池:どこに効果を求めるかも、広告主様によってさまざまです。ユーザーの記憶に残るプレミアム広告においては、認知やブランディング効果の最大化を主軸に商品設計をしています。
GYAO!のリブランディング後、動画サイトとしてユニーク視聴者数2位に浮上
MZ:「GYAO!」は昨年秋にリブランディングし、テレビCMも出稿していましたね。この背景をうかがえますか?
半田:GYAO!がヤフーグループに参画した2009年以来初となるリブランド及び大幅なサービス刷新をしました。2009年からの5年間で、新しい動画サービスも立ち上がってきています。その中で、われわれも改めて現在のM1F1層、さらに若年層にも受け入れられるサービスに変容し、競争力を高める意図がありました。
また、「GYAO!」でテレビ局の「見逃し配信」を開始できたことも大きな変化でした。GYAO!ならテレビ番組を見たいユーザーにとって最適な体験を提供できることや、ユーザーにとって最も価値となる「無料」で良質なコンテンツを見れることを改めて知ってもらうこと、そしてスマートフォン視聴ユーザー拡大も大きな目的でした。
MZ:先日、コムスコアが発表した動画サイトの利用状況に関するレポートにて、「GYAO!」を中心とするヤフー系のサイトは4月時点の月間の映像視聴者数が2,050万人、全体の第2位となっていました(ComScoreプレスリリース)。これはリブランディングの影響もありそうですね。
半田:そうですね。昨年末に4位から2位に浮上したので、手応えを感じています。ブランド刷新後、視聴回数やアプリのダウンロード数などは20~40%ほど伸長しました。
この調査はPCのみで、スマホユーザーが含まれないため、われわれが把握しているヤフー全体の映像視聴者数約3,300万という数値よりも低くなっています。
有料の作品配信サービスは歓迎、無料という特長際立つ
MZ:この秋には有料映像配信サービスのネットフリックスが米国から上陸するなど、競合も増えてきますが、「GYAO!」のポジションをどう考えていらっしゃいますか?
半田:動画サイトは大きく「ユーザー投稿型/作品配信型」と、「無料(広告モデル)/有料(課金モデル)」の二軸で分けられます。「GYAO!」はすべてのコンテンツが権利許諾を得た、プロによる映像作品なので、完全な「作品配信型」かつ「無料」のサービスに分類されます。有料の作品配信型サービスが世間で話題になれば、同じサービスなのに「GYAO!」は無料だと、むしろ追い風になる。ユーザーの裾野の広がりにも期待しています。
ただし「無料だから質が悪い」と思われたら、同じ土俵には立てません。「“無料”なのに“質”がいい、充実している」と思ってもらえるためにも、サービスの刷新に力を入れました。
MZ:作品配信型サービス間で、比較優位だと。ユーザー投稿型のサービスと比較されることも多いと思いますが、そもそもサービス内容が異なっているということですね。
半田:そうですね。最近はネットでの映像作品の視聴も、夜にテレビ番組を見るのと同じようなライトな選択肢になりつつあります。ユーザー投稿型の方が先行して浸透しましたが、今はこちらに移りつつあるという感じですね。
また、「GYAO!」のユーザーには「無料で映画などを見られるのは広告があるから」という理解があるので、そもそも広告への許容度が高い傾向が調査結果でも明らかです。 特にスマートフォンの「寝床視聴」は顕著です。スマートフォンでも視聴しているコンテンツTop20は20分以上の長尺コンテンツがほとんどです。
最も効果が見込める一等地の商品化を進める
MZ:サービスの浸透に伴って、ユーザーも育っている印象ですね。広告主のニーズの変化はありますか?
上池:「GYAO!」に関して特にニーズが強いのは、ブランドセーフティーです。権利関係をクリアした良質なコンテンツに広告が挿入されることに、価値を見てくださる企業が多いですね。最近では、その中でも「特にいい場所に出したい」という広告主様の希望が高まっています。
MZ:ある意味、すべてがプレミアムコンテンツである中で、どうやって広告商材の差別化をするのですか?
上池:広告効果は、本編コンテンツの長さ、また映画やドキュメンタリーといったジャンルによっても変わってきます。広告が長過ぎたり頻度が多かったりすると、かえってブランド毀損になってしまうので、ユーザーに許容され、効果が見込める最大限の秒数は何秒なのかも分析中です。強制視聴なので、その点は媒体の義務としても取り組んでいます。
それらを加味して、今「GYAO!」における“一等地”の在庫を商品化しようとしています。不動産でいうと、銀座のような場所ですね。
半田:コンテンツの尺やジャンルによる広告効果の違いは、米国ニールセンの調査でも発表されています【参考】。現時点のGYAO!でも既に広がり始めています。広告主様がプロモーション内容によっては、「CM流す映像ジャンルを指定」や「CMを流す映像を指定」するなどコンテンツの1社提供やコンテンツ指定配信などです。また、GYAO!の配信予定にない映像など広告主様として求めるジャンルやコンテンツ指定で調達を相談されることもあります。訴求する広告内容とCM挿入場所の親和性にこだわるケースも増えています。
まずはビデオ広告の市場自体をスケールさせたい
MZ:ヤフーグループのビデオ広告について、今後目指していくところを教えてください。
上池:先にお話したプレミアムビジョンを始め、Yahoo! JAPANの各サイトのビデオ広告は、今後も効果検証を進めながら、スマホの小さい画面でもユーザーにとってストレスのない出稿形態を探っていきたいと考えています。
MZ:ちなみに、どのくらいまでの規模の拡大を見込んでいますか?
上池:ヤフーとしては、シェアの獲得はもちろんですが、それ以上に市場そのものをスケールさせたいと考えています。先日発表した、動画制作のViibarとの提携は、その一環です。ビデオ広告における制作・配信・マネタイズという3つの課題の解決を、さまざまな面から支援していき、ビデオ広告市場の拡大に寄与していきます。