資本主義の原動力となりうるマーケティングが抱える問題点
「供給を上回る需要を生み出せるため、マーケティングが資本主義の原動力となりうる」というのがコトラー氏の主張だ。マーケティングは適正な顧客に物が欲しい、物を買いたいとする動機付けを行わなければならない。しかし、ここに問題がある。マーケティングにより需要を喚起できたとしても、欲しい物をすべて手に入れられるだけの十分な所得がないということだ。日本のような先進国においても、多くの人は借金することなしに家を買うことはできないし、車を買うこともできない。先進国ですら、貧困者や低所得者は減っていない事実があるのだ。「マーケティングの使命は、夢のような生活を買えるようにすること」だと、コトラー氏は語る。
コトラー氏は、問題の根本は所得の不均衡、富の不均衡ではないと分析する。これは常に存在しているものであり、氏が懸念しているのは、その不均衡の量が増えていることだ。企業で生産性が向上しても、富を享有しているのは経営陣だけ、株主だけに限られている。資本主義の恩恵を受けているのは、わずか1%の人だけなのだ。富の共有にこそ問題がある。
「トリクルダウン効果」という言葉がある。富めるもの者が富めば、その恩恵はどんどんと下に流れていくという考え方だ。しかし、コトラー氏は「そんな状態を見たことがない」と言う。不満を持つ人は、不満を持ち続け、中流階級層は減り続けている。そして、失業率も高まっている。資本主義はシステムとしてリスクを負っているのだ。「恩恵がより多くの人に広がるから、ということで資本主義はよいとされてきたはずです。なので、資本主義を救っていかなければならない。」(コトラー氏)
賃金引き上げこそ解決策か
この「不均衡の量の増加」問題の解決策として、コトラー氏が第一に掲げるのが、企業は従業員にきちんと生活賃金を払うということだ。賃金を上げたほうが、生産性も上がるし、チームスピリットも高まるとコトラー氏は説明する。本来は、物を売るのが企業の目的ではなく、従業員に熱意を持って働いてもらい、世に送り出した製品によって人々の生活をよりよくするのが目的のはずなのだ。そのためには消費者の予算を知る必要がある。そして、予算に応じたものを提供すべきであり、生活に合ったものを提供すべきなのだ。そこにマーケティングの知見を活かす道があるのではないだろうか。コトラー氏は、「マーケティングと経営をより多くの人たちにより良い生活を提供するために使わなければならない。」と力強く締めくくった。
