WordPressは個人ブログから東証一部上場企業のメインサイトにまで、さまざまな用途で利用されているCMS(Content Management System:Webサイト管理システム)です。
9月に刊行された自著『Web担当者のためのWordPressがわかる本 あらゆるビジネスサイトで使える企画・設計・制作・運用のノウハウ』では、中小企業のWeb担当者がWordPress導入にあたって必要な知識を「1.企画」「2.設計」「3.制作」「4.運用」という、現場の流れに沿った内容で解説しています。
このコラムでは本書の内容を踏まえ、これまで書店で「WordPress」と書かれた本を手に取ったことのない方々に向けて「企業サイトがWordPressを利用する際のメリット・デメリット」「WordPressを活用したコンテンツマーケティングの実践」について、お話したいと思います。
WordPressのメリット
低コストで制作可能
WordPressの大きな特徴は「世界最大の利用者数を抱えるCMS」ということです。利用者の多さに従いWordPressを扱う制作会社も多くなるため、他のマイナーなCMSと比べると制作費用の相場が安くなります。
またオープンソースであるWordPressは、それ自体に利用料金が発生しません。これらを理由として、企業サイトの運営にWordPressを導入した場合は、自社サイト専用のCMSを開発した場合に比べて圧倒的に初期費用が安くなります。
機能拡張は手軽で制作会社も多い
利用者数が多いオープンソースCMSには、多くの開発者が集まります。WordPressでは数えきれないほど多くのプラグイン(機能拡張)が公式サイト上で配布されており、それらを使えばコンタクトフォームの実装やSNSとの連携など、一般的に普及している機能の多くは手軽に、そして安価に実装可能です。
企業サイトではコストをかけてでも専用の機能を実装する必要に迫られることがあるでしょう。そんなときもWordPressシステムをベースとすることで、対応可能な制作会社が見つけやすくなったり、限られた予算で開発できる機能の幅が広がったりすることも考えられます。
コンテンツの更新性が高い
WordPressを選択する大きな理由の一つに「更新性の高さ」が挙げられます。
大小問わず多くの企業サイトで導入されているWordPressですが、元々はブログシステムとして開発されてきました。本来はブログシステムであるWordPressは、コンテンツマーケティングを実践するうえで重要な「継続的な情報発信」を強力にサポートしてくれます。インターネット環境とブラウザさえあれば、どこからでもコンテンツの更新が可能という手軽さが特徴です。
またユーザー管理機能にも優れており、多数のユーザーを役割に応じて「管理者」「投稿者」など、適切な権限を割り振ることができます。これにより、例えば外部のライターに更新作業を依頼してWeb担当者の負担を減らすことや、社内でWeb技術がない編集者が不用意にサイトのソースコードを崩してしまうリスクを減らすことができます。
複数の編集者によって投稿された大量のコンテンツは、カテゴリー・タグ・執筆者などのメタ情報によって自動的に整理整頓され最適に表示されます。WordPressを上手に利用することで、コンテンツマーケティングに優れた情報発信型のサイトを「手軽に」「安価に」構築することができます。
ここまでは制作を外注する前提でお話してきましたが、本書では制作を外注せずにすべて社内で行ないたい方のために「オリジナルテーマの制作方法」についても解説しています。これまでHTML/CSSで制作をしてきた経験をお持ちの方ならば、本書を片手にWordPressサイトを構築することも可能です。
企業がWordPressを使うメリット まとめ
1. 制作費用が安価
2. 対応できる制作会社が多い
3. コンテンツマーケティングと相性がよい
WordPressのデメリット
セキュリティ面の不安
WordPressは世界最大の利用者数を誇るがゆえに、時として悪意のあるプログラムの攻撃対象になってしまいます。信頼できないサイトから入手したテーマやプラグインを利用することでウィルスに感染した、という例も多く、実際に筆者の元にもそういった相談が寄せられます。
また、管理画面へのログインURLが決まっている点や、著者別の記事一覧ページURLを見れば容易にユーザーのログインIDが分かってしまう点など、WordPressの構造自体がセキュリティに強いとは言えない面も持ちあわせています。WordPressに限らず、ソフトウェアというものは利用者自身がシステムの脆弱性を知っていれば対策を取ることができますが、利用者が何も分からないまま使っていることが一番のリスクだと言えます。
例えばWordPressに関する前出のセキュリティ対策として、ログインURLを変更するプラグインやURLからログインIDを判明させないプラグインなどが公開されていますので、脆弱性を知っていればこれらを利用することができます。
カスタマイズしなければならない
WordPressは本体プログラム自体を極限までシンプルにして、各々の利用者が求める機能はプラグインという形で機能追加できるようにすることで、さまざまな用途で利用できる万能型CMSとして爆発的に普及しました。企業でWordPressを上手に使うには、WordPressに強い制作会社と連携すること、そしてWeb担当者自身がWordPressについての知識を深めることが重要になります。
WordPressのデメリット まとめ
1. スパムウェアの対象となりやすい
2. 利用者自身でカスタマイズして使わなければいけない
WordPress導入後は社内で更新することを前提にしよう
更新のしやすさが特徴のWordPressを使うなら、社内でWebサイトの隅々まで更新できるようにしておきたいものです。
そこで、WordPressサイトを制作会社に発注する際には、管理画面から更新できる箇所がどこなのか、しっかり打ち合わせをしておく必要があります。「CMSだから全ページ自分たちで更新できるだろう」と安易に考えていると、納品後に管理画面から変更できるページはブログだけだった、という事態になってしまうことも考えられます。
というのも、制作会社によってはデザイン崩れを防ぐために、重要なページを敢えて管理画面から変更できないようにすることがあるからです。公開後に変更する予定がないページはそれでもよいのですが、ブログページ以外も積極的に社内で更新していく考えを持っているならば、その旨を必ず事前に伝えましょう。
本書では上記の他にも制作会社との連携をスムーズにするために「Webデザイナーの探し方」「デザインコンセプトの伝え方」などを解説しています。
ブログ型コンテンツの企画は入念に練っておく
WordPressを導入するならば、ブログ型コンテンツの更新体制を整え、コンテンツマーケティングを意識した情報発信型のサイトを目指しましょう。ブランド力を高め購買行動につなげるために必要なものは、コンテンツの量ではなく質です。
例えば、毎日その日の営業時間だけが投稿されるブログが「ブランド力向上」に意味がないことは誰の目にも明らかです。反対に、製品開発者が開発の苦労を綴ったブログは、更新頻度が月に1回だけだとしても、ファン獲得に貢献できる魅力があります。
良質なコンテンツを継続的に発信するためには、企画段階でどれだけ運営後のイメージを掴めているかが大切です。サイト制作時にとりあえず「○○(製品・サービスなど)活用術」「○○開発日誌」などブログの枠組みだけを用意しておき、本格的なコンテンツ制作を開始するのは公開後、というのはよく見られるケースです。
しかしこの手順で進めてしまうと、実際にコンテンツ制作を始めた段階でさまざまな要因からコンセプトに修正が入り、公開したばかりのサイトをすぐに部分リニューアルすることになってしまったり、運営体制が整わずにいつまで経ってもコンテンツが公開できなかったりすることになりかねません。
ブログを「書ける人が暇なときに書けばいいだろう」と甘く見てはいけません。いざ運営を始めたら、時間や人員などリソースがなくてコンテンツの更新が後回しになってしまうことがよくあります。普段文章を書かないWeb担当者が更新する場合は、おそらく当初の見立てよりも多くの時間を必要とします。
こうした失敗をしないためにも、なんとなくブログの枠組みだけを用意することは避け、継続的に発信するためにコンテンツのコンセプトと運営体制をしっかりと固めておくことが大切です。
「コンセプトは?」「誰が書くのか?」「読者ターゲットは?」「このコンテンツを通じて利用者にとってほしい行動は?」。これらの問いに対する答えを固めておくことが、コンテンツの方向性を維持するための最低限の下準備だと言えます。
そしてコンテンツの品質を管理するためには、各記事の文章量、使用する画像、文章の体裁、文章の雰囲気(フレンドリーさ、語尾や顔文字使用のルール)など、コンテンツに関するガイドラインを策定しておくことが必要です。複数のメンバーで更新作業を行なう場合は、特にこのようなガイドラインの存在がコンテンツの質に大きく影響します。
公開したコンテンツの価値を正しく検索エンジンに伝えるための「SEO対策」、人気のあるコンテンツや埋もれてしまったコンテンツを見つけるための「アクセス解析の実装と分析」については、ぜひ本書をご覧ください。
WordPressを利用することで誰でも手軽に低予算でコンテンツを発信することができます。しかしコンテンツを通して顧客と良好な関係を作り上げるには、片手間でサイトを更新するのではなく、入念な計画に基づいた良質なコンテンツ制作が必須です。