コンテンツマーケティングといえばオウンドメディアと記事コンテンツ――そんなイメージを持っている方は多いかもしれない。「第3回FOUND Conference in Tokyo コンテンツマーケティングカンファレンス」(1月27日、主催Ginzamarkets)では、まずその思い込みを打ち壊すところから始まり、登壇した全9社がどのようにコンテンツマーケティングに取り組んでいるかが語られた。3部に渡って明かされた各社の方法論(表現方法、運用方法、集客方法)の、おいしいところだけをかいつまんで紹介する。
その表現方法でコンテンツマーケティングを行なう目的は?
第1部は「画像、動画、VRを使ったコンテンツの可能性」。土屋鞄製作所の沼田雄二郎氏、資生堂の藤岡智愛氏、ネクストの秋山剛氏が登壇し、なぜ記事以外の表現方法でコンテンツマーケティングを行なっているのかを中心に話が広がった。モデレーターはインフォバーンが運営するDIGIDAY[日本版]編集長の長田真氏が務めた(同サイトの連載「失業中コピーライター(54歳)の告白」はとても面白い)。
長田氏が冒頭で、コンテンツマーケティングがオウンドメディアと記事(文字)コンテンツだけではないと切り出したのは印象的だった。記事は予算、時間、人手といったコストがそれほどかからないのが魅力だが、万能ではない。これと併存する画像や動画、VRという表現方法に対して、3社はどんな可能性を見出したのだろうか。
ブランドの世界観を伝えるための画像
土屋鞄製造所はランドセルなど革製品のメーカーであり、最近では大人向けランドセルで注目を集めている。Facebookページのフォロワーは約29万人、まだまだだというInstagramのフォロワーは3万人と、画像を用いたコンテンツマーケティングでは有数のポジションを獲得している。
では、なぜ画像でなければならなかっただろうか。例えばそれまで市場が存在しなかった大人向けランドセルに興味を持ってもらう(あわよくば購入してもらう)には、まず何を伝えるべきか考えてみてほしい。それは明らかに、機能ではなく大人向けランドセルを使用している日常風景――世界観だ。世界観に共感してもらうことで、会社や商品の知名度を上げることが目的だったと沼田氏は言う。そのために優れているのは、テキストと画像のどちらだろうか。
文字で理解しづらいことを視覚で伝えるための動画
資生堂の藤岡氏は、同社が展開するPICK UP TECHNOLOGYという情報サイトの運用に携わっている。同サイトでは結果を知りたいと思うような実験の様子(胸キュンの効果など)や、商品に使われている科学技術が動画(と補足のテキスト)で紹介されており、とても好奇心をそそられる。藤岡氏が言うには、テレビCMや広告では伝えられないことを伝えられるのが動画のいいところだという。
コミュニケーションとアミューズメントを与えるVR
ネクストは不動産情報サイトのHOME'Sの運営会社で、秋山氏は研究開発部署であるリッテルラボラトリーに所属。今回二つの施策が紹介された。一つは、住まい探しをもっと楽しくするためのすごい天秤、もう一つが家族のコミュニケーションを盛り上げるためのGRID VRICK。VRは後者のほうだ。
GRID VRICKはLEGO(R)とVRを用いた部屋づくりシミュレーションシステムだ。ブロックの色がそれぞれ窓やドア、ベッドなどに対応しており、ブロックで間取りを作成し家具を設置すると、ディスプレイに3Dで家が再現される。PC上で家具の種類や色も変えられる。これだけでも面白いが、Oculus Riftを使うことでVRの家の中を歩き回れるのだ。例えば子供が大きくなったから引っ越そう、家を建てよう、というとき、このシステムを使えば家族みんなで盛り上がるに違いない。
表現方法の必然性は目的が導き出す
各社とも面白い取り組みをしていると思ったが、やはり目的ありきということが貫かれている(当然といえば当然)。VRなど新しい表現方法が登場すると、それで何ができるのか気になってしまうし、業界もわっと注目してバズワードになる。だが、目的を叶えるためにどんな手段が適切かを考えれば、おのずと手段の必然性は生まれてくる。コンテンツマーケティングも手段の一つにすぎない。
運用上の秘訣、それは関係者同士の連帯
第2部は「良いコンテンツを発信し続ける仕組みと体制」というテーマで、アイ・エム・ジェイのCMOで事業構想大学院大学教授の江端浩人氏がモデレーターとして進行。みんなのごはん(ぐるなび)の伊東周晃氏、キャリアコンパス(DODA、インテリジェンス)の森本大氏、楽天市場の近谷康氏が登壇した。
今回はどのような体制でコンテンツを制作しているかでポジションが割り振られていた。キャリアコンパスが外部パートナー、みんなのごはんが数多くの外部パートナー、楽天市場がインハウスだ。いずれもかなり個別の具体例で、他社がすぐに参考にできるものではなかったように感じたが、示唆に富む話がいくつもあった。運用方法というよりは、運用するうえでの工夫を紹介する。
すべての関係者と施策の効果を共有する
キャリアコンパスでは外部パートナーに自分たちの仕事が中長期でコンバージョンに繋がっていることを、具体的な数字にして共有することを重要視していた。
コンテンツマーケティングは、一般的には実施すれば即座にコンバージョンに寄与するものではなく、じわじわと効いてくる手法だと理解されていると思うが、遅効性であるがゆえに自分たちの仕事に意味はあるのかと考えてしまいがちだ(速効性を求める経営陣を説得するのも一苦労)。そうなるとモチベーションに影響してしまう。だから、効果測定は必ず複数月で見て、成果をすべての関係者が共有しなければならないと森本氏は強調していた。
成功の法則(仮)をいくつも見つけ出す
みんなのごはんも外部パートナーと連携してコンテンツ制作を行なっているが、こちらもパートナーとのコミュニケーションを大事にしていた。中でも面白いと感じたのは、毎週PDCAを回していく中で、自分たちなりの成功の法則を作っていくということだった。
あるコンテンツが効果を上げたなら、それを一般化し、法則にしてしまうのだという。それをほかのコンテンツでも試してみて、法則を修正していけば、そう、成功の法則ができ上がる。うまくいかなければ別の法則を見つければいい。他者と成功体験を共有することがどれほど優れたコミュニケーションになるか、誰にでも経験があるだろう。
担当者に思い入れを持ってもらう
楽天市場はインハウスで季節特集や大型セールのコンテンツを制作している。その中で、一つ一つのページに対して担当者が思い入れを持つことを重視していると近谷氏は言う。思い入れが深ければ深いほど、そのページをよくしようという気持ちになるし、そういう人たちが集まるチームのほうが高いパフォーマンスを発揮できる。
仕事の効果と連帯感が施策の効果を高める
3社に共通するのは、携わる人たちが自分の仕事に意味(効果)があると納得し、お互いに連帯感を持つことが不可欠だということだ。極めて当たり前のことであるが、朝起きなくてはいけないのに起きられないのが人間という生き物である。
拡散するコンテンツを意図的に作る
最後の第3部は「コンテンツをターゲットユーザーに届けるための集客手法」。モデレーターは主催Ginzamarketsから黒瀬淳一氏。登壇したのはリクルートライフスタイルの酒井亮平氏、弁護士ドットコムの亀松太郎氏、ラフテックの伊藤新之助氏の3名だ。
コンテンツマーケティングを実践するなら、コンテンツをどうやって見てもらうか(体験してもらうか)を考える必要がある。その意味で、第3部は参加者が最も知りたかったことかもしれない。SEO、外部サイト、ソーシャルメディアと三者三様の集客方法が紹介された。
Googleが気にいるキーワードでコンテンツを作る
リクルートライフスタイルではじゃらんやホットペッパーグルメなど、調べものに特化したサービスを数多く運用している。ターゲットは何か知りたいと思ってGoogleを開く人たちなので、必然的にメインの外部集客施策はSEOとなる。指標もコンバージョンが最も重視しているので、SEOほど適した施策はない。検索する人はコンバージョンの一歩手前にいるも同然だからだ。そういう人たちを逃さないコンテンツ作りをするのはもちろん、日頃からGoogleの思考を先読みしようとしているという。
Googleが何を目指しているのかを推測するヒントはいろいろあり、特にGoogle Japan Blogのチェックは欠かせない。また、SEO対策として時事ネタよりも長く読まれるコンテンツを作ることを意識してほしいとのことだった。Googleにとって価値の高いキーワードは何か、考えてみるのも有用だ。
ヤフトピ関係者が選んでくれそうなニュースを作る
弁護士ドットコムは法律相談ポータルサイトで、亀松氏はその中にある弁護士ドットコムニュースの編集長。集客施策は外部サイトからの流入だ。弁護士ドットコムニュースの規模拡大を使命とする亀松氏は、ニュースといえばYahoo!ニュースということで外部配信を始めた前編集長の方針を受け継ぎ、記事本数を月10本から100本に拡大してトピックスへの掲載率を高めた。
Yahoo!ニュースのトピックスに取り上げられると配信メディアに膨大なアクセスが生まれる。亀松氏はどうすれば狙って取り上げられるか、毎日試行錯誤しているという(その結果、コンスタントに取り上げられるように)。当然といえば当然だが、ヤフトピに取り上げられるにはその配信メディアでしか提供できない価値、つまり独自性が重要とのこと。
SNSユーザーがシェアする動機を探って記事を作る
ラフテックはお笑い系の記事を配信しているCuRAZYの運営会社で、バズマーケティングを外部集客の施策として利用している。お笑いネタはSEOと相性が悪いため、ソーシャルメディアから流入を重視していて、FacebookとTwitterをメインに、今後はLINEに注目しているそうだ。
伊藤氏からは、それぞれのソーシャルメディアで受けるネタについて簡単に解説があった。Twitterは匿名で趣味・関心を通して繋がっている人たちが利用しているから、笑いながら語り合えるネタが受ける。Facebookはシェアしたりコメントしたりすることでユーザー自身の(友達からの)評価が高まるネタがいいという。芸能人の不祥事ネタも、Twitterではこき下ろす記事だとバズり、Facebookだと同情する記事の反響が大きい。LINEはその中間だ。
CuRAZYがサービス開始初月で900万PVを達成したことには驚かされたが、いまはそれ以上に成長を続けている。国内外でバズった記事の型を研究することで、受けるネタを効率よく的確に制作しているという。伊藤氏が話していたネタ作りのトレーニングとして、バズった記事がどれくらいシェアされたか当ててみるというのは試してみる価値があるだろう。
コンテンツの中身は最後に作る
第3部はコンテンツマーケティングを実践する誰もが抱える課題、集客についてのヒントがたくさん詰まっていた。3社に共通するのは外部サイトやソーシャルメディアの性質に合わせてコンテンツを制作している点だ。これはもっと遡れば、どのような目的を果たすためにコンテンツマーケティングを利用するのかという、根本の問題に繋がっている。
自分たちが何のために何をなそうとしているのかを突き詰めれば、どうやってコンテンツマーケティングを実践すればいいのか、自然と適切な選択肢が見えてくるだろう。今回登壇した9社の方法論、ぜひ参考にしてほしい。