ポータルサイトに載せただけでは、物件の魅力をアピールしきれない
MarkeZine編集部:本日は、複数企業でCAOや社外CMO/CAOを務め、データ活用に関する知見を持つ清水誠さんと、不動産・住宅情報サイト『HOME'S』を運営するネクストの、不動産会社向けプライベートDMP「NabiSTAR(ナビスター)」事業に携わる野口真史さんに対談いただきます。
この対談では、不動産業界のマーケティングにおける課題、その解決策をアナリストとマーケターの両視点から明らかにしていければと思います。まず、野口さんに質問します。不動産業界のマーケティングにおける課題は何でしょうか?
野口:現在、小規模な不動産会社のマーケティングでは、当社が運営している『HOME'S』や他社の不動産・住宅情報サイトに物件を掲載するのみというケースがほとんどで、いわゆるポータルサイト依存であるといえます。不動産会社が持っている自社サイトについても、専任の担当者が不在の場合、制作後放置されていることも多く、集客のチャネルとしてはあまり機能していません。
しかし、現状の不動産・住宅情報サイトでは住所や最寄り駅、価格、部屋の広さといったスペックでの物件探しになってしまう。そのため、スペック以外の部分、例えば分譲マンションのブランドやブランドが提供する価値、世界観、コンセプトといった定性的な情報がうまく伝わりづらいです。そのため、ポータルサイトにただ載せているのみでは、個々の不動産会社の強みを発揮できていないことも多く、差別化を図ることが難しくなります。
清水:スペックだけで探すスタイルが定着し、独自色が出しづらくなっているんですね。私がコンサルティングしている業界の中では、自動車や人材業界の抱える悩みに近い。先述の業界も、スペックのみで判断すると、“自分の求めているスペックかどうか”という視点しかなく、ブランドや商品、企業への愛着があまり湧きません。
ただ、本当に大切なことは、ユーザーがスペックを超えた様々な可能性を知った上で、現在の生活スタイルが素晴らしいものに変化するイメージを持ってもらえるよう訴求することです。これは費用をかければできるというわけではありません。
そのイメージを持ってもらえるよう、昨今のコンテンツマーケティング、ソーシャルメディアなどといった潜在層にリーチする施策が流行しているといえます。スペックだけの勝負になると、単なる価格競争になってしまうので。
様々な住み方を潜在層向けに提案していけば、駅近のマンションを探していた方が、閑静な一戸建てをに興味を持つといった態度変容を起こすといったこともできます。そして、その選択肢を広げる役割を担うのが不動産会社でしょうね。
簡単に自社サイト分析ができる、NabiSTAR Report
清水:ちなみにネクストでは、先述の課題に対して不動産会社へ解決策を提示しているのですか。
野口:当社では、ウェブ分析プラットフォーム「NabiSTAR Report」を提供しています。NabiSTAR Reportでは、不動産会社の自社サイトのどこに改善の余地があるか様々な角度から分析した結果を、一目でわかりやすいPDFにして提供しています。
清水:どういった背景で今回のサービスの提供に至ったのですか。
野口:不動産会社が自社の強みを自社サイトで伝えていくには、まず現状を知り、どんな強みを訴求していくべきか知る必要があります。それを視覚化することが、当サービス提供の目的です。
清水:確かに新たに施策を行う際は、現状分析がとても重要なのは私もクライアントによく伝えています。具体的にはどういったデータを見ることができますか。
野口:『HOME'S』で蓄積されたデータと自社サイトに訪問したユーザーのデータを掛け合わせたものが閲覧できることが特徴です。通常、訪問者数などはGoogleアナリティクスなどを使えば把握できます。ただ、当社のレポートでは、自社サイトへの訪問ユーザーが事前に『HOME'S』で検討したエリアのデータ、価格帯と広さ別の需要データなどもう一歩踏み込んだデータが得られます。
例えば、港区の物件が多い不動産会社の場合、ユーザーの何割が港区目当てなのか、他はどのエリアで探しているのかがわかると意味のある分析ができますよね。そういった顧客の不動産に対する思いを『HOME'S』のデータと訪問ユーザーのデータを掛け合わせることで可視化できます。
清水:訪問者のニーズを視覚化できるのはありがたいですね。
野口:ニーズがわかれば、それに合わせたラインナップの変更やコンテンツ表示の仕方も変えていくことができますので、『HOME’S』のデータとの掛け合わせは大きな強みのひとつですね。
中小企業こそ強みを活かせる、データ分析&オウンドメディア
清水:NabiSTAR Reportを利用する企業の規模は、どの程度を想定していますか。
野口:規模の大小問わず広く使っていただきたいです。2015年より提供を始めて3ヶ月経ちますが、すでに申込数だけでいえば100社を超えています。先ほどもお伝えしましたが、どうしても自社サイトまで手を回せず、ポータルサイトに予算のほとんどを充てている。ただ、自社サイトも集客の窓口のひとつなので、企業としてはホントは活用したいのが本音ではないでしょうか。特に中小規模の企業ではそういった傾向があります。
清水:ただ中小規模の企業の場合は、現状のままポータル依存でもいいのでは、とこれまでの話を含め思いました。小さい規模のサイトが複数できたとして、それらが横断しなければ広がりもない。
そのため、規模やブランド力がある程度大きい企業は新たな集客チャネルに力を入れ、それ以下の企業は持たないと割り切って、その分ポータルサイトに掲載する情報を充実させるのも1つの考えではないでしょうか。
野口:現在は確実にその流れが強いと思います。とはいえ、不動産はWeb上で完結できないところがまた難しい。最終的には現場・店舗に行き、物件や周辺の情報を自分の目で見なければ、契約しないはず。その際、安心感を得るために、契約する会社は信頼できそうか、営業担当者はどんな人か知りたいというニーズも一定数あり、そういったことはWeb上でも伝えていけると考えています。
清水:どういう会社が管理しているかというのも重要な情報のひとつですね。
野口:そこで今後はNabiSTAR Reportを通じて、周辺情報で揃えるべきコンテンツをユーザータイプの分析によって導くなど、自社サイトのコンテンツの方向性についてアドバイスしたいですね。
アナリストが提案する、新・不動産会社のマーケティング
清水:これまでのお話を聞いての提案なのですが、ポータルサイトに自社サイトへのリンクを分散させ、どの情報に関するリンクをクリックするか計測するのはいかがでしょうか。
例えば、あるユーザーが自社サイトへ地図のリンク経由で訪問したものの、他のサイトでそのユーザーは、購入したユーザーの声に関するコンテンツを読む傾向がある。それがわかれば、購入者へのインタビューや調査のコンテンツを用意できますよね。
そのように、ユーザーが自社サイトに何を求めてくるかがわかる仕組みを作ると良いかと思いました。
野口:そうですね。それができれば、ユーザーの欲するコンテンツが視覚化できます。実はNabiSTARでもすでにそういったデータは収集できているので、早期にレポートとして提供していきたいです。
清水:ポータルサイトは物件情報を整理して載せる力があると思います。ですので、わざわざ同じ情報を自社サイトで無理に載せる必要もないと感じました。メンテナンスコストもかかりますしね。その点、企業に関するコンテンツは、掲載と削除を繰り返す必要のある物件情報とは違い、制作したものは継続して使うことができるので費用対効果も高くなります。
野口:集客メディアとして考えるとつい、ポータルサイトと自社サイトは対立すると考えがちですが、互いに役割を補完しあえる関係が清水様の提案であれば作っていけそうです。そうなると、データの相互利用などもより進むと思うので、積極的に目指したいですね。
清水:もちろん、大規模の企業で、オウンドメディアもしっかり作りこめてかつポータルサイト側でも集客する資金と人材がいれば、ともに強化していっても良いと思いますが、中小規模の企業までのテール部分を狙っていくなら、この方法が良いと思います。
また、補完なので、自社サイトのコンテンツがポータルサイトの内容と被らないようにするのもポイントです。ポータルサイト上で用意できる情報で収まらないものを、自社サイトで伝えたいですね。
顧客視点でユーザーデータを揃える
清水:顧客視点でサービスを見つめていくと、御社のサービスはいろいろな使い方ができそうです。
野口:NabiSTAR Reportは現状β版として、集客の改善に使えそうなデータを一通り提供しています。ただ、データも加工・追加していけるため、導入いただいた不動産会社には、ぜひ要望をいただきたいですね。
清水:NabiSTAR Reportは、Web上のダッシュボードみたいなもので見ることができるのですか。
野口:現段階ではまだですが、今後ダッシュボードを開発し、各社で見たいデータだけを集約できるようにしたいと考えています。例えば期間など変化させて推移をみるといったことを可能にしたいです。
清水:そうなると、利用状況のログをリアルタイムで見られるため、NabiSTAR Reportがより活用しやすくなるのではないでしょうか。不動産会社も活用結果も見やすくなりますので。また、個人的には、ユーザーをグループ分けしているのもとても面白い機能なのでより拡充していってほしいです。
野口:私個人としても面白いデータだと思っています。清水さんのおっしゃっているデータは、『HOME'S』で培ってきた膨大なデータを当社の基準で組み合わせ、ユーザータイプを分けグラフ化したものです。先述したユーザーが何を求めているか、またどういった人がいるかがわかれば、揃えるべきコンテンツが明らかになりますので、その一助になれば嬉しいです。
新規獲得至上からリピーター獲得へ
清水:提案や要望など様々口を突っ込んでしまいましたが、『HOME'S』のリソースが使えるのはとても面白いサービスですね。
野口:そうですね。このサービスを提供するにあたり、不動産会社にリピーターを作る支援をしたいと考えました。不動産業界の特徴として、住み替えのスパンが長く、企業とユーザーは一期一会の関係になりがちです。そして、新規獲得に目がいきリピーターを作ることには目がいかなくなる。その結果顧客満足度への意識も薄れ、焼畑農業のような状態になってしまいます。
そのため、当社としては『HOME’S』のリソースを不動産会社に活用いただき、不動産業界のマーケティングの考え方、利益の生み出し方を変えていきたいと考えた次第です。
清水:御社のようなポータルサイトを運営している企業だからこそできることでしょうね。会員を多く抱える御社は3年、5年、10年単位でユーザーの情報も取得できる。その情報を持っている御社が不動産会社をサポートするのはとても意義のあることだと思います。
野口:アドテクやデータ周りを活用できている不動産会社はまだ少ないので、データ活用のノウハウを広めていきたいです。同時にサービスも提供しながら、『HOME'S』と不動産会社のビジネスやオウンドメディアの関係を強固にしたいと考えています。
清水:その考え方には賛同します。デジタルに割ける予算やリソースがあるかどうかや、企業の規模だけでビジネスに差がついてしまうのはもったいないですからね。お客様にとっては、賃貸などの場合、扱っている物件はどこも同じことが多い。御社のそういった熱い思いが伝われば、不動産会社もわくわくするのではないでしょうか。
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