単純な発信ではなく、会話をしてもらうことが大切

宮本:田嶋さんがコミュニティを運営することに対して社内的な、障壁はありませんでしたか?
田嶋:現在では社内の認識も変化していますが、容易ではありませんでしたね。課題にあがった点がリーチです。どこまで売り上げに寄与できるか。確かに売上ベースだと、この取り組みは難しいです。
一方で誰もが、リーチだけでなく、お客様との関係値を可視化する重要性も頭ではわかっていた。やらなければと思うけれども、誰も手をつけていなかった。ですから、まずはトライアルとして取り組みましょう、と説得しました。
ですが、カスタマージャーニーを考えたときに、購入後のつながりを持つことでLTV最大化につながっていくという仮説を持っていたので、その点は伝えました。
宮本:具体的にはどのような取り組みは何をされたのですか?
田嶋:オンライン上で商品や美容情報に関するブログの公開をしたり、商品の感想を募集したりデザイン投票をしていただく参加型のオンラインイベントを開催しています。単純にコンテンツを発信して読んでもらうのではなく、発信した情報に対して会員に回答をしていただき、さらにこちらがダイレクトにお答えするサイクルを重要視しています。また、会員同士でも情報交換をしていただけるようにしています。
また、リアルでも直接顔を合わせるイベントとしてオフ会を開催しています。例えば、「エスプリークCafe」では参加者の皆さんのポーチの中身を紹介し合ったり、メイクアップレッスンをしたりしています。
担当者がキャラクターとして登場

宮本:取り組みを通した感触はいかがですか?
田嶋:「ここまでお客様はスピーディーに反応してくださるんだ」というのが、一番大きな印象です。正直、始める前は反応がなかったり、こちらからの提案に懐疑的なコメントばっかりだったりしたらどうしよう、と気弱な部分がありました。
実際には、こちらが問いかけると非常に早くお声をかけていただける。以前、インセンティブを提供してお客様のコメントを集めたこともあるのですが、コミュニティの会員の場合は、インセンティブがなくても、教えてと素直に尋ねると返してくださる。
私と、商品企画の湯地ともう一名が運営としてコミュニティに参加しています。私は「たじー」と名乗っているのですが、アンケートをお願いすると、3日で200件の回答が集まる。「たじーが言うなら」と反応してくださるかたもいらっしゃいます。このような関係が築けたことはこれまでなかったですね。
湯地:私は商品企画担当の「ゆってぃ」として参加していて、商品の説明をすることがあるのですが「ゆってぃが説明するなら買ってみよう」という反応をいただけています。オフ会でも直接合った際にも、「ゆってぃが言っていた商品を買ってみたけど、よかったよ」といった声を直接いただけたことは、単純にうれしいですね。
また、早い段階でフィードバックをいただけることもありがたいです。商品の色やパッケージのランキングを通して、エスプリークが好きなかたに響いた要素を知ることができるので、次の商品企画につなげられていると感じています。
宮本:ブランドの担当者が表に出ることにハードルの高さは感じませんでしたか?
田嶋:今でも気恥ずかしさや気負いは感じています(笑)。ですが、私の役回りはコミュニティをアットホームにして、エスプリークを身近に感じてもらうことですから、頑張っています。
直接、毎日コミュニケーションを取る中で見えてきたこともあります。例えば、会員の化粧品や色の好み。プレゼントキャンペーンの際には自然と「この人はこのカラーを持っているようだから別のカラーをあげよう」など、細部までこだわることができるようになりました。非常に些細なことですが、そこから伝わることもあるのではないかと思います。
フィードバックの観点では、リアルタイムに生の声をいただけることの大きさを感じています。TVCMでは、効果測定の調査の結果が放映の約1.5か月後にわかります。時間もコストもかかる。もちろん重要な調査ですが、CMを放映したらすぐに反応をしりたいというのが現場の正直な声です。
コミュニティを運営することで、リアルタイムでお客様の声を聞くことができるため、その後のプランニングにもどんどん反映させられています。実際に、CM放映初日に20~30件の書き込みをいただけています。
しかも単純に褒めてくださるだけじゃなく、悪い点や「ここが微妙」といった引っ掛かりを正直に伝えてくださる。例えば、2016年2月にはポイントメイク・化粧下地・パウダーファンデーションの3本のCMを流しました。ポイントメイクのCMはブランドの世界観をアピールし、残りの商品CMは機能紹介に寄せました。機能に寄せたほうが印象に残るし、コンバージョンにも結びつきやすいと考えていたのですが、実際の声を聞いてみると、ブランドの世界観をアピールした方が好印象だとわかりました。そこで、プランニングしていた商品CMの内容を検討し直しました。リアルなファンの声は制作チームとの打合せでの検討材料の1つにもなります。