マネタイズなくしてジャーナリズムの存続はない
押久保:今ご指摘のあったマーケティングの部分は、強く共感します。今後は紙でもWebでも、どこに読者がいて、どう売っていくかの発想が編集者にもなければ立ち行かない。そのお考えは、新卒で事業開発などに携わられた経験も活きているのでしょうか?
瀬尾:そう思います。加えて、ずっとジャーナリズムの世界で仕事をしてきた身としては、2008年前後に相次いで月刊総合誌が廃刊したことも大きかった。月刊現代もしかり、他社でもですね。僕らはその中で、いったい次の世代に「なにを残したいのか」を考え続けました。
ジャーナリズムやノンフィクションの世界では、金儲けのことをあまり言いません。でも結局それが廃刊の要因になる。しっかりとしたビジネスモデルがなければ継続できないと、紙メディアでの創刊を含めて検討して立ち上げたのが、現代ビジネスでした。
先ほどの「なにを残したいのか」を突き詰めると、やはり当社の役割は、いい書き手を育て、質の高いコンテンツをつくって世の中に刺激を与え、よりよく変えていくことだと思ったのです。そのためには、よい書き手に高い原稿料を払える仕組みが必要です。それによって、新しい才能も集まります。

押久保:するとまたコンテンツの質が上がり、書き手が育つと。
瀬尾:そう、好循環が生まれます。いろいろなビジネスモデルがあっていいと思いますが、僕らが目指すのは、制作費を抑えてバズを起こす記事の量産ではないんです。
質の高い記事で知的な読者を集める『現代ビジネス』
押久保:今、『現代ビジネス』やサッカー総合サイトの『ゲキサカ』が非常に好調だそうですね。それから先日は『クーリエ・ジャポン』を紙から有料Webメディアへと移管されました。
瀬尾:それらに40代男性向けのファッションサイト『FORZA STYLE(フォルツァ・スタイル)』を加えた4つのWebメディアを、僕のほうで見ています。これらの展開の根底にも、サステナブルなマネタイズと、よい書き手を育ててコンテンツの質を高める発想があります。
押久保:特に現代ビジネスは、ジャーナリズム系サイトとして30代前後の若い読者を捉えていますよね。現在のPVと、マネタイズの状況をうかがえますか?
瀬尾:瞬間風速的には、月間5,000万PVを超えています。ただ、前述のようにバズること、PVやシェア数をKPIにしているというよりは、当初からコンテンツの質で差別化してきたつもりです。読者の数は、そんなに多くなくてもいい。むしろ、自分たちがターゲットとする読者にしっかり支持されるように、政治や経済の硬めの話題、なおかつ質の高い記事を提供し続けてきました。
こういう情報を好み、また必要としている人は知的好奇心が強く、結果的に企業内で意思決定にかかわるような立場の人が多い。おのずと、ベースである広告モデルでも高い広告を入れることができます。それで高い原稿料が払えて、質がさらに高まり、読者が増えていった。そのモデルが今とてもうまく回っていますね。