「離脱しそう」なクライアントもデータで可視化
押久保:牛田さんは、MAツール導入の背景は?
牛田:今、僕らが注力しているのは『Airレジ』の事業で、店舗やスモールビジネスなど現在23万アカウントを突破しています。このアプリは単にレジの簡易化だけでなく、売上分析や顧客管理、それまで構造化されていなかった情報もデータ化できるので、僕らからマーケティングや経営まで加味した提案・支援が可能なんです。
ただ、当社の3,000人の営業スタッフと23万アカウントの管理は相当難しく、最適なコミュニケーションを可視化するために、MAツールを導入しました。

押久保:その効果はどうですか?
牛田:現時点で、かなり解決しています。営業スタッフの勘や経験も大事ですが、やはり「このクライアントが離脱しそうだ」といったことがすべて見えるので、より適切に支援しやすくなりました。僕からお二人に質問ですが、MAツールのような仕組みの導入における費用対効果を、どうお考えですか?
伊佐:僕らはマーケティング費用に対する効果をCAC(カスタマー・アクイジション・コスト)、見込みユーザーの醸成にかけられる費用と、LTVで見ています。MAツールも、これらとのバランスですね。ツールの導入や運用の費用対効果は測れない部分もありますが、測れるところは徹底的に測り、あとはインフラコストとして、全体の売上と比較して捉えています。
柿野:当社は外資ということもあって、細かく測るというより、年間5つほどのクラウドサービスを試しては絞り込んでいくのが普通ですね。最後まで残るのは、ひとつくらいです。
ディープラーニングにより96%の精度で売上予測
押久保:今のお話は2つ目のテーマ、テクノロジー活用推進のポイントにも通じますね。もはや事業全体を見通して「経営資源をどう使うか」という発想が必要になり、ますますマーケティングが“経営ごと”に近づいてくると思います。牛田さんはどうお考えですか?
牛田:先ほどのコストの考え方も含めて、まさに経営がすべきことが変わってきていると感じています。もっとも大きいのは、情報の活用です。
今、営業スタッフが積み上げる数字をシステムにディープラーニングさせて、広告売上を予測していますが、約96%の確率で当たるようになっています。手計算より、圧倒的に精度が高い。すると、1カ月や3カ月後の数値を踏まえて打ち手を考えられるので、起点が具体的な分、その内容も深まります。
さらに、営業担当が個別に話した内容など、非構造情報のデータ化も進めているので、当社はますます「データありきの経営」に近づいています。それを受け入れられるか、あるいはデータ活用が当たり前の現場マーケターを正しく評価できるかという、経営に求められる素養も変わっています。
伊佐:経営でも、いちマーケターでも、テクノロジーの活用には人の素養も非常に重要ですね。すごいスピードでの進化にも、前向きになれないと。
柿野:同感です。私はマーケティングとは「プロセス全体におけるボトルネックポイントを解消すること」だと思っていますが、そのボトルネックは一般的なマーケターの管轄以外にも各所にあります。なので、マーケターは幅広い知識を備えた上で、営業やサポートなど各セクションに入り込んで問題を解決しなければいけない。プラットフォームも大事ですが、コミュニケーション力も必要。そのバランスですね。
