成功例はカルビー「フルグラ」
この「生活欲求」を高めることで、市場の急拡大に成功したケースが、カルビーの「フルグラ」でしょう。

近年の大ヒットで注目される「フルグラ」ですが歴史は長く、実は発売されたのは1991年。20年以上も前です。当時の商品コンセプトは「朝食から、働く日本女性の健康をサポートする」というもので、日本初の「朝食用・フルーツグラノーラ」としてデビューしました。
他にはない「ザクザクとした食感」と「栄養バランスの良さ」という商品面での完成度の高さから、フルグラは市場で一定のポジション(年商30億円台)を獲得したものの、そこから伸び悩みの状況にありました。その「フルグラ」が、ある方向転換によってマーケットで急成長をとげ、2012年から2015年までの間に年商を200億円にまで拡大することに成功したのです。この要因こそが、前述の「生活欲求」のシフトにあると私は考えています。
脱・シリアル、「日本人の朝食の課題を解決」する食べ物に
では「フルグラ」は一体何をしたのでしょう? 具体的に「フルグラ」が行ったのは「脱・シリアル」。つまりターゲット市場を「シリアル」でなく「朝食」に置き、年間250億円のシリアル市場内での競争・シェアゲームから、17兆円とも言われる朝食市場に打って出て「日本人の朝食の課題」を解決するソリューションとして「フルグラ」を置いたのです。
このことを今までの話におきかえると、「フルグラ」はその商品性の高さを武器に「購買欲求」、すなわち「シリアルを摂るならフルグラが美味しさも・栄養も一番」という認識づくりに注力するスタンスから、このブランドのそもそものビジョンである「朝から、日本女性の健康を応援する」に立ち返り、消費者の「朝食をもっと良い物にしたい」という「生活欲求」を充足する商品へと大きくリ・ポジショニングを図っていったのです。
またコミュニケーション活動においては、より良い朝食を構成するパートナーとして他の食品との「オトモダチ」戦略を打ち出します。カルビーは「ヨーグルト+フルグラ」「パンケーキ+フルグラ」という新たな食ライフスタイル提案を次々と打ち出していきます。
自社商品発の考えであれば「ヨーグルト」や「パンケーキ」を広義の競合と捉え、意地でも「フルグラ+ミルク」を提案したくなりがちです。しかしカルビーは、消費者の朝食に既にポジションを占めているヨーグルト・パンケーキと「朝食を良くしたいという生活欲求」を解決するタッグを組んだ展開をすることにより、結果的に単独での活動よりもスピーディーに「フルグラは朝食に最適な商品」であるという「購買欲求」喚起を最大化することに成功したのです。
確かに商品自体の競合に対する優位性は非常に重要です。ただその際に「他の商品より優れている」一辺倒ではなく、その商品が消費者の「生活欲求(課題意識)」をそもそも喚起できているのかということ。そして競争優位性だけでなく、「生活欲求」を充足するのに、その商品が最適であるという「購買欲求(その商品による解決意欲)」喚起がキチンとなされているのかに目を向けてみることで、新たに市場を拡大していくチャンスがあるのではないかと思っています。
次回は「“買ってくれない理由を見つけ、充足すれば売れる”というセオリーからの脱却」です。ぜひご覧ください。