将来、電力を制するものが広告業界を制す

――最後に、今後の業界の先行きについて、ご助言いただけますか。
有園:今年の秋から、HAROiDがテレビ局向けのDMPを提供するという話がありましたよね。そのDMPにはテレビの視聴データが蓄積され、ネット広告配信のターゲティングなどへの活用が期待されているのですが、同時に膨大な量のデータを保有することになります。
例えばYouTubeの動画データを有するGoogleは、巨大なデータセンターを保有しています。一方で、日本で莫大なサーバーを有する企業の話は聞かないですよね。その理由は簡単で、日本の法人電気代はアメリカのおよそ3倍も高いから。アメリカは電気が安い国の一つだからこそ、企業がサーバーを持って大量のデータをためることができ、国際競争力が高くなる。AmazonのAWSも、その一つですよね。そしてGoogleも、スマートグリッドをはじめ、電力事業に手を伸ばしています。
大量のデータを保有して、それをAIで分析する際には、ゆくゆくは一番安く電気を調達できる企業が低コストでいち早く結果をクライアントに提示することができるようになり、競争力が高くなるのではと考えています。広告業界はかつてはメディアの枠をいかに押さえるかが勝負の要でした。それが最近では「データを制するものがビジネスを制す」といった認識が広まりつつありますが、「データを押さえる」というのは、結局は電力を抑えることになるのではと。なので電通さんも電力事業に取り組んでもいいのではないでしょうか。
松永:長期的に考えると、必然性は感じるのですが……なかなかすぐには難しそうですね。
有園:10年後、20年後に勝ち残るために、電力を押さえるという視点は重要です。Googleの元社長の村上憲郎さんも今、スマートグリッド事業を担う企業の社長になっていることも、その必然性の裏付けになるのでは。
松永:結局のところ、デジタルデータは電気情報なので、最終的には電力に集約されることは認識しています。本当のグローバルプレーヤーはそれに気づいて、すでに動いていますよね。
有園:昔は検索データを出すために一晩かかったり、前日のデータが翌朝にならないと戻ってこない時代もありました。もし電力を3倍食うけれども圧倒的に早く動くCPUがあれば、最も安く電力を供給できる企業が素早くデータを返すことができるようになるのでは。すなわち、電力を安く大量に使える企業が勝ち残る。すごく単純化して話すと、こういうことです。事実として、サーバーで大量にデータを持っているGoogleや、Facebook、Amazonが強い理由はそこにあります。
松永:有園さんがおっしゃることはよくわかります。将来的に、知恵で勝負する世界を凌駕してしまうということですよね。50年後、100年後を想定して、有園さんのように会社の継続や立ち位置について考える視点、広い視野も重要ですが、同時に今向き合っている課題の解決に向けて戦っていく視点も大事です。有園さんにはその両方を見据えたアドバイスをいただければありがたいです。
――今日は貴重なお話しをありがとうございました!今後の電通デジタルの展開がさらに楽しみです。