情緒に頼りすぎていないか
連載2回目でも申し上げましたが、今でも数多くの日本企業が、自社商品の“機能・スペック面での優位性“を伝えれば何とかなる、という前提でマーケティング活動をしています。消費者が「モノが買われにくい・モノを必要と感じていない」現在、よほどのイノベーションがある商品・サービスでなければ、消費者が「買いたい」という気持ちになりにくいことはいうまでもありません。
この状況の中で、多くのマーケターがたどり着きがちなのが「“機能”では差別化できないから“情緒・イメージ”で差別化しよう」という発想です。自社商品を使うことで「いかに素晴らしい生活になるか」とか、自社商品が「消費者にとって、いかに好ましい存在か」といったことを伝えるのが、このアプローチに当てはまるかと思います。
最近の動画ブームでよく目にする「笑える動画」「泣ける動画」などは、まさに“情緒・イメージ”アプローチの発展形だといえるでしょう。では、このように“機能・スペック”から“情緒・イメージ”に切り替えさえすれば、自社商品に対する消費者の「認識」を転換し、より「買いたい」と思ってもらえるのでしょうか?
私自身も最近、動画を含む“情緒・イメージ”アプローチで話題のコンテンツは必ずチェックをするようにしており、それぞれ「面白い」「感動した」と感じます。ですが接触して、「これは、商品を買いたくなる」と思えるものの割合は極めて少ないといえます。またKPIについて「PV」や「再生回数」で語られることがほとんどで「売上」で語られることが極めて少ないことも、この疑問を強くしています。
そんな中、以前から積極的に「動画」のキャンペーンを数多くトライアルしているメーカーの方のお話を聞く機会がありました。このメーカーの動画は非常にクオリティーが高く、いつもネット上では話題になり、何百万PVは当たり前。1千万PVを超えるものまで数多く存在しています。周囲から見れば、今話題の「動画」で機能偏重から脱出した情緒的なアプローチで成功しているメーカーに映りますし、私もそう思っていました。
ところが、そのメーカーの方の言葉は、意外なものでした。曰く「確かに動画自体の評価は高く、ブランドの“名前”を改めて思い出してもらうことはできました。一方でブランドに対する認識や、“売り場”での商品の動きにあまり変化がないので、営業からはとても厳しい評価なのです」
私は改めて「単に手法としての新しさだけを追求しても、モノが売れない現状を打開するには足りないのだ」という意を強くしました。では、売上につなげるためにはどうしたらよいのでしょうか?
大事なのは「顧客視点」での「知覚品質」を考えること
消費者に「買いたい」と思ってもらう訴求方法として重要なことは「機能がよいか/情緒がよいか」というレベルではなく、その商品が実際に買われている理由(=購入のドライバー)になっている価値を、消費者が直感的に把握・強く実感できるように伝えられるかではないかと考えます。
つまり、その商品を購買したいと思う品質である「知覚品質」は何なのか、こそが重要なのです。この「知覚品質」という言葉は昔から存在しています。マーケターであれば聞いたことがあるとは思いますが、一方で「知覚品質こそが重要」という認識は定着しなかったように感じます。ただし、大ヒットした商品は「知覚品質」がキチンと担保されていることが多いと言えます。
例えば、昔で言えば、ビール飲料のアサヒ・スーパードライは「仕事で成功した後のビール」という、世のサラリーマンが「それはウマそうだよね」と感じるシーンを設定し、市場のトップに立ちました。またしばらく前になりますが、永谷園のお茶漬けの「ただ今、お茶づけ中」というコピーで、男性が電話にも気付かず、一心不乱にお茶漬けをかき込むTVCMが話題になりました。
当時すでにロングセラー商品だった永谷園のお茶漬けが、改めて世間から注目されたわけです。これも「脇目も振らず、お茶漬けを一気に平らげるスピード感」がお茶漬けならではの知覚品質を担保し、強烈な「食べたい」という欲求を喚起したケースでしょう。