出稿主、媒体社、ユーザー、三方よしの広告メニュー
サービスメニューの名称を知らずとも、多くの人がYahoo! JAPAN上のコンテンツでたびたび巡り合っているのが「Yahoo!コンテンツディスカバリー」(以下、YCD)だろう。
YCDとは、「Yahoo!ニュース」と、そのメディアパートナーのページ下部に“おすすめのリンク”として配置された、モジュール枠のこと。枠内には、ユーザーもしくはそのページへの関連性やデバイス、視聴タイミングなどを勘案し、Taboola(タブーラ)社によるレコメンド技術によってコンテンツが並べられる。
YCDは、コンテンツ出稿側にあたる企業(出稿主)は自社コンテンツへの集客に、媒体社は自社のコンテンツ内への回遊に、エンドユーザーは自分と関連性の高いコンテンツとの巡り合いに、いわば三方よしとなるメニューである。スモールビジネスから大規模案件まで、低価格帯からも始められることから幅広い業種業態で利用できるのがメリットだ。
「コンテンツの流通プラットフォームとして広告主と媒体社さんの間でのマネタイズ提供の機会にもつなげてほしいサービスです」(宇都宮氏)
2015年、ヤフーにコンテンツマーケティング事業本部が設立され、同年にYCDが登場。以来、積極的にマーケティングソリューションとして活用してきたのが、コンタクトセンターやデジタルマーケティングにまつわるサービスを提供するトランスコスモスである。同社の取り組みの成果は、2017年現在、西日本でトップクラスの業績にもあらわれている。
CPAやCV起点一辺倒と一線を画するソリューション
なぜトランスコスモスはYCDの販売に注力するのか? 同社で名古屋以西の西日本のクライアントを担当し、デジタルマーケティングのコンサルティング並びに一部門のマネージメントを司る小寺弘剛氏に聞くと、「CPAやコンバージョン(CV)起点になりがちのデジタルマーケティング手法に一石を投じるアプローチだから」だと語る。
「CPAやCVの最大化だけを追って、リスティング広告やDSPでセールス色の強い広告アプローチを続けていては、デジタルのポテンシャルを活かし切っているとは言えず、そもそも限界がありますよね。西日本はCPAをKPIに据えた全般的に売りの要素が強いアプローチが好まれやすいなかで、直接的な売りとは異なる広告手法の重要性や効果を“具体的に”訴えるのに、YCDはとても説得力のある仕組みであると感じました」(小寺氏)
結果に対しシビアなクライアントを前に、直接的なセールス寄りだけではない、商品に対する意義がきちんと伝えられるような訴求方法として目を向けてもらえたら、と奔走する。
「他のアドネットワークを使った広告メニューでも、類似サービスがないわけではありませんが、国内一の集客力を持つYahoo!ニュース上に配信できるインパクトは絶大。だからこそ成果ドリブンのサービスとして注力しています」(小寺氏)
クリックした後もユーザーが違和感を抱かない
2015年のサービスローンチから1年半が経過し、ヤフーは現状のYCDについてどう考えるのか。宇都宮氏は、サービス初期から一貫して「企業からのニーズが高まる」と確信していたという。その理由に、昨今におけるネイティブ広告文脈との関連性を指摘する。
「Webサイトを見る際、広告だとわかるUIを目にすればユーザーはクリックしてくれません。仮にクリックする人がいてもごくわずかです。そのなかで、ヤフーの検索連動型広告『スポンサードサーチ』は広告だとわかっていても、よくクリックされている事実もある。場合によっては自然検索の結果よりもクリックシェアが高いことも見受けます」(宇都宮氏)
つまり、“広告だからクリックされない”わけではない現実がある。なぜ広告でもクリックされるのか? それはユーザーが求める、有益な情報を提供できているからである。
「ヤフーが展開する検索連動型広告の反応が高いのは、クリック後にユーザーが違和感を持たないUIを担保していることも挙げられます。YCDもしかりで、ユーザー体験を損ねずセールスを前面にしたコンテンツが出ないように、審査は厳格です。クリック後も、それまでの自然な体験を継続してほしいからです」(宇都宮氏)
「西日本に強い」ことを示す関西地銀の事例
そこで知りたいのが、西日本でトップクラスの業績を誇るというトランスコスモスが、実際に手がけている事例だ。ここでは、2点の事例を紹介する。1点目は関西地区の地方銀行が行った、金融商品の認知拡大施策である。
この地方銀行では、まずトランスコスモスからのYCDの提案を受けた後に、様子見の期間を設け、他の事例の状況をつぶさに確認した後、ある程度の感触を想像できた段階を待って正式に導入した。
その判断は見事に的中し、非常に大きな成果を挙げる。実施前後を比べると、「企業ブランド名」と「商品」を組み合わせたYahoo! JAPANでの検索数が1.6倍、CV数が1.7倍に飛躍。同時期はYCDだけを新たに展開していて、テレビCMなどを一切実施していなかったことと、他に導入したソリューションもなかったことから、伸びた分がそのままYCDによる貢献だと推測できたのだ。
「たとえば“マイカーローン”商品について、“マイカーローンとは?”という、直接的な商品説明のコンテンツは用意しません。“マイカーを買わなければならない状況”や“マイカーの選び方”になど「関心テーマ」に関する情報を主軸にしたページを提供し、多くのユーザーの遷移を生み出し、そこからCVを生み出しました」(小寺氏)
ヤフーのプロダクト設計が緻密になされているため、遷移後のUIに戸惑うユーザーが少ない。よってユーザーは、地銀のドメイン上に移ったとわかっても、それまでと地続きのエクスペリエンスであり、関連性を感じるコンテンツとして享受できるのだ。
コールセンターとの連携を実現した「重要なお知らせ」としての活用
YCDは、商品やサービスの認知施策やプロモーションの他にも、有効な活かし方がある。そのことを示す事例が、トランスコスモスが手がけたもう一つ、某電機メーカーの施策だ。
みなさんも、テレビCMや新聞広告で、各社電機メーカーが商品に関する点検や回収を訴える内容を見たことがあるだろう。Yahoo!ニュースのトピックスに取り上げられることでもときどき目にする、あの“重要なお知らせ”をYCDで実施すると、テレビや新聞とは違った、継続性の高い有効なフィードバックが得られるという。
某電気メーカーの場合、過去に新聞広告を用いて告知をした際、電話問い合わせが増えてもWebへのアクションがほぼ無かったそうだ。一方、YCDを活用すると、通常どおりに電話での問い合わせが入りながら、Web to Webでの問い合わせが飛躍的に増加したという。
「弊社にはコールセンター事業部があり、この事案の問い合わせの窓口も承っていますが、新聞広告や折り込みチラシは数を重ねるとレスポンスが下がる傾向があり、状況打開と改善が大きな課題でした。2016年10月からお取り組みが始まりましたが非常に効果が高く、2017年春時点でもコンスタントな結果を残し続けています」(小寺氏)
ヤフー側も、企業が届けなければならない「大切なご案内」に活用できる仕組みとして、1年前から周到な準備期間を設けて温めながら、見事に実った初の施策だったと宇都宮氏が述懐する。
「テレビCMや新聞広告が強く、デジタルがそれほど強くない領域に対して、コールセンターという武器が加わり新たな販路が開けました。これこそ、トランスコスモスさんならでは。実施後も、状況にあわせて原稿をチューニングするなどクリック率が下がらないこまめな配慮を欠かさないので、品質スコアを保ちながら、継続的にシナジーを生む施策へと育ったと考えます」(宇都宮氏)
クライアントファーストなサービス特性で業績向上へ
この“大切な告知施策”は、トランスコスモスとヤフーが日ごろから連携を深め、某メーカーには両社が揃って最終提案の場にも伺ったそうだ。YCDという広告メニューの新たな可能性を両社で一緒に作り上げてきたといえる。
こうして既に数々の成果を生む、YCDを巡る両社の今後には、さらに大きな期待が寄せられる。
「西日本全般では、コスト意識が高いクライアント様が多いなか、例えばブランドパネルのような価格規模と異なり最低出稿金額が26万円(手数料込み)のYCDは、スモールサイズからトライできる点でクライアントファーストともいえます。
YCDが難しいのは、導入初期から一定のインプレッションがないと、品質スコアが下がり表示されづらくなること。だからこそ、ここまでの知見で得たロジックを活かせる弊社が、多くのクライアントにベネフィットを提供したいのです」(小寺氏)
「UI改善といった管理画面およびレポーティング機能に対して、さまざまな代理店から要望もいただいています。機能で改善できる点は鋭意チューニングしながら、時間がかかる分は人を介したフォローアップ体制で対応します。その上で、今後はビッグデータを活用しCRMとレコメンドを連携した配信を強化したい。現状も、たとえば普段広告をクリックしないというユーザーに向けた表示も可能です。こうした、届けたい情報をきちんと相手に届けられるチャネルへの進化を目指します」(宇都宮氏)
先例のない事例を作り上げてきたトランスコスモスとヤフーの2社を通じて、2017年以降も新たなYCDのソリューションが誕生することに注目したい。