購入ベースCRMの発想の転換が大きなハードル
「約1年かけてようやくCRM戦略を策定でき、今まさに実装を進めているところです」と塩谷氏。手始めに、公式アプリへのロイヤリティプログラムの導入に取り組んでいる。購入時点だけでなく、検討段階の情報や購入後のSNSでの行動なども把握して、優良顧客の把握と安定化を図るという。

ここまで漕ぎ着けるのに、どういった点がハードルになったのだろうか? 伴氏の質問に対し、「実は社内のマインドのリセットが難しかった」と塩谷氏。「これまでの、購入データを元にしたCRMの発想が社内に根付いていたため、奥谷さんに来社いただいて、購入前後を含めた『顧客時間』という考え方が重要なのだと経営層にプレゼンしてもらいました。経営層の理解を得られ、戦略の転換の概念図もしっかり描けるようになりました」(塩谷氏)
同社の事例を踏まえ、リアル店舗を中心とする企業のCRM実践として、奥谷氏は「現場のスタッフがデジタル施策の価値を理解し、積極的に使ってくれるかどうかがとても大事」と指摘する。実際に塩谷氏も「確かにそうした側面がある」と語る。
「当社だと、LINE経由の店舗送客の影響がとても大きく、全国の店舗スタッフがデジタルの力を認識したことで、デジタルCRMへの現場の理解はかなり進みました」(塩谷氏)
IoTやAIも視野に、顧客の心地よさを実現する
ここまでの話を踏まえて、伴氏は「飲食業以外にも顧客時間の考え方は非常に有効」と語る。オプトでのコンサルティング事例では、アパレルや不動産、旅行などの業種にも適用し、顧客時間における各時点で何を解決すれば、気持ちよくできるかを考えているという。

また、デジタルで取得できるデータの種類や量が増えている今、注目するのは「ターゲットとモーメント」と伴氏は提案する。
「両方の視点を持つことで、今までよりも精緻に顧客の行動を把握することができます。顧客のロイヤリティを含めたターゲティングと、位置情報やシェアした瞬間を捉えたモーメントの情報の使い方が、さらに重要になりそうです」(伴氏)

顧客データの取得や活用の仕方にも、現在はDMPやMAといったツールの導入が進んでいる。さらにこれからのトレンドとしては、IoTによるモノからのデータ取得や、AIを活用したデータ処理などが、エンゲージメント構築の味方になりそうだ。塩谷氏は「CRMの考え方は、それこそ商店街の八百屋さんにもあるもので、新しい概念ではありません。我々としては、顧客にとって心地よいCRMを前提に、それを実現できる策は何かという視点でテクノロジーを取り入れていきたいと思います」と語る。

奥谷氏も、IoTやAIによって広がるCRMの可能性に触れながら「企業のアプローチの先にいるのは、生身の人。その情緒的価値に訴える一助としてデジタルCRMを捉えてもらえればと思います」と語り、講演を結んだ。