海外のスポーツマーケティング事情は?
平地:続いて、スポーツマーケティングの「これから」について語り合っていきましょう。ここはSAPの濱本さんにお伺いしますが、プロアイスホッケーリーグの「NHL」ではSAPのマーケティングソリューション「SAP Hybris」を導入し、デジタルマーケティングに取り組んでいますよね。

濱本:そのとおりです。NHLはアメリカ4大スポーツの中で最も売上が低いといわれていますが、Jリーグの収入規模よりもはるかに大きい規模になっています。かつ特徴的なのが、デジタルにおける責任者を置いている点です。
Jリーグでは、デジタル領域の責任者を置いているチームはまだありません。日本の一般事業会社でもデジタル部門を設置している企業はまだ少ないのではないでしょうか。
海外企業ではデジタルの責任者を置くところが多いのですが、プロスポーツも同様です。NHLは、日本の中堅規模の会社くらいの売上を持っているので、来場者の皆さんと同じ発想で、デジタル上でいかにファンを増やすかについて考えています。
平地:NHLではどのような取り組みを進めているんですか?
濱本:NHLのWebサイトやチケット販売サイト、ECなどを運用し、そこで得られたデータをもとに、ファンのセグメントを作り、それぞれに適したアプローチを行っています。デジタルマーケティングの進め方としては王道ですが、徹底して行っているプロリーグはまだまだ少ないのではないでしょうか。
求められるのは、リアルな体験を向上させること
平地:スポーツの醍醐味は、やはりスタジアムでファンが選手や他のファンと共に「その場でしかできない体験」を共有することにあると思います。そこで今注目されているのが、ITを活用して体験価値を向上させるスマートスタジアムですが、これについてはいかがですか。
濱本:チームやリーグ目線で考えると、やはり来場してくれるファンに対し、アプリなどを通じてより良い体験やサービスを提供したいという思いはあると思います。たとえば、BリーグではiOS/Android版で「B.LEAGUE公式アプリケーション」を提供しており、来場者へのサービス充実に努めていますし、アプリを通じてチケットも購入できるようになっています。
ただ、アプリで「チケットを購入した人」がわかっても、そこから「実際に足を運んだ人」を特定するのは難しい。今後求められるのは、アプリにチェックイン機能を導入し、その利用を促進することだと思っています。例えば、チェックインをしてもらうことで、たとえば「どこのトイレが空いているか」などの情報を渡すこともできますし、細かい部分で体験の価値が上がると思うんですよ。千葉ロッテマリーンズさんでも来場後の動きを分析する動きは進んでいますか。
小林:球場にビーコンを置いて、来場ユーザーの動きを分析しようという動きはあるのですが、まだチェックイン自体の利用が増えていないので、これからというところですね。チェックインを促すために、チェックインすることで参加できるイベントなどを考えています。

平地:まずスタジアムにきてもらうまでの施策があり、その先に来た人の体験価値の最大化があるのですね。やはりスポーツマーケティングの根幹は良いユーザーエクスペリエンスの提供にあり、それをどう設計するかがこれからのスポーツマーケティングの鍵になると思います。そこを私や濱本さんのような企業と、小林さんをはじめとしたプロスポーツ球団、リーグが協力して着実に取り組みを行っていきたいですね。
