コミュニケーションの頻度と内容をコントロール
さて、ここからは、オイシックスがMAを通じて顧客中心のコミュニケーションを実現するために、どのような取り組みを進めてきたかを見ていこう。まず紹介したいのが、コミュニケーションの頻度と内容のコントロールである。
「以前は、『水の定期宅配』や『母の日ギフト』といったチームごとに曜日を割り振ってメールを配信しており、売上を立てるために一日に何度もメールを送ることがあったために、オプトアウトが頻発していました」と米島氏は振り返る。
曜日ごとに各部署が独自の判断でバラバラにメールを配信していたため、顧客にとって一貫性のないコミュニケーションとなっていたのだ。そこでオイシックスは、CMOが一元的に各チームのコミュニケーションを俯瞰して管理することにし、メールの頻度やクリエイティブをコントロールして、顧客のオプトアウトを防ぐようにした。
配信するコンテンツを絞り込むと、担当するキャンペーン情報の告知機会が減って売上を落とすチームも出てきたため、メールを減らす場合はサイト内バナーの露出量を増やすなどして、各部署間の利害関係を調整した。
「顧客視点でのコミュニケーションが大切」だということを否定する人はまずいないが、それを組織として実現するのは簡単なことではない。顧客視点を各チームに浸透させるためには、チームごとの目標設定やアクションプランをよく理解・調整し、顧客満足に集中できる体制を作ることが重要になる。この体制ができたことで、オイシックスは顧客視点の「接客」を実現していく土壌を整備できたのだ。
「最適化のしやすさ」を軸に施策をデザインする
オイシックスは、顧客中心のコミュニケーションを追求する文化を組織の隅々まで行き渡らせた上で、コミュニケーション施策を「最適化のしやすさ」に配慮した構成にして、PDCAサイクルを回しやすくする工夫をこらした。
具体的には、シナリオの分岐を無闇に増やさないようにした。施策の最適化のためには、定期的な見直しが必要になる。いわば、施策の「棚卸し」だ。シナリオの分岐が多すぎると、見直しの対象から漏れて放置されるシナリオが出てしまう。結果として、施策全体の定期的な振り返りが困難になる。
米島氏は「MAを導入することでメールの数が増えたり、配信ロジックを細かく設定しすぎたりして、振り返りが困難になっては本末転倒です。そこで、オイシックスでは自分たちがチューニングできる範囲を決めました」と語る。
具体的には、シナリオの中でも初回のメッセージを中心に最適化を行うことに決めた。初回に送る文面をパターン分岐させるほうが運用しやすいし、全体への波及効果も大きい。このように、最適化のしやすさを考慮して全体の施策を設計することはMAを導入・運用する上で重要なポイントだといえる。