「顧客時間」の最適化を目指すオムニチャネル戦略
有機食品ECサイトを運営するオイシックスは、食品を週に一度定期的に配達するサービスを提供している。定期配達サービスはサブスクリプションモデルで、顧客に長く使い続けてもらうほど売上につながるだけに、顧客とのコミュニケーションは最重要課題だ。
オイシックス株式会社 経営企画本部の米島和広氏は「短期的な売上拡大を目指した『刈り取り』ではなく、お客様と企業のコミュニケーションを心地よいものにする『環境作り』を心がけ、長期的な関係を深めていくことが重要なミッション」と説明する。
オイシックスは顧客とのコミュニケーションを心地よいものにするために、オムニチャネル戦略を展開している。まずは、EC・メール・LINE・アプリ・SNS・オウンドメディア・店舗といった購買・コミュニケーションのチャネルを整備した。
さらに、上記のチャネルだけにとどまらず、「顧客が検討する期間」、「購入する瞬間」、さらには「品物の到着を楽しみに待っている期間」や「レシピをもとに料理をして食卓を囲むワクワクした瞬間」といった「顧客時間における全ての接点」をチャネルとして捉え、お客様の視点に立って最適化しようするところにオイシックスのオムニチャネル戦略の独自性がある。
このようにオイシックスは、すべての顧客接点を「オムニチャネル」と位置づけてそれぞれにおける体験価値を向上させて、顧客との長期的関係を築くことを狙っているのだ。
目の前にいるお客様をまず満足させることができるのか?
「オイシックスは、お客様一人ひとりの売上を伸ばすことで企業としての売上拡大につながる、という考え方をとっています。大切にすべきは、目の前にいるお客様一人ひとりの満足度を上げること。そのためにきめ細やかな『接客』の実現を目指しています」と米島氏は語る。
オイシックスの「接客」というコンセプトには、すべての顧客接点におけるコミュニケーションを細かい配慮の行き届いたものにしよう、という意志が込められている。
たとえば、味噌を定期的に購入する顧客がいるとする。味噌がなくなりそうなタイミングで味噌をリマインドするのは、技術的には簡単なこと。むしろオイシックスがこだわるのは、「リマインドをいつ表示するか」だ。
具体的には、「買い物を始めた段階で買い忘れ通知をしてしまうと、献立の想像力を妨げないだろうか」「買い物の終盤で通知したほうが心地よいのではないか」など、お客様の気持を配慮しながらコミュニケーション設計しているところに、オイシックスの「接客」の精神があらわれている。
この理想とする「接客」の実現に向け2年前に導入したのが、チーターデジタルが提供するマーケティングオートメーション(以下、MA)ツール「Cross-Channel Marketing Platform」(以下、CCMP)である。
MAは導入過程も大切だが、運用を通じてチューニングを重ね、理想のコミュニケーションに近づけていくプロセスも重要だ。次節から、オイシックスが具体的にどのような課題を意識してCCMPを活用していったのかを紹介していこう。
「顧客視点」のコミュニケーション実現のためにMAを使う
オイシックスはMAツールを導入するにあたり、「プッシュ・プル型の両軸で、顧客一人ひとりへの深い理解をもとにしたコミュニケーションを実現していく」という目標を立てた。実際にMAを使って、一人ひとりにあったコミュニケーションを設計するにはどうしたらいいのだろうか。
当初オイシックスは、顧客理解と最適な接客実現に向けて顧客一人ひとりのカスタマージャーニーを作成しようとした。しかし、顧客ごとにカスタマージャーニーを描いてMAのシナリオに落とし込むのは不可能で、結果として数本のシナリオを実装するのが関の山だ。これでは、一人ひとりにあったコミュニケーションとは程遠くなってしまう。
そこでオイシックスはそもそもの考え方を変えた。売り手目線で「商品の認知から購買決定までのプロセスを定義し、そのプロセスをMAで自動化する」という方針から、「コミュニケーションをより『顧客視点』に進化させる方法を探り、その実現のためにMAを活用する」という発想へと転換したのだ。